第114話:都市封鎖

 少しばかりの出発準備を終えた、団長とトンちゃん。それにボクの三人は、広間からアジトの出入り口へ向かおうとしていた。


「コニーはどこかに行ったのかにゃ?」

「探したんですけど、姿が見えませんね」

「あいつは自分勝手だからみゃ」


 トンちゃんも人に言えるほどではないと思うのだけれど、今はそんなことが言える立場ではない。黙っておこう。


 出入口の見える通路に入ると、ちょうどその扉から誰かが入ってきたのが見えた。


「あら、トイガーさんも出かけてたんですね」

「こういう状況だと毎日色々あるから、情報を仕入れに行ってるみたいにゃん」


 いかにもな思案顔で、こちらへ歩いてくる。ボクたちの居ることに気づいてなくはないだろうけど、それどころではないらしい。


「トイガー、どうかしたのかにゃ?」


 お互いにそのまま歩いて、半分進んだところで団長が声をかけた。

 トイガーさんはそれに対して「少々お待ちをですにゃ」と、持っていた帳面に何かを書きつける。


 いいなあ――。


 携帯用の筆記セットはボクも欲しいのだけど、高価で手が出ない。


「いくつかお話しておかねばならないですにゃ。お出かけならば、ここで話すですにゃ?」


 さっきまで考えていた何かはどこかに行ってしまったように、トイガーさんは整然と情報を披露していく。ここで団長と出会うのは、想定済みだったかのように。


「都市の入出制限? カテワルトから出られないってことですか」

「岩盤回廊は通れるみたいですにゃ」


 トンちゃんが向かおうとしていたのは、ロンジトゥードを遥か北に行った辺りだそうだ。カテワルトと首都の行き来しか許されていないのではどこであっても同じだけれど、距離が距離だけに絶望的に感じてしまう。


「――何です?」


 じっとトンちゃんがボクの顔を見ているのに気付いた。団長ならばよくあることだが、トンちゃんにはないことなので照れてしまう。


「お前、運が悪いみゃ。日頃の行いが相当に良くないみゃ」

「ええ……」


 手伝うためについてくるんじゃなく、トンちゃんはトンちゃんの用事があるとさっき言ったのに。どうして都合のいい時だけ、主体を変えるんだ。


「トンキニーズさんだって――」


 思わず言いかけて、トンちゃんの爪がじゃきんと伸びるのに恐れをなした。


「何でもないですすみません」

「団長、どうするみゃ?」


 聞かれた団長は、困った様子がない。まあこれはボクも、そうだろうとは思っていた。


「もう少し詳しい戦況は聞けなかったかにゃ?」

「申し訳ないですにゃ。軍に居る吾輩の知人は、誰も捉まえられなかったですにゃ」


 おお、軍人の知り合いが居るんだ。ハンブル以外の種族で軍人というのも結構居るそうだし、その辺りかな?


「なるほどにゃ。じゃああたしの知り合いも、すぐには難しいかにゃ」


 団長は腕を組んで「ううん」と、わざとらしく声を出した。絶対に悩んでない。


「よし、リベインに行くにゃ」

「レリクタには行かないんです?」


 そう聞いたボクに、団長ではなくトンちゃんが答えた。


「そこまで厳重になってるなら、どこで何をやってるか知っておいたほうがいいに決まってるみゃ。そのぐらい自分で気づくみゃ」


 手厳しいが、正論だ。何でもかんでも人に聞かなければ分からないのでは、結局一人では何も出来ないことになってしまう。


 素直に謝ろ――


「リベインに何かあるみゃ?」

「当たり前の話だけどにゃ。情報はあちこち無理をして嗅ぎまわるより、知ってる人に直接聞くのが早いにゃ」

「なるほどみゃ」


 トンちゃんも分かってないじゃないか! 自分は全部分かってるみたいな顔してたくせに!


 面と向かってそうとは言えないので、せめて顔をじっと見るだけにしておいた。


「じゃあ行くみゃ」


 その間に、団長は幻術を使って自分の姿を変えていた。いつかのコーラさんだ。今回は戦闘もないだろうし、顔だけでなく衣服も幻術で間に合わせるらしい。


「リベインはいいですが、どこに?」


 聞いたボクに、団長はやれやれといった顔だ。何かそこからからかわれそうで、トンちゃんとは違った怖さがある。


「戦争はどこで起こってるにゃ?」

「ジューニ付近です」


 答えて分かった。これはさすがに、自分で気づけなかったのは間抜けだ。


「分かったらすぐに行くにゃ」


 おや、からかわれない。


 アジトに残って情報を集め続けるというトイガーさんを残して、首都へ向かった。新しいからかい方かと、ボクはびくびくしながら。

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