第4話 おっぱいお兄さんと
*プロローグ直後です
時が止まったかのような沈黙のあと、吉丘は話し始めた。
「・・脅す?いや、普通に胡桃沢くんがこれを落としていったから持ち主である胡桃沢くんに届けようと思って今ここで渡してるだけだよ。」
吉丘は何を言ってるかわからないとでもいうような顔をしている。
なんだ?
何を考えてるんだこの女は。脅すには十分すぎる物がそこにあるのに脅さないだと?何か裏があるのか?
「なぜこんな人目につかないところを選んだ?これを渡す代わりに言うことを聞けみたいなことを言うつもりだろう。それをめぐるだけの価値があるなら聞いてやってもいいが、そのくらいの価値があることなんて一握りだと思うぞ。それでも言うのか?とにかくそれは絶対にお前にはやらないぞ。」
「いらないよ!勝手に話進めすぎだよ!人目につかないようなところにしたのはこれの存在を誰にも知られないようにするためだよ!教室で渡すとみんな気になって群がっちゃうと思ったから。見つかったら胡桃沢くんさすがに恥ずかしいでしょ。」
「言っておくが、それはただの趣味の一環だ。何も恥じるようなことじゃない。君が友達と出かけたり遊んだりして楽しむのと同じように、俺もそれをプレイして楽しんでいるだけだ。趣味として。君がそれを脅しの材料として使うということは他人の趣味をバカにしているということだ。人として最低なことだぞ。」
「私が友達と遊んだりすることをこれと一緒にするのはどうかと思うけど、どんな趣味を持っていようがいいと思うよ。人それぞれいろんな好みがあると思うし。というか私胡桃沢くんのこと脅してないって!
あ!ちょっとまって、脅しだと思ってるってことは胡桃沢くん本人がこの趣味をやましいと思ってるんじゃないの〜?」
こいつまさか、、俺をはめようとしているのか?それを人に見られてしまったことをやましいことだと思わせるために。そうすれば俺はやましいことをしていたという気持ちになり、脅しを受けいれる。そう考えたんだな。
「そんな言葉でうながそうとしても無駄だ。確かにその趣味を全校生徒に知られたら今の俺の立場は大崩落だ。だが、それはやましいとは違う。世間一般ではそれを見たら引いたり幻滅すらする人もいる。俺のその趣味を知って、おっぱ・・その趣味の良さを知りもせず先入観だけで判断して俺を陥れようとする奴も出てくるだろう。それがわかっているからこそ俺は、その趣味を誰にも知られず咎められることなく一生やり遂げようと誓ったんだ。今の立場と大切な趣味のためにね。」
「へ、へぇ〜それはすごいね・・でもやり遂げる前に落とさないで欲しかったかな。」
「それに君がそれを持って、これは胡桃沢くんの私物です、と言ってもなんの効果もない。これはどうしようもないことだ、俺の立場と君の立場は違いすぎる。だから」
「もういいよ〜〜。受け取らないってことはこれ胡桃沢くんのじゃなかったんだね!じゃあ落し物箱に置いてく「おい、ちょっと待て!!」
なんて恐ろしいことをしに行こうとしているんだこの女は・・・!!!
