ストゥファットタルフェネック

秋空 脱兎

たのしいおふろ

 むかしむかし、あるところに、とても仲が良いウサギの家族がいました。お父さんとお母さんが一羽ずつ、お兄ちゃんとお姉ちゃんが合わせて四羽、そして、末っ子のうさぎくんです。


 うさぎくんは、今日も笑い声を上げて、お兄ちゃん達と仲良く野山を駆け回ります。とても素敵な、透明な水晶のような輝きを持つ笑顔です。


 日が暮れるまで遊び続けた後、うさぎくんはお兄ちゃん達と楽しく会話をしながら帰りました。


「ただいまー! お母さーん、お腹減ったー!」


 うさぎくんはお兄ちゃん達より先に家の中に入りました。うさぎくんは、いつも一番がいいのです。お母さんが夕ごはんを作ってるなら、尚更です。


「おかえりなさい。夕ごはんはもう少しかかるから、手を洗って待っててね」

「うん!」


 うさぎくんは元気よく返事をすると、洗面所に向かって駆けていきました。うさぎくんは素直なんです。


 急いで丁寧に手を洗ったうさぎくんは、お父さんとお母さんの部屋に向かいました。お父さんにただいまを言うためです。

 部屋のドアを開けると、中にはお父さんがいました。やけに高そうな椅子に座って、何か分厚い本を読んでいます。


「お父さん、ただいま!」


 うさぎくんの声を聞いて、お父さんが顔を上げました。


「おう、うさぎか。おかえり。今日も楽しかったみたいだな」

「うん!」

「そうかそうか。ごはんはできてるのか?」

「ううん、もうちょっと待っててだって」

「そうか。なら、念のためリビングに向かおうかな」


 お父さんはそう言うと、立ち上がってうさぎくんの方に来ました。そのまま、うさぎくんを連れてリビングに向かいました。


 リビングに近付くにつれて、何やらいい匂いがしてきました。


「あら。夕ごはん、丁度出来上がったわ。うさぎくんもお父さんも、運ぶの手伝って」


 お母さんが、振り向いて言いました。お鍋から、おいしそうな匂いと湯気が立ち上っています。


「いいよ!」

「わかったよ」


 うさぎくんとお父さんは快く返事をしました。


「はい、どうぞ。うさぎくんの分ね」


 そう言ったお母さんからうさぎくんが受け取ったのは、人参とキャベツとブロッコリーのクリームシチューが入ったお皿でした。うさぎくんの大好物です。


「やったー!」


 うさぎくんは大喜びして、テーブルに向かいました。

 自分の定位置にシチューを置いたうさぎくんは、席につきました。嬉しくて鼻歌を歌っています。


「良かったな、うさぎ」


 お父さんはそう言いながら、うさぎくんの向かい側に座りました。


「このシチューはうさぎくんの大好物だからねえ」


 お母さんはそう言いながら、うさぎくんの隣に座りました。

 お父さんは、お兄ちゃん達が全員席についているか確認しました。全員いました。


「じゃあ食べようか。いただきます」

『いただきまーす!』



 シチューを食べ終わった後の事です。


 うさぎくんは、家族でお風呂に入る事になりました。うさぎくんのお家のお風呂は、とっても広いのです。お風呂屋さんのお風呂位あります。体が暖まるようにと、湯船にはトマトスープが入っています。


 まず、お父さんが先に入ります。服を脱いで、しっかり体を洗って、ぶつ切りになって入りました。とっても暖かそうです。


 次に、うさぎくんが入ります。服を脱いで、中身を根こそぎ取り出して、形が残ったまま入りました。丸々一羽です。

 お母さんとお兄ちゃん達は、サウナに入ってから一緒にぶちこまれました。


 兎の家族は、仲良くお風呂に入っています。表情はわからないですが、とても楽しそうです。



 ぶつ切りにされたのに生き返ったお父さんは、湯船から這い上がりました。全身血塗れです。表情が見えない位血塗れです。

 お父さんは這いずりながら、お風呂から出ていきました。


 さて、どこに行くのでしょうね。

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