エピローグ第4話 ゆめのかけら(2)

「わかるよな。これは朗人君が最初の課題を発表した時、同じ日に発表した浮上型車椅子の完成形だ。成瀬ちゃんが課題提出後も改良に改良を重ね、ようやく実用段階になった。


 これは成瀬ちゃんのおばあちゃん用を意図していたらしい。普通の車椅子では道路の段差や階段や放置してあるものが怖くて外出できないと。義足を付けて訓練する程時間も体力もないおばあちゃん用に成瀬ちゃんが作ったのがこれって訳さ。


 そのおばあちゃんは今、これを使っているよ。外出する機会も増えたし自分で色々な事が積極的に出来るようになったって言っていたな。ただ浮力に香緒里の浮力パック使っているから大量生産は出来ない。現在は20台くらいモニター運用中さ。

 でも成瀬は量産の夢を捨てていないよ。代替品で何とか手に届きやすくなるよう、今でも改良を続行中だ」


 魔法で見てみる。

 確かにあの時の車椅子の面影が残っている。

 脚部分は緊急ブレーキ等のためのもので、基本は浮上式。

 段差も全く関係ない。

 それでいて普通の車椅子より横幅が小さく、狭い場所でも通れそうだ。


「さて、最後は僕の研究だな」

 そう言って工場区画を出る。

 最後に向かったのは電算センターだ。


「実は僕、大学に入って研究室を変えたんだ。ちょっと今までの研究室へやだと扱いきれないテーマになってきてさ。なもんで情報学系統の研究室へやを紹介してもらってさ。今はそっちメインで研究している」

 階段を3階まで上り、セキュリティチェックを掌紋認証でクリアして中へ。

 いかにも情報系という感じの、端末が並んだ部屋だ。


 オスカー先輩はそのうちの1台を起動させる。

 しばらくした後、画面上にいくつかの窓が表示された。

 そのうち1つの窓にはオスカー先輩に似た女の子の顔が表示されている。


「おはようございます。今日は休みではなかったのですか」

 声が聞こえる。


「いや、別件で出てきたんだけどさ。ついでに僕の研究を紹介しようと思って。

 そんな訳で僕の友人にご挨拶、いいかな」

「はい」

 画面上の女性は僕の方へ視線を向けて頭を下げる。


「はじめまして。私はダミー・オスカー・バージョン3.1415。オスカーちゃんが研究中の人工知能実験プログラムの最新版です」


 えっ!

 おいおいおいおい。


「そういう訳で、今の僕の研究はハードからソフトに移ってしまった訳だ。まあハードの方もやるけれどね。ソフトの方が発達が遅いんで、こっちに力を入れようかと」


「オスカーちゃんがここに研究室員以外を連れてくるのは久しぶりですね。私の記憶の限りでは4人目です」

「まあな。修、等々力、詩織と来て4人目だ。夢の大きさを語れる奴は少なくてさ。

 さて、朗人も一応挨拶してくれ」


 ちょっと戸惑いつつ、取り敢えず標準形の挨拶をする。

「初めまして。三輪朗人と申します。隣の魔技高専の魔法工学科2年です」

「はじめまして。それでは皆さんの後輩にあたるのですね」

「ああ」


 ふと気づいた。

 この画面の女性は確かにオスカーちゃんに似ている。

 でもモデルはきっとオスカーちゃんそのものではない。

 微妙に顔の形とか骨格が違っている。

 全く別に形を起こして作っている。


 そう。

 きっとオスカーちゃんの方がこの女性を真似ているのだ。

 女装までして。


 そこにどんな理由があるのか僕にはわからない。

 ただわかる事と、無難な事だけを口にしておく。


「会話が凄く自然ですね。人工知能とは思えない」

「これでも中学1年生程度の知能は確認していただきました。オスカーちゃんは不満そうですけれど」

 おいおい。

 完全に話の内容を理解している。


「まあな。それでもまだ足りないんだ。最初の目標はきっとクリアしたけれどもっと先を見てしまってさ。という訳でダミー・オスカー。今日はここまで」


「わかりました。それでは失礼します」

 女性が頭を下げ、そして窓が消えた。

 オスカー先輩は端末をシャットダウンする。


「まあこんなところさ。目的はちょっと変わったので言わぬが花って奴だな。まあそれは別としてだ」

 そう言ってオスカー先輩はまた部屋を出る方向へ歩き出す。

 何か一刻もじっとしていない感じだ。

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