エピローグ第5話 僕のこれから

「まあ今見せた、僕を含む3人はどちらかというと例外事項なんだけれどさ。最初から作りたいものがあって、その目的で魔法工学をやっているという。

 実際はあんまり自慢できる話では無い。成瀬ちゃんを除いて僕と詩織なんてのは、要は過去の不幸を目的に転化したようなものだし。


 普通は目的なんて探さなければ見つからないものらしい。例えば修、奴はなりゆきから目的を見つけてあんな論文量産研究屋になった。修の妹分の香緒里ちゃんも進路決定の時はだいぶ悩んだようだ。


 悩んだり迷ったりするのは全然構わないんだ。ただ何も悩んだり迷ったりせず、探そうという努力すらしない。そうなったら何も楽しくなくなる。そんな訳でさ」

 歩きながらオスカー先輩は続ける。


「君の同級生の典明君は気づいている。青葉ちゃんもわかっているようだ。彼女は元々術式学園でそれなりに揉まれていたからさ。

 でも朗人君については詩織が心配していたな。なまじ料理が上手くてそっちばかり頼ってしまったから、魔法工学のそういった面を教えられなかったのですよ、って。

 そんな訳で僕が登場した訳だ」

 それでようやく今日の詩織先輩やオスカー先輩の話が繋がった。


「やりたい事とか面白そうな事なんて、待っているだけじゃわかる訳ないんだ。色々カンを働かせ、面白そうな事には食いついてみて、何回か失敗してやっと見つけられるようなモノなんだと思う。


 だから僕は朗人君、君に問う。

 君にそんな貪欲さがあるか、って。

 今の時点でもう君は2年の時の修より遙かに恵まれている。魔法だって色々使えるし予算的な問題もない。物作りに必要な部品なんかも修があれこれして大分入手しやすくなった。環境は整っているんだ。

 焦る必要はない。でも自分で探さないと何も見つからない。

 貪欲であれ。

 この辺りが詩織からの伝言だな。まあそんなところ」


 なるほどな。

 これが僕を学生会に勧誘した詩織先輩の、先輩としてのお仕事という訳か。

 全くおせっかいな先輩方に恵まれすぎて涙が出そうだ。

 詩織先輩といい、オスカー先輩といい。


 で、とりあえずは今言える方に礼を言っておこう。

「オスカー先輩、ありがとうございます」


 先輩は軽く肩をすくめる。

「礼を言う必要はない。僕はあくまで出来上がる機械の味方だ。面白い発想の機械が色々出てくると僕は嬉しい。まあその為の必要な作業のひとつって奴だな。可能性とやらを担保するための」

 自分を機械の味方と言い放った先輩らしい言い草だ。


「ま、僕が言えるのはここまでかな。帰り道はわかるだろ」

 中央階段のところでオスカー先輩は足を止める。


「ええ、ここを右真っ直ぐで正面玄関ですね」

「正解。じゃあ、またな」

 オスカー先輩はそう言うと、こっちの返礼を待たずに階段をしゃかしゃか上っていった。

 僕は軽く息をついて、そして歩き出す。


 本当に。

 まったくお節介な先輩が多くて涙が出そうだ。

 人の魔力向上をサポートしたり、人の懐まで気にしたり。

 それとなく助言くれたり励ましてくれたりと。

 僕もああいう面倒くさい奴になれるだろうか。

 もう後輩が入ってくる身分なんだけれども。


 焦る必要はない。でも自分で探さないと何も見つからない。貪欲であれ。

 難しいな、何事も。

 難しいで考えを止めてはいけないのだろうけれど。


 そんな事を考えながら僕は魔技大の校門を出る。

 ちょっと歩くとハツネスーパーの角。

 そして微妙に見えるような人だかり。


 パン・和洋菓子屋は開店2日目にして大盛況のようだ。

 これはきっと買いはぐれるな。

 客が多いと遠慮しそうだから。


 という訳で課題について考えるのは一時中断。

 まずは昼飯について考えよう。

 そう思いながら僕はいつもの曲がり角を曲がる。

 店の前の人だかりを通り過ぎて。

 いつもの保養所のあるマンションへ。

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右も左も魔女ばかり ~Machine Nerd PLUS~ 於田縫紀 @otanuki

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