「これは俺の私物だ。返してもらおう。」
「は〜やっと受け取ってくれたよ。今度は落とさないように気をつけてね。」
吉丘はなにもなかったかのように去っていこうとする。
「おい、吉丘。本当に脅すつもりなんてなかったのか?」
「だからそんなつもりないって最初から言ってるじゃん!もー考えすぎだよ胡桃沢くん。私が脅してまですることなんて全然ないよー。安心して、誰にも言わないからさ!」
吉丘は振り向き立ち止まってそう言った。
嘘はついていないことがわかる。
「そうか。わかった。疑って悪かったな。届けてくれてありがとう。」
「いいよいいよ」
「なにかこれを届けてくれたお礼をさせてくれ。」
「え?そんないいよ〜別にたいしたことしてないし」
「たいしたことをしてくれたよ、これは俺の大事な大事な宝物なんだ・・・!!!」
俺は物を抱きしめてそう言った。
「そ、そうみたいだね」
「昨日家に帰った時、これがなくなっているのに気付いてからというもの、俺の心は引き裂かれ続けたんだ。」
「それは大変だったね・・・」
「お前も見て分かっただろう?これがとても貴重なものだということを。」
「あー、なんかひらがなでくるみざ わこうじろうくんへ❤️ってサイン書いてあったね。絶妙な切れ方のサインでよく覚えてるよ。」
「だろう。俺はなかなかに知名度があるけれど、どうしても本名を描いて欲しくて考えたんだ。いい感じで俺だとばれないだろう?」
「うん。非常に鈍い人だったらわかんないかもね。」
「でもよくこれ持ち帰えって次の日学校で届けようと思ったよな。普通嫌がってそままにしとくだろ。」
「ん〜落とし主がわかってるのにそのままにしとくのもなんかいやじゃん。それに見たことあったからさこれ、そこまで抵抗感はなかったんだよね。」
「なんだと?お前もまさかおっぱ
「お兄ちゃんがもっててさ。」
「なるほど。」
「お兄ちゃんはぽよちゃん?が好きなんだって。前にめちゃめちゃ熱弁してきた。」
よしわかった。吉丘のお兄さんとは気が合いそうだ。
「なんで胡桃沢くん拍手してるの?」
「お兄さんに敬意を表しているからに決まってるじゃないか。お友達になりたいぐらいだ。」
「へ、へぇ〜。・・・あ!!!」
「な、なんだ。急にでかい声出して。」
「さっき胡桃沢くん、届けてくれたお礼してくれるって言ったよね?して欲しいんだけどいいかな!」
吉丘は勢い良く俺に一歩近づいてきた。
「い、いいけど。」
なんか嫌な予感がするような・・・・・
「私の兄と友達になってください!」
吉丘は言い放った。
「・・・・・・おっぱいお兄さんと?」
「なんか誤解されそうな名前になってるけど、そう!私のお兄ちゃんと。」
「・・・うん。いいけど。」
「おお!ありがとう!さっすが胡桃沢くん。」
なんだかよくわからないことになったが俺はおっぱいお兄さんと友達になればいいらしい。この場合お兄さんの前でおっぱいのことを語っていいのだろうか。迷うところだ。
でも簡単なことでよかった。友達になるなんて俺の得意分野じゃないか。
「お兄さんは今どこに?」
「三階にいるよ。」
「なんだ、この学校にいるのか。じゃあ今からいくか。」
「え、今から?」
階段があるほうに向かう。
「友達になるなら早いほうがいいだろう。」
「そうなの?」
「そうだ。」
なぜ俺が急いでいるかって?
そんなの決まっているだろう。早く仲良くなってぽよちゃんのおっぱいについて語り合いたいからだよ。
それに吉丘のお兄さんということはお兄さんもこんな感じなのだろう。
吉丘を見る。
少なくとも人の秘密を面白おかしくすぐばらすようなやつではないだろう。多分ちょっと抜けてそうなふわ〜んとした雰囲気でどこにいても順応力を発揮する感じの・・・
三階の三年三組、おっぱいお兄さんがいるクラスに着くとちょうど帰りのHRが終わったところだった。
「おい、お兄さんはどこだ?」
「えっと・・あ、いたいた、あの窓側の一番後ろ。」
窓側の一番後ろ・・・・・・なんか全然イメージと違ったんですけど。
おっぱいおにいさんは帰る支度をして誰とも会話も挨拶もせず、後ろのドアからひとりで早々に帰ろうとしていた。全くふわ〜んとはしておらずどちらかというとぶわぁ〜んとして表情はむすっとしている。順応力なんてかけらもなさそうな・・・
これだけでは決めつけるのはよろしくないが、吉丘は俺にお兄さんと友達になって欲しいと言った。これを察するに、
「お兄さんてもしかして。」
「うん多分胡桃沢くん当たってるよ。」
俺の一番苦手なタイプだ。
「お兄ちゃんは二年の後半からぼっち状態なんだ。」
嫌な予感というのはこれのことだったのか・・・。
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