ラスト・ナイト2
大統領が言い放った後、右側のスーツの男が慌てて周りに聞こえるを耳打ちする
「被検体と言うのはお控え頂いた方が...科学者達には大統領の子と呼ばれています。」
「おお、そうだったか!これは失礼した。いつの間にか3人も子供が増えているとはな!ははは!我が子達よ調子はいかがかね?」
被検体と呼ばれたことを気にする素振りも見せず、リーダーであるサンがはきはきと答える。
「大統領、お目にかかれて光栄です!私はリーダーのサンと申します。こちらのレイン、クラウディアともに好調であります。」
言い終わったあと、三人は頭を下げる。
サンは大統領が来たことに驚いていた。あのトランプ大統領は効率主義、合理主義、利己的で有名である。わざわざ自ら戦線に一番近い基地に赴いてくることに疑問を感じていた。
「そうかそうか。明日のミッションはアメリアにとって非常に重要なものだ。そこで現地に赴く君達の顔を一度見たくて激励に来たのだよ。今は誕生日のお祝いをしていたのかね?」そう言いながらジャック大統領は、クリームとパンくずが少し残っている誕生日ケーキがあった皿と火の消えた蝋燭をを見る。
「はい、我々三人は本日で7年目を迎え19歳となり、その祝いをしておりました。」
そう言いながら、サンは疑問に思う。アメリアにとって重要?本当にそれだけか。この戦争においてアメリア最大の危機となったロズウェル事件や、本土に衛星ミサイルを撃ち込まれた時ですら家族との食事を優先するような男なのに・・・。
大統領はうむと頷くと
「それはおめでとう。ミッション前日に誕生日とはさぞかし奇妙な気持ちであろう。それでは...えーとなんて呼べばいいのかね。個人名ではなく部隊名は?」
「申し訳ありません!特に我々に部隊名はありません。」
「そうか。呼びにくいので何か考えおくことを進めるよ。さてサン君達、折角の機会だ何か私に聞きたいことや話たいことはないかね?誰でもいいぞ」
腕を広げて気楽にどうぞとアピールをする。
普通ならば大統領相手では少し質問をためらってしまう。しかし、クラウディアは凛とした表情で大統領を向き、はっきりと質問する。相手が誰であろうと臆することなく振舞えるのは彼女の強みだ。
「私たちはこの7年間いつでも出動できるように準備してきましたが、大統領の見事な采配により今まで出番なく、アメリアは明日に最後のミッションを迎えました。私達はこのミッションが完了すれば一般市民として自由になるのでしょうか?」
ジャック大統領はうーんと唸ってから淡々と答える。
「当然の質問だな。君らは少し特殊な部隊ではあるが、ただの兵士だ。訓練で鍛えてただけであり、機密情報を取り扱っていたわけでもない。だから答えはYESだ。ミッション終了後には好きなことをしたまえ。」
「了解しました。」
クラウディアは軽くお辞儀をする。ジャック大統領は次の質問を促すようにサンとレインを見る。サンは本当の目的はなんですか?と色々聞いてしまいたかったが、大統領自ら激励に来たここでする質問ではない。その場に合わせた適度な質問を口にする。
「我々のミッションが成功すれば、ロジアは綺麗なままアメリアのものになると聞いております。統治が落ち着いた後に、例えばロジアに観光や旅行に行くことはできるのでしょうか?」
「君も戦後のこととはミッションはクリアには自信があるのかな?気が早いじゃないか!ハハハ!。そうだな、旅行はできるとだけ言っておこう。どのように統治されるかについてはまだ公開する段階の情報ではないので発言を控えさせてもらうよ。ロジアに見たいものでもあるのかね?」
一瞬の間もなく旅行ができると答えられる辺り、既に頭の中では明日以降どう侵攻を進め、どのようにロジアを吸収するか算段はできているのであろう。
「いえ、先ほどミッション後について雑談していて旅行にでも行こうという話になり、ロジアには良い景色や酒があるというので、気になった次第です。」
「なるほど、ロジアに良い酒があると...。酒はいいものだぞ!私はワインやビールより日本酒が好きでね、旨いものはついつい量を飲んでしまうよ。しかし、良い日本酒は次の日に残らないのさ!君達はまだ19歳か。来年は飲めるといいな」そう語る雰囲気から大統領は酒好きであることが伝わってきた。
クラウディア、サンと大統領が会話をしたことで場が温まり、続けてレインが少し緊張しながら質問する。
「その、任務後には俺達はロジアを自由に出歩けるんですよね?俺達がロジア人に恨まれて闇討ち・・・なんて恐ろしいことにはならないっすよね?」
「ふむ、ロジア人の感性は分かりかねるな。まぁ、顔なんて数える程の人にしか見られんだろうし、心配する必要はないと思うがね。無論、私はアメリア人第一主義だからアメリア人である君たちに害などないようにしよう、約束する。」
