第10話
「なぁ、ファズよ?」
魔法でシスに攻撃された俺はシスに命令を下した張本人にジト目を向ける。
ファズは視線の意味に気づくと、
「( ´>ω<)人」
「え?それ謝ってんの?あぁん!?」
マジでキレかけ5秒前な俺は腕組みをして、メンチを切りながらヤンキーの如くファズへと近づくと、シスが前へと飛び出してくる。
「ここは直接手を下した私に責任がある」
「おぉ?そうか」
まぁ、なんだかんだ言ってもこういう所は冷静なシスが大人な対応をしてくる。
「( ´>ω<)人」
「お前らホント兄妹だな!?」
「ははは......」
さっきまでのシリアスはどこへやらいつもと変わらないやり取りに乾いた笑いを浮かべるマーシャ。
先程別の部屋でファズとシスに俺に説明したことを同じように話したマーシャはどこかスッキリした様子だった。「少しでも私の意見を聞いてくれて協力してくれるのは本当に嬉しいです」といつもは絶対に言わない台詞を言ったマーシャは現在、俺にピッタリとくっついている。
「んで、クルシュの監視をずっとしていってる間に好きになったと?」
「その通りです!」
ファズの言葉にいつもの調子を取り戻すマーシャ。
話によると、人類を監視している間に人類に絶望したマーシャは今までの人類とは違う俺を発見し、観察している間に好きになったという。
どうやら初めて会った時は気に入られるように大人しい感じで振舞っていたらしいのだが、だんだんとボロが出てきているのを教えると、「素で行きます......」と力無く答えた。
しかし、その方がいいと言うと、あっという間に復活し、今に至るというわけだ。
「こ、こらマーシャ!恥ずかしいだろ!」
「いいじゃないですかぁ、私たちさっきまであんなに激しい抱擁をしていたんですし!」
マーシャがとんでもないことを口走り、場の空気が凍る。
「(#^ω^)」
「そっ、それはあれだろ!辛い思いをしているマーシャがほっとけなくなったからで!」
「クルシュさん......」
「マーシャ......」
お互いを見つめ合う俺とマーシャ。
傍から見ればバカップルだが、そんな事は一切気にしない。
要は自分が幸せならそれでいいのだ。
「......兄さn」
「承知した」
シスに呼びかけたファズは立てた親指を下に向ける。
シスが雷魔法を放ったのはファズがセリフを言い終わる前だった気がする。
シスも羨ましいのだろう。
「イヤァァァァァァ!!!」
「イチャついてないでさっさと次に行くわよ!」
「ら、ラジャー!」
「分かりました!」
こうして俺たち4人は次の街へ向かうことにした。
なんでも次の街では凄く強いやつが相手らしい。
「お次の街は国境を越えたところに位置するニールと言うところです!なんでもニールは魔法の国とも言われており、魔法依存度は驚異の99%だそうです!ウザイですね!その街に住む大魔法使いのクレイク・マウスを倒しましょう!!!」
魔法の国?
マウス?
「ハハッ!夢の国へ早く行こうよ!」
「ど、どうしたのよクルシュ!?」
「はっ!何かこれをやらなきゃいけないという謎の使命感が......」
「(゚Д゚)ハァ?」
「すまん、真面目にやる」
謎の使命感を果たした俺はファズにメンチを切られる。
こいつの方がヤンキーっぽいとは口が裂けても言えな......
「俺よりヤンキーに向いてるなお前!」
「( ˙-˙ )」
「えっ!?なに!?それどういう表情!?」
思わず口が滑ってしまった俺に真顔を向けるファズ。
逆に怖くなって身震いする。
こういう時こそ話題転換大事!
「そういや、シスはクレイクってやつのことなんか知ってんのか?」
「そりゃあるさ。なんと言っても彼は私の目標とも言っていい存在だからね!」
「目標?」
シスはファズに迫る、と言うより迫っても迫らなくてもとりあえず全世界の男が嫌いなので目標にしているというのはすごく意外だった。
ファズの話によると、この前ファズに目線を送った男にシスが握手を求め、そのまま感電させたらしい。
口より先に手が出るという言葉がこんなにぴったりなやつ初めて見た。
「あぁ。彼は若いうちから天才と呼ばれ、魔法の素晴らしさを人々に教え、ニールの街を栄えさせたんだ!」
「......魔法を栄えさせた?」
その言葉でマーシャの眉間にしわが寄り、負のオーラが放出された。
女って怒らすとすごく怖い......。
「いや待つんだマーシャよ、怒るんじゃない!シスの事だからそんなにまともな理由で目標にしてる訳じゃないはずだ!」
「失礼な!彼は偉大なる魔法使いで、街を豊かにし、富と地位と権力を手に入れ、妹と結婚し、民からは慕われ、兄妹2人で慎ましく暮らしている素晴らしい男なんだぞ!」
「いや待て!今妹と結婚したとか言わなかったか?」
「はて?そんなこと言ったかな?」
すっとぼけるシス。
なんとなく察したが、シスが目標にしているのは魔法使いとしてのクレイクではない気がする。
キリッとした表情のシスにファズが歩み寄る。
「シス兄さん、本当にその人が凄い魔法使いだから目標にしてるの?」
「実際はそんなことクソほどの興味はないが、妹と結婚しているのが羨ましすぎるので、私もああなりたいと目標にしてるのさ」
「╮(´・ᴗ・` )╭」
ほらこれですよ?
