第15話 学園生活の始まり⑥
そして午後になり、場所は演習場。
シュヴァルツが早速私の異能について検証を始めようとしているのですが……。
「う~ん、俺がアデル君の相手をしたいところではあるんだが、既に俺の『正統なる王者の剣』は再現されてしまっているからな」
確かにシュヴァルツの"正統なる王者の剣"は完全に再現出来ていますからね。
検証にはなりません。
第二位階も再現出来るのか、という検証にはなるかもしれませんが、シュヴァルツの口ぶりからすると今の段階では考えていないのでしょう。
すると、私の直ぐ隣りから大きな声で手を上げる生徒が。
「はい! シュヴァルツ先輩! それでしたら、是非このガウェイン・ボードウィルにお任せ下さいッ」
「うん? ガウェイン君か。まぁ、同じ一年生同士だし、問題はないか。それでは――」
「ハイハ~イ! シュヴァルツ様。だったらボクもアデル君と戦いたいなぁ」
ガウェインにすんなり決まるかと思ったところに、屈託のない笑みを浮かべながら口を挟んできたのは、シュヴァルツの傍らに居たヴァイスでした。
ヴァイスはガウェインに視線を移すと、同じ口調で話しかけます。
「ねぇ、ガウェイン君だっけ? ここは先輩であるボクに譲ってくれない?」
「うっ……」
ガウェインが言葉に詰まるのも無理はありません。
天使のような微笑みに柔らかな口調。
しかし、瞳の奥から放たれている威圧は凄まじく。
威圧が私に向けられていないにもかかわらず、思わず警戒してしまうほどです。
それをまともに受けているガウェインの脳内では、お願いされているはずなのに命令されているように感じているのではないでしょうか?
「ど、どうぞっ。俺は次の機会で構いませんから」
「そう? 何だか悪いね」
ニコリと笑いながら謝るヴァイスでしたが――――こうなる事は分かっていたでしょうに。
まぁ、私としてはどなたが相手をしていただけるのだとしても、私自身の為になるのですから有り難い事ではあるのですが。
苦笑していると、対面にいたシュヴァルツも同じように苦笑いを浮かべています。
「さて、ではアデル君の手合わせの相手はヴァイスでいいかな? それでは――」
「――すまない。彼の相手は私に譲ってくれないか」
「えぇ~。せっかくアデル君と
ヴァイスが不機嫌な様子を隠そうともせずに声のした方へ視線を向けると、そこにいたのは身長百九十センチを超えるであろう巨体。
まさしく巌、と表現するに相応しい体躯の持ち主ですが、その顔立ちは寮以外でも見たことがあるような気がします。
「すまないな、ヴァイス。私も彼とどうしても手合わせをしたくてね」
「ん? レイ先輩がアデル君と? 何かあったっけ……って、あぁ! あった、あったね。うん、いいですよ。今回はレイ先輩に譲りま~す」
「すまないな、助かる」
「いえいえ~」
おや? やけにあっさりとヴァイスが引き下がりましたね。
彼の性格からして先輩であろうと、もっと粘るだろうと思っていたのですが。
何か理由があるのでしょうが……。
シュヴァルツがレイと呼ばれた生徒を見ると、ニヤリと意地の悪いような笑みを浮かべました。
「レイ、か。私怨ならば俺は許可しないぞ?」
「ふ、私がそんな男に見えるか?」
「フフ、まさか。
「雷帝はやめてくれ。"五騎士"に入れなかった俺には過ぎた名だよ」
シュヴァルツもレイと呼ばれた生徒も、何やら分かりあったような感じで話を進められているようで、私としては困るだけなのですが……。
「あの、シュヴァルツ先輩。私はそちらにいる先輩と手合わせをする、ということで宜しいのでしょうか?」
「あぁ、すまないね、アデル君。相手が二転三転してしまって申し訳ないが、今日は彼――レイと手合わせしてもらうことになった」
「レイ・アルヴァーン。シュヴァルツと同じ四年生だ。寮では一年生だけの自己紹介だったから、こうしてアデル君と直接話をするのは初めてだな」
