第2話

小学生の時から野薔薇家に行き、琴音を迎えに行っているため、俺はいつしか琴音を迎えに行くのが日課になっていた。

インターホンを押し、しばらく待っていると窓がガラリと空いてすぅっと体が宙に浮かんだ。

......ナニサレンノ?

と言わんばかりの顔で訴えるが、もちろん誰にも届かない。

君に届けっ!

そのまま空いた窓の中へin☆

ポスっと座布団へ着地。

前を見ると膝下ぐらいの高さの机を挟んだ向かいに座っている少女が涙を流しながら俺に大きな胸を押し付けてくる。

この少女こそが俺の幼馴染み。


「かなたさ〜ん、宿題が終わらないッス〜!手伝ってくださいッス!」


さらさら揺れるポニーテールの茶髪で元気そうな顔立ち。

まさに健康少女という言葉がぴったりの幼馴染み、野薔薇 琴音だ。

この少女の能力は念動力(サイコキネシス)で、PKとも言われている。

ランクはE。

通常、サイコキネシスの能力なら十分Aランク、Sランクを狙えるが、琴音のサイコキネシスは自分の好きな物しか動かせないという限定的な能力のため、ランクはEという事になっている。

ぬいぐるみとか相手の体にレポートされられないの?と聞いたら

「やってあげるッスよ?」

と言われた。

全く冗談がきつい幼馴染みだぜ。

足?

フルエテナイヨ?

その後、なぜ俺を動かせるのかと聞いても琴音は答えてくれなかった。


「で、俺はこの山積みの宿題を手伝えばいいと?」


「話しがはやいッスね〜!よろしく頼むッス!ちなみにこれ今日までに終わらなかったら自分退学ッスから終わるまで手伝ってくださいッス!」


「へぇ......んじゃやるかあああ!?たっ、退学!?そんなになるまで何やってたんだよ?」


「かなたさんウォッチングッス!」


「ウォッチングッス?ん?バードウォッチングの間違いだろ?」


「いえ?かなたさんの観察日記つけたり、写真撮ったりしてるッス」


「ガチのヤツじゃねーか!!!」


もしこれがバードウオッチングなら満点をあげられる趣味なのだが、これは違う。

しかし、退学かぁ、そういやこいつ中学の時もやばかったらしいしな。

自業自得だけど。

なお、観察日記と写真は見つけしだい処分。

そう思いつつ、焦りながら琴音の宿題に手をつけ始めた時、玄関からふいに俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。


「お兄ちゃーん!どうしたのー!」


「琴音の宿題を......


「かなたさんに色々手取り足取り教えてもらってるんス。今夜は寝かせないって?いやんダイタンッスよ〜♡」


「って何言ってんだ琴音!?雫、誤解だからな!てか今は朝だ!ってあれ?雫は?」


その時、後ろに悪寒を感じ振り向くと、テレポートしたと思われる鬼瓦、いや、一番怖いなにか想像してみて?

うん、それよりも5倍怖い形相の雫(?)が立っていた。

あれ?

ひいじいちゃん?

何この川?

ってこれ渡っちいけないやつじゃねーか!

し゛に゛た゛く゛ね゛ぇ゛よ゛ぉ゛


「お二ぃチャんン?ドういウこト?」


まずいだんだん人間離れしてきてる!!


「シズクオチツイテ?オニイチャン、シズクガダイスキダヨ?」」


「えっ、お兄ちゃん......今から結婚しようか!」


この子ちょろい!

本当に成績優秀なのかと疑ってしまうが今は時間が惜しい。

震える手を押さえ (中二病ではない)雫に説明をする。


「時間が無いんだよ!最初から話すと......」


次に雫が怒った時はこの手で行こう。

なんて思ったが要件が要件なのでだいたいの事情をおおまかに説明するとどうやら納得してくれた様子だった。

退学と聞いても何故か驚いていないのは停学や謹慎が何回かあって自分自身も危ないからではないかと思う。

慣れって怖いよね。


「でも、3人でもこの量は多いよな」


「そうだねぇ。後、20分までに終わらせないと学校間に合わくなっちゃうよ」


「そうッスかぁ〜。今までありがとうございましたッス」


「あっさり諦めるなよ!まだ頑張ればギリギリいけるだろ!」


終わらなかったら琴音は高校2年で退学という事になる。

ん?

待てよ?

俺の頭にある作戦が閃いた。

俺は心で何度も雫に謝り、ある作戦を実行した。


「雫?」


「何?お兄ちゃん?」


「これ間に合ったら......今日お兄ちゃんと一緒に寝るか?」


「かなたさん?これ、2年の問題ッスよ?しずくさん出来るッスか?」


「ほ、ホントだ!これじゃあ実質1人じゃねーか!」


「サラッと酷いッスね。まじで泣くッスよ?」


だが、もし琴音が退学になったら新開学園の実習のカリキュラムで下位ランクのペアが作れない。

他にもクラスに仲のいいやつはいるが、その全員がDより上のランクのため、俺はいつも琴音とペアでやっていた。

琴音が退学になったら俺は絶対に馬鹿にされる......。

そんな事ばかり考え、あわあわする俺をよそに、雫は口元を緩めた。


「お兄ちゃん。本気になった妹に不可能はないんだよ!!!」


そう言った雫は猛スピードでペンを走らせた。


「!!!マジで解けてる......でも賢いんだけど、残念だよなぁ」


とつぶやきながら俺は山積みのプリントと対峙したのだった。


―そして宿題は本当に終わってしまった。

7割方を雫が、残りの3割を俺がやったという感じだ。

肝心の琴音やってなくね?

と途中で気付いた俺だが、もう放っておく事にした。

それに、その方が効率が上がったのは言うまでもない。


「ありがとうッス!雫さん!これで退学しなくてすむッス!」


泣きながら抱きつく琴音を雫はよしよしする。


「はいはい。お兄ちゃんに感謝しなよ。じゃあ学校までテレポートで行くよ!私に捕まって」


テレポートすると見せかけ抱きついてきた雫と隙をついて抱きついてきた琴音。

前に雫、後ろに琴音というこの状況。

勿論冷静な俺は平然を貫k


「オッパイ、いっぱい......」


無理でした。

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