「あ、ありがとうございます!寛大なお心に使いに感謝いたします。」
レインはぎこちない敬語が恥ずかしかったのか、少し顔をあかくしていた。
「なに、気にすることはない。兵士がアメリアの為に働いてくれれば、アメリアは兵士に御恩を与える。当然のことだろう。いや本当に今日君達の顔を見られて良かったよ。正直なところ明日のミッションに臆して不安そうな表情を浮かべる連中だったらどうしようかと思ったが、皆未来のことを考える輝きに満ちた若者でほっとした。明日は私もミッションの様子を見せてもらう。」
はい!と返事をし、3人は敬礼した。
「それではな。誕生パーティーを邪魔して悪かったね。最後の夜を楽しみたまえ。」
そう言い残し、黒服SPに囲まれて食堂から去っていった。3人は大統領の姿が見えなくなるまで敬礼をしていた。そして辺りは元の賑やかさが戻っていた。
「まさか、トランプが応援に来るとはな!ニュースでしか見たことないよな、有名人にあった気分!」
「そうね!噂だとあまり良いイメージなかったけど、会ってみたら普通の偉い人って感じだったわね。でも、何か変な違和感は感じたのよね...。戦後のことを聞かれるのがやけに嬉しそうっていうか...。」
「戦後ってアメリアが世界統一した後の話なんだから、大統領として嬉しいのは当然じゃん!大統領が明日のミッションにかける思いは俺達と同等かそれ以上だろうよ。」
「そうなんだけどね...。サンはトランプと会ってみてどうだった?」
サンは素直に思っていたことを答える。
「俺はなんでわざわざあのトランプが自ら激励に来たのかって思ったよ。こういう儀礼的な場に来る男ではないだろう。失礼な話だが...大統領が来たことによって少し不安になったかな。もしかしたら、俺達のミッションは他の作戦の陽動とか前座だったり...とか考えたらきりがない。トラックに乗せられた馬の気分...牧場に行くのか、馬刺しになってしまうのか...」
「言われてみると、こんなところに来るような人じゃないわよね。明日のミッションがアメリアにとって特別に重要なのは確かなんだけど...。」
サンとクラウディアがうんと考え込む。
「おいおい二人とも考えすぎだろ。流石にトランプといえど世界統一がかかってるんだから顔ぐらいだしたんじゃないか。深読みしすぎじゃね?」
少しの沈黙後、あきらめたようにクラウディアは呟いた
「はぁ...。私とレインは心配ごとをするタイミングも噛み合わないのね。もうなんだか馬鹿らしくなってきたわ。まぁ、考えても仕方ない話だしね。明日が重要な日だからって言ったらなんでもありだもの。」
「...。クラウディアの言うとおりだな。ぐだぐだ言っても仕方ない、変なこと言って悪かったな。杞憂であることを祈ろう!さて、中断してしまったがパーティーを再開するか!」
サンは仲間に心配を植え付けてしまったことに申し訳ないと思いつつ、自分のもやもやを吐き出したことで気分はスッキリしていた。
そうして3人はパーティーを再開した。ケーキを食べた後だったが、各々自動販売機から軽食や飲み物を購入しテーブルに置いて談笑を続ける。
ふとレインが何か思いつき口にした。
「そういえば、トランプが言ってたこと覚えてるか?俺達ってもう何年も一緒にやってきた仲間、チームじゃん。ここは明日のミッションへ気合を入れるため部隊名とか決めようぜ!」
部隊名が欲しいことに子供かと馬鹿にされるかそわそわし、レインは少し照れ気味だ。しかし、特に指摘されることはなかった。
「アメリーズ、ウェザーズ?うーん難しいな」
「野球チームかよ、サンはネーミングセンスないな」
「おい、そんなこというならレインも言ってみろよ」
「え!そ、そうだな。ドリームカムトゥルー...とか?」
サンとレインで盛り上がり色々な名前を言っては笑ったり否定して思考を巡らせていると、クラウディアがぽつりと言った。
「ラストティーンズはどうかしら」
サンとレインが固まりクラウディアが続ける。
「今日で19歳、そして明日のミッション終了後はもう戦争はなくなって、私達は軍人ではなくなる。このチーム名を名乗るのは今回限りになると思うの。最後の戦争、最後の十代、最後のチーム名すべての意味を込めてラストティーンズ」
目を見開き、皆で顔を見合わせ、
「異論なし」
「いいと思うぜ」
「決まりね」
その後クラウディアは自室に戻った。サンとレインは遅くまで語り合い、いつの間にか寝てしまった。
ラスト・ティーンズ エジソン @edidon
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