第11話

「こんなところで立ち話もなんだから我の拠点に来るがいい!どうやら用があるのはそこの小僧みたいだからな!それに妹も我の帰りを待っている!」


とクレイクがそんな提案をしてきたのは、シスとクレイクによる妹談義が終わった後だった。

周りの市民からは談義終了と共に拍手が巻き起こり、シスとクレイクは市民が作った花道を何食わぬ顔で歩いていた。

花道を歩く姿が妙に様になってるのが癪に障る。


「わ、分からん......!」


「分かります。私もここではいつものようなテンションになれませんから......」


「〇ね」


完全にアウェーな俺とマーシャとファズはそれぞれ思ったことを口にし、縮こまりながら花道を通る。

ファズに至っては最終レベルの罵倒だ。

まぁ家や外出先でもシスに絡まれて、この街は全員がシスみたいなやつだからかなりストレスが溜まっているんだろうな。




「さぁ着いたぞ!ここが我と愛しき妹の愛の巣だ!」


その先にはマクテリア家を遥かに凌駕する城が建っていた。

見た目はかなりファンシーでピンク色が主体となっている。

ピカピカ光るハートマークの板のようなものが至る所に貼られ、ラ〇ホ感を全面に表していた。

ラ〇ホに関しては師匠に嫌という程語られていたのである程度の知識はあった。

これには俺とファズとマーシャも口を開けてポカンとするしかない。

まぁ、街1番の魔法使いがラブホなんか経営してるわけ......


(休憩 3時間 5000円)

(宿泊 1万円)


あの看板は何かの間違いであって欲しい......。


「!兄様!!!」


「おぉ!愛しの妹、チルルよ!」


すると、玄関で待っていた女性が勢いよく走ってくる。

そして、ひしっ!

と2人は抱き合う。

チルル、恐らくクレイクの妹は兄と同じ紫の髪をポニーテールにした清楚系女子だった。

マーシャやファズにも劣らない美貌の持ち主のチルルとイケメン男子であるクレイクが抱き合っている姿は非常に絵になる。

―兄妹という点を除けばの話だが。


「......美しい!」


「......汚い!(シス兄さんが)」


抱き合う2人を見て、シスがマウス家の兄妹愛に涙を流す。

その横で汚物を見るような目を兄に向ける妹という、なんとも珍妙な図ができてしまった。


「「......」」


俺とマーシャはこの珍妙な図を眺めることしか出来ない。

その様子を眺めていたマーシャがクレイクの元に歩いていった。

すぐ近くまで近づくとニコニコしながらクレイクを見上げる。


「......家に入れろ」


マーシャがいつもの敬語を忘れ、キレる。

よく言ってくれました!

ありがとう!


「おっと、そうであったな。では入るといい。」


流石にいつまでもこうしていてはダメだと気づいたのか、クレイクは解除魔法を使い玄関を開ける。

お屋敷にはこういった登録したものの魔力でしか開かない扉が多いのだそうだ。

魔力は人それぞれ違う質で、2つとして同じものは無いらしい。

簡単に言うと自分の証明になるもの、だそうだ。


「チルル、手を繋いでいこう」


「勿論です、兄様!」


マウス家。


「ファズ、手を繋いでいこう」


「死ぬといいです、兄さん!」


マクテリア家。

この格差である。


「!それなら私たちも手を繋いで行きましょう!」


マーシャがテンションを上げていつものように振る舞う。

流石に俺もずっと静かでいるのは疲れるからな。

マーシャの差し出した手を握る。


「乗るしかない、このビッグウェーブに!」


「ねぇ、あんたたち?この街出るまでにイチャついたら〇すわよ?」


「「あ、ハイ」」


繋いだ手を俺とマーシャは同時に離す。

ファズのストレスはかなり溜まっているらしい。

俺とマーシャは大人しく言うことを聞くことにした。




マウス家のどでかい廊下を歩くことしばし、ファズが口を開く。


「にしても広いわね、ここ普段家族で使ってるの?」


ファズが最もらしい質問をするが、俺は知っている!

ここがラ〇ホだと!!!


「ファズ、落ち着いて聞くんだ、ここはな、ラブ......」


と言いかけたところでマウス家のシスコンがこちらを振り向く。


「ここは宿屋だぜ?」


と、マウス家のブラコンもこちらを振り向く。


「お兄様と私で経営していますの」


休憩と宿泊......。

そういう事かぁ!!!

恥ずかしさのあまり顔を両手で塞ぐ。

俺の勘違いでファズにとんでもないことを言いかけてしまったので、怪しまれていないか気になりファズの方をチラ見する。


「クルシュ、さっきラブって言いかけてなかった?」


バッチリ聞かれてらっしゃったぁ!

なんだこのいやらしい言葉を異性相手に言わされている現状は!

一部の人にはご褒美だが、本人からしたらただの拷問でしかない。


「そっ、それはだな!......」


口ごもると、マーシャが何かを閃いたようで、ぽんっと手を叩く。


「はっ!まさか私とクルシュさんがラブラブするための場所と言いたかったのでは!?」


ん〜、ギリギリセーフな言い回しのような気もするしちょっと苦しいけどノリでなんとか行けるか!?


「ははは!そんなわけないでしょ?ね〜、クルシュ?」


「いっ、いやぁ、まさにその通りさぁ!」


こうなれば隠し通すしかない!!!

俺、演技派なんだ。


「あんたさっきから様子がおかしくない!?」


一瞬でバレた。


「あぁ、クルシュさん......好き♡」


マーシャは額に手を当ててよろける。

でもなんとかノリでごまかせそうな気がするぞ!


「いやおかしいでしょ!?ねぇ、兄さん!?」


「ん?今日もファズは可愛いが?」


「駄目だこいつ......早くなんとかしないと......」


完全に今の話に興味のないシスに話を振ってくれて助かった。

もしファズと俺がイチャイチャだのなんだの言ってたらシスコン兄さんの攻撃を受けて即死は免れないだろう。


「待て待て!ここは我とチルルがイチャイチャする場所だぞ!?ほかのやつらがここでイチャイチャするのは認めん!」


「お兄様......♡」


いやいや、自分たちが経営してる宿屋とは言ってもイチャイチャ位は許してやれよ......。


「話が進まないだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


プツリと何かが切れたファズが叫ぶ。

確かにここに来てから俺も調子が狂いっぱなしだった。

叫べるものなら今すぐにでも叫びたい。

......帰りたいとな!!!


「まぁ落ち着け、ここが部屋なんだろ?」


扉の前まで来たので俺はファズを落ち着ける。

しかし、部屋の割には妙に扉が大きいような?


「いや、違うな」


「まじかよ......どんなけ広いんだよ」


クレイクは目の前の扉を開ける。

部屋の向こうからは室内だというのに明かりが差している。

部屋ではないというなら一体なんなのか。


「そういう意味ではない、我は元々部屋に通す気はないのでな。」


「なに?」


目の前に広がっていたのはコロッセオを思わせるような施設だった。

空を見上げると雲が広がっており、マクテリアの中庭を思わせるものがあった。

何でこんな所に連れてきたのか?


「ここは我の家の闘技場だ。我と勝負がしたいのだろう、クルシュ・アギトよ?」


その目は獲物を狩る者のそれだった。

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