この小説の責任もすべて責任くんにあります!

ちびまるフォイ

題名が思いつかない責任も責任くんのせいです!

「いいか。来月には国外で大事な会合がある。

 それまでに不祥事を起こすなよ。ぜったいにだ」


「そこまでしなくても」


「いいや、徹底的に気を付けるんだ。

 会合に呼ばれることはすなわち国の指導者として認められたこと。

 不祥事で辞任させられれば大事なチャンスを失うからな」


「わかりました」


政治家は勉強会に来ていた派閥の人に再度忠告しておいた。


「ここまでしっかり注意していれば大丈夫だろう」


安心したのもつかの間、その日のうちに派閥の1人が居酒屋で酔って大暴れ。

翌日、自分の家の前には多数の記者がハイエナのように集まった。


「なんてこった……あんなに注意していたのに!!」


自分だけは大丈夫、という気のゆるみなのか。

しかも悪いことに自分の派閥に属していたためこっちまで共倒れだ。


こんな小さなことでも政治家はイメージが大事。

責任を取って辞任というシナリオがありありと浮かんでくる。最悪だ。


「い、いったいどうすれば……!」


困った末に検索に逃げ込むと、『責任くん』なるものを見つけた。


「なになに……? あなたの代わりにあらゆる責任を肩代わりします……?

 これだ!! これを使うしかない!!」


責任くんを申し込むと、一瞬にしてスーツ姿の男が神妙な顔でワープした。


「私の派閥のやつが不祥事を起こしたんだ。責任を取ってくれ」


「かしこまりました」


責任くんはまっすぐ記者の前に出た。

カメラのフラッシュとマイクが付きつけられる。


「みなさん、このたびの不祥事の責任はすべて私にあります。

 なにもかも私です。私が悪いです」


責任くんはすべての責任を肩代わりした。


「おお! すごい! これならイメージダウンを避けられる!!」


責任くんのおかげで記者たちも飽きてどこかへ行ってしまった。

ワイドショーでも責任くんの神妙な顔が映し出され、私にダメージはない。


「責任くん、ありがとう!! キミのおかげで助かった!!」


「すべての責任を肩代わりするのが私の仕事です」


「そうかそうか。これからもよろしく頼むよ」


政治家は責任くんの存在に味をしめ、今までより自由に動くようになった。


イメージダウンを気にして入れなかった高級料理店にも行ってみる。

案の定、週刊誌にその姿は激写されてしまう。


『政治家A! 法案そっちのけで毎夜の豪遊生活!!』


説明責任を求められると、


「すべて責任くんが悪いのです。私じゃありません」


「その通りです。責任はすべて私にあります」


責任くんが肩代わりしてくれる。なんの心配もない。

浮気現場ですら、責任くんが肩代わりしてくれる。


「すべての責任は私にあります。

 このたびの責任はすべて私にあり、政治家さんは何も悪くありません」


非難の矛先に立たされるのは責任くん。

おかげで、今までのようにびくびく顔色を窺う生活もなくなる。


国会でも過激な発言もし放題。


「君! その言葉は不適切だぞ!!」


「そうですか。でも責任は私にありません、責任くんにあります!」


「その通りです。すべての失言の責任は私にあります」


責任くんは堂々と答えた。

もう責任くんなしでは生活できない。


「いやーー。本当に責任くんがいてくれてよかった。

 来月の会合まで何の心配もなくなったよ。ありがとう」


「すべての責任は私にありますから」


「派閥の誰が悪い事しても、秘書が勝手こいても

 私自身がうっかりミスをしても君が責任を取ってくれるからのびのびできるよ」


「責任は私にあります」


「ああ、その調子だ。このまま来月の会合までよろしく頼むよ」


それからも責任くんは責任を取り続けた。

やがて、待ちに待った大事な会合がはじまった。




「ちょっとどういうことですか!? なんで私が呼ばれてないんですか!?」



なぜか会合に呼ばれなかった。

重役であるはずの自分抜きに会議があるなんて許せない。


会場にたどり着くと、自分の席には責任くんが座っていた。


「な、なんでお前が私の代わりに座っているんだ!!」


責任くんを指さすと、ほかの国の代表が不思議そうな顔をした。



「あなたの国ではこの人が代表としてあらゆる責任を取っていました。

 責任を取れるほどの地位の人間だから、とても偉いんでしょう?」

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