第7話

扉を開けて待っていたのはNTK司令官、近衛 菜々子師匠と、先の話題にも挙がっていた第8支部隊長、東雲 遊庵(しののめ ゆうあん)であった。


「あ、奏多君じゃないか。おっひさー!」


そうやって笑顔で手を振る遊庵。


「おっひさー、じゃないだろ!!まぁ遊庵がいるんならちょうど都合がいいな」


「ひっ、ど、どならないでね......?」


ビビって腕を顔の前で構える遊庵。

顔は中性的で身長も小さい。

この間は中学生に間違えられていたが、これで俺と同い年っていうんだから驚きだ。

この若さで住み込みでNTKのセキュリティなどの管理も行っており、高い戦闘センスから支部隊長にも抜擢されている。

しかしこういうビビリなところがあるから隊員にも舐められているのだ。

ま、その隊員が全員で遊庵に向かって行っても100%勝てないだろう。

言い切ることが出来る、100%だ。


「ところで奏多ちゃん、私達のところを尋ねてきたと言うことは何か訳ありなのね?」


「ちゃん付けは辞めてください!」


「私と1発やったらね?」


「何をとは言ってないからセーフ!」


「濃厚な〇ックス」


「言い切っちゃった!!しかも濃厚って何!?生々しいわ!」


右手人差し指を立てて、左手の人差し指と親指で作った輪っかに抜き差ししているこの変た......この女性こそが誠に不覚ながら俺の師匠、近衛 菜々子その人である。

こういうとこさえなければ本当に心から尊敬してるのに。

今年20になったばかりだというのにそれを全く感じさせない綺麗さなのに。

なんでもできるハイスペックなのに。

おっぱいもおっきいし。

金色の長い髪も綺麗なのに。


「......はぁー」


「そのため息は〇ックスOKってことのため息でいいのね?」


「どういう意味ですか!......とりあえずチェンジで!」


「チェンジって何よぉぉぉ!!......コホン、そろそろ本題に入ろうかしら。なにか聞きたいことでもあるの?」


急に真剣な顔になる。

やっと真面目な話が出来る。

しかし、なんで俺この人の弟子になっちゃったんだろう。

今更ながら後悔する。


「葉瑠乃ちゃんの事なんですけど」


「妹がどうしたの?」


「そうです、師匠の妹で...え?妹?」


「そうよ。私の妹、近衛 葉瑠乃。奏多ちゃんと同い年で近々新開学園に入学予定よ」


「重要事実とともにほかの情報まで出てきちゃったよ!!」


待って、これ来た意味ある?

ていうか同い年?

ええ!?

嘘だろ?

身長が小さいから年下に見てしまっていた。

ちゃん付けで呼んじゃってたなぁ、帰ったら謝ろう。

それにしてもあんなに純粋な子が俺の同級生という事実に驚きを隠せない。


「えっとですね、なぜ葉瑠乃ちゃ......葉瑠乃を捕まえるようなことをするんですか?」


「そうね、家出しちゃったからなのよ。私の可愛い可愛い葉瑠乃ちゃんがね」


机に頬杖をついて、頬を膨らませる師匠。

全員が今の師匠の表情を可愛いというだろう。

中身を知らない、という条件付きだが。


「いえ、あいつら葉瑠乃の事を捕まえるどころかめちゃくちゃ怒鳴りつけてましたよ?」


「......コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス」


おっと、まさか師匠ってシスコンなのか?

完全に目がどっかに行ってるな。

雫の怒った時の顔といい勝負だ。

トラウマが増えたではないか。


「1人は遊庵のところの隊員みたいですよ?」


「ねぇ、遊庵?ちょっとお話いいかしら?」


「ひっ、ぼ、僕ですか!?」


大まかな男の特徴と能力を伝えると遊庵と師匠はしばらく部屋を出ていき、帰ってきた時には遊庵が干からびていた。


「かっ、奏多くぅん〜」


「こればっかりはな。俺も襲われたんだから後でなんか奢れよ?」


「僕は誰に頼ればいいんだぁ〜!!!」


師匠が言うにはあの3人は司令官権限で牢屋行きらしい。

なんでも師匠自ら出向くようなので、1秒でも早く3人を処罰したいのだろう。


「それで、私の葉瑠乃ちゃんはどこにいるの?」


「危ないと判断したので俺の家に居てもらっています」


「それなら安心ね。でも私ここの仕事が忙しくてしばらく家に帰れないからもし良かったらだけど......」


「もちろん!面倒は城ヶ崎家でしっかりと見て差し上げましょう!!!」


「助かるわ。あの子ちょっと内気なところがあってね。奏多ちゃんが見てくれるって言うなら安心ね」


よし!

姉の承諾も貰ったことだし、家に帰って葉瑠乃を愛でよう!


「でも奏多ちゃん、ここのところ色々と物騒なことになってるから気をつけてね?」


「分かりました。忠告ありがとうございます」


「もしかしたら緊急呼び出しもあるかもしれないからよろしくね?あの集団が動き出したみたいだから」


「......連絡があればすぐに駆けつけますから大丈夫です」


緊急呼び出しは滅多にないことで、まして第2支部まで動くとなると相当深刻な問題と言える。

それに加えて師匠が言った、あの集団とは以前からNTKに敵対意識を向けている集団のことだ。

名前は『義軍』と、能力者を集め世界を滅ぼそうとしているにも関わらず、正義を語っているいかにもやばい集団だ。


「......最後に1つ」


「......はい」


ゴクリと、先程よりも深刻そうな師匠の表情を見て思わず唾を飲み込んだ。


「私と葉瑠乃で姉妹丼はどう?」


「あ、葉瑠乃だけでお願いします」


「あぁん、いけずぅ!!!」



さぁ楽しい生活が始まりそうだな。

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