的な顔文字のファズ。
どうやら兄の扱いは心得ている様子だ。
俺たち(シスを除く)は若干の不安を残しつつ、ニールに向かうことにした。
2日間かけてやっとニールの街へたどり着いた。
途中で何度もイチャついて来たマーシャにデレていた俺をファズの命令でシスが攻撃してきたこともあった。
ファズに求婚を申し込んだ男を俺が返り討ちにしたこともあった(シスはすごく上機嫌だった)が何とか辿り着き、一安心だ。
「うっおー!!!やべぇ!!!」
語彙力の低さもあってやばいとしか言えないが、ニールは都市部らしく、高層な建物が所狭しと建っている。
空中にも魔法使いが何人も飛んでおり、魔法使いの街と呼ばれているのが見て取れた。
門を通る前なのにテンションが上がる。
「そこの4人!この街に入る許可書は持っているか?」
警備兵と思しき人物が俺たちの行く手を阻む。
するとシスが前に出て説明を始める。
「私は隣町のシス・マクテリアだ。クレイク・マウス様に用があって参った」
「!これはこれはシス・マクテリア様とは知らずご無礼を。どうぞお通り下さい」
顔パスで通れるとかすげぇけど、あの警備兵の人はこいつの中身知ってるのかなぁ......。
門を通され進んだ先は昼間だというのにやたら明るく、パレード状態だった。
どうやら路上販売もあるらしく、様々な声が聞こえる。
「妹饅頭はいかが〜?」
「妹ジュース安いよ!」
「妹ジャケット入荷しました〜!!!」
「「この街は終わった!」」
俺とファズが声を揃える。
妹饅頭と妹ジャケットならまだ辛うじてギリギリ何とか分かる。
妹ジュースってなんだ!?
エロいやつか!?
エロいやつなのか!?
頭おかしいだろ!
「ははは!素晴らしい!なんと心地が良いのだ!」
両手を広げ、深呼吸するシス。
こいつ、紛れもない変態だ!!!
「私、この街を見ていた時は頭がおかしくなったんだと思いましたよ......」
マーシャが頭を抑える。
その気持ち俺も痛いほどわかるぜ......。
「にしてもどうなってんだ?」
こんなにも妹ばかりの街、普通ならありえない。
180度首が回ったシスが答える。
怖ぇよ......。
「クレイク様はあまりにも皆に讃えられており、街の王よりも遥かに慕われている。そのクレイク様の妹愛が興じてこの街を変えたというわけさ!!!」
「えっ、帰りたい」
本心からそう口にすると、空から「妹〜!」という声がした。
滅茶苦茶関わりたくないが、恐らく俺たちは絡まれる運命なんだろう。
その声の主はシスの前に着地した。
「むむっ、何やら妹愛がやたら強いのが来たと思ったら我が親友シスではないか!!!」
「おおっ!会いたかったぞクレイク様よ!」
どうやらこいつが俺と戦うクレイクのようだ。
紫の髪の後に流し、ごつい眼鏡をかけ、高身長のまたもやイケメンである。
俺の勘だが、変態はイケメンが多いんじゃないのか?
「妹してるか?」
「勿論!そっちは?」
「我が妹していない時などかつてあったか?」
妹してるって何?
こいつらなに通じ合ってるの?
というかファズがさっきから一言も喋ってないんだが!?
「( ˙-˙ )」
この顔前も見たけどほんと何の表情なの!?
「そうだなはっはっはっ!!!」
「がっはっはっは!!!」
豪快に笑い合う2人。
同じ馬鹿は通じ合うってことだな。
よし!
いいことが分かったので、
「おうち帰っていい?」
「我慢しましょう......」
「ワタシ、ココキライ」
不安に押し潰されそうな俺たちだった。
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