「これはご丁寧に。レイ先輩、本日の手合わせ宜しくお願い致します。……ん? "アルヴァーン"と仰いましたか?」
差し出された手を握り返し、挨拶を交わす中で聞き覚えのある単語に気づいた私は、思わず聞き返していました。
「そうだ。君が先日倒したデリック・アルヴァーンは、私の三つ下の弟でね。今年入学してきたんだ」
「そうでしたか」
なるほど、言われてみれば確かにどことなく雰囲気が似ていますね。
弟のデリックと違って、兄のレイの方が完成された
先程、寮以外で見たことがあると感じたのは、どうやらこのせいだったようです。
疑問が晴れて納得していたところに、急にレイが頭を下げてきました。
「弟のしでかしたこととはいえ、アデル君には迷惑を掛けた。本来であればデリック自身が謝るべきなのだが、兄である私からも謝らせて欲しい。すまなかった」
「――頭を上げてください、レイ先輩。先輩も仰ったように、本来デリック君自身が謝るべき問題であって、先輩が私に頭を下げる必要は全くありません」
「だが――」
「それに、私自身は特に被害を受けたわけではありません。どうしてもというのであれば、本来被害を受けるかもしれなかったミーシャさんに謝って頂ければ、私としては十分です。あぁ、もちろん謝るのはレイ先輩ではなく、デリック君ですよ」
私の言葉に、暫し呆気に取られていたかのような表情をしていたレイでしたが、直ぐに冷静さを取り戻すと一つ頷きを返すと、次に何故か感嘆の声を上げました。
「君は本当に一年生かい? 随分としっかりしている。デリックにも見習わせたいくらいだよ」
「私などまだまだです。私などよりも見習うべき方は他にいくらでもいるかと思います」
「ははは! その嫌味に聞こえない謙虚さも素晴らしい。なるほど、シュヴァルツがわざわざ気にかけるわけだ」
「分かるか?」
「あぁ」
分かり合えたのが嬉しいのか、お互いに握手を交わしながら話を続けるシュヴァルツとレイ。
――ここは無駄に突っ込まない方が良さそうですね。
私は二人のやり取りが終わるまでの間、無言に徹することにしました。
◇
「さて、少々時間を取ってしまったが、アデル君とレイとで手合わせをしてもらうとしよう」
シュヴァルツの言葉に、中央の開始線にいる私とレイが頷きます。
「例によって審判はソフィア先生にお願いしている。――ソフィア先生」
「は~い。っとその前に。アデル君、昨日負った傷は大丈夫なのです?」
「え? えぇ、まるで夢では無かったのかと思ってしまうほど、綺麗なままでした」
「そうですか。それなら良かったのです」
ニパッと笑みを浮かべるソフィア。
ということは、気を失っている間にリーゼロッテのように私もお世話になったのですね。
「傷を治して頂き、有難うございました、ソフィア先生」
「先生として当然の事をしたまでなのです! お礼を言う必要はないのです。ですが、キチンと有難うを言えるアデル君は良い子なので、花丸をあげるのです」
「あ、有難うございます?」
ソフィア先生の思考はどのようになっているのでしょうか?
――不思議です。
「それでは二人ともいいですか~? ルールは昨日と同じなのです。それと、アデル君の異能の検証の為と聞いているので、レイ君の異能を再現出来た時点でも終了なのです! いいですね?」
ソフィアの言葉に頷きを返す私とレイ。
弟のデリックは身体強化の異能でしたが、兄であるレイの方はどうでしょうかね?
雷帝の異名が関係しているかとは思うのですが、実際に手合わせしてみないことには分かりません。
レイを見据える表情が引き締まっていくのが分かります。
私を見つめるレイの表情もまた然り。
気合は十分といったところでしょう。
お互いに待つのは、開始の合図のみ。
――そしてソフィアの声が響き渡りました。
「――――始めるのですッ!」
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