第9話
「んで、次はどこに行けばいいんだ?」
シスが目を覚ました後、ファズとシスは家族に旅に出ることを伝えるために客間を出たので今この客間には俺とマーシャしかいない状態だ。
だだっ広い部屋のテーブルを挟み、俺とマーシャはふわふわの椅子に座りながら紅茶を啜る。
「......ねぇ、クルシュさん、私常々思ってることがあるんですよ」
「ん?何をだ?」
突然意味ありげに目を細めポツリと漏らすマーシャにまた碌でもないことでも言うんじゃないかと若干疑いを持ちつつ、ほっといても勝手に喋るので一応尋ねてみた。
「......私って、次の相手の場所を伝えることしか役目がないんですかね?」
「聞き込みでもしてくるわ」
「別に嫌なわけじゃないんですよ!私の役目を無くさないでください!私に聞いた方が早いし正確ですよ?ね?ね?何でもしますから!」
なんだこのウザイ彼女の典型的なやつは......。
マーシャも思うことがあるのか、必死になって食って掛かる。
唯一の役目の情報を伝えることを無くしたら彼女はただのお荷物だ。
神の力が無くなっただけでこうも変わるのか......。
「分かったけどお前今なんでもするって言ったな?」
「ま、まさかあなたの妻になれと!?いいですよクルシュさんなら......。あ、後私尽くすタイプなんです。」
「あれ?この子こんなに人の話聞かない子だっけ?というか、俺と結婚してもいいとかそれこそ冗談だろ」
若干嘲笑混じりにマーシャの言葉を否定する。
「結婚してもいいってことに至ったことについて話すのは少々長くなりますが、いいですか?」
「あ、あぁ」
真面目な表情で俺を見据えるマーシャを見ると、さっきまで散々はしゃぎ回っていたマーシャとは別人のように思えた。
それにどうやらマーシャは本気で俺と結婚してもいいと思っているようだった。
「私はこの世界をずっと見てきました。ずっとと言っても私の母が神をやめたのが13年前なので私が3歳の時からです。」
なるほど、神は引き継がれるという事実は知らなかった。
そしてもう1つ分かったことがある。
「マーシャって、16歳なのか......」
「神妙な顔でいうことがそれですか?今のはサラッと聴き逃してもいいところですよ?」
真顔で突っ込まれると流石にこれ以上ボケられないな。
いや、別にボケたわけじゃないんだけど......?
「悪い、続けてくれ」
俺が促すとマーシャは再び話し始めた。
「最初は何も思わず、ただ人類を見ていました。しかし、何年が経つにつれて私はあることを思いました」
「あること?」
「はい、人類が魔法に頼りきっているということです」
確かに、ファズに聞いた話では1日に魔法を1回でも使わないやつはいないらしい。
魔法は生活の基盤となっているとのことらしい。
「それじゃダメなのか?確かに魔法は便利だし、頼っても仕方ないと思うが?」
「クルシュさんは昔と今の人類の違いを知っていますか?」
俺は首を横に振る。
そもそも、学校にも通えていないので、過去の出来事やこの世界のことはほとんど知らない。
言うなればファズが俺の先生みたいなものだ。
「私がその疑問を持ち、母様に尋ねると昔は電気や火、水は全て魔法を使わずに作られ、世界に供給していましたそうです。しかし今は全てが魔法で補えるので使っている人はほぼいません。この世は今や魔法でなんでもできてしまいます。ですが、もし魔法がなくなってしまったら?人類はそんな世を生き抜く術を持っていないでしょう?」
演説でもするようにマーシャは問いかけてくる。
もし本当にそんな世界だったら、と考えてみても全く想像出来ない。
「随分とまた壮大な話だな......。だがそれはあくまでもifの話だろ?全ての人類が魔法が使えなくなるなんて普通に考えてありえなくないか?」
「クルシュさん、よく考えてみてください。神がいるということはそれに対抗する者もいるということを」
神に対抗する者。
これだけはよく分かる。
何せ人が俺を呼ぶ際に使われる中傷が込められた言葉だからだ。
片時も忘れたことは無い。
「......悪魔」
「その通りです。クルシュさんが悪魔の子と言われていた所以は私のご先祖様が封印したと言われる悪魔が関係しています」
「......」
マーシャの言葉に返す言葉が見つからず、押し黙ってしまう。
悪魔の子と呼ばれている事実は知っているが、その悪魔がどんなやつなのか、何をしたのか、いつ生きていたのかは全くわからない。
幼少の俺は悪魔の子というのはほんの例えだと思っていたが、師匠によると悪魔は実在するとの事だった。
その言葉を聞いた時から嫌でも悪魔の存在を意識するようになった。
「悪魔は圧倒的な力を持っている代わりに魔法が使えませんでした。しかし、悪魔には1つの力があった。それは......」
今までのマーシャの言葉を総合して考えるに、その力の内容は1つに絞られる。
「全世界の魔法を使えなくすること......か?」
「そうです、そのため私のご先祖様は命を犠牲にして封印を施した。私のお母様によると封印はもう少しで解けそうらしいのです」
「まじかよ......」
恐らく全人類が知らないであろう事実を聞かされて薄い返事しかできない。
「悪魔は目覚めかけています。そして少量の力を使い、人類の内の新生児何名かに向けて魔法を使えなくする術を施しました。そうすることで、産まれた瞬間から迫害され、魔法使いを恨む気持ちが芽生える。そして復活した時に協力を仰ぎ、スムーズに人類を支配しようとしているのでしょうね」
どうやら俺は悪魔の力により、魔法が使えないらしい。
ということは、悪魔が復活した際には俺が悪魔に協力していたということだろうが、俺はこの世界を恨んではいない。
迫害されたとしても俺に関わってくれる人達が少なからずいてくれるからだ。
それよりもマーシャが今とんでもないワードを口にした気がする。
新生児の何名か?
「ということは何だ、俺の他にも魔法が使えない奴がいるってのか!?」
「えぇ、少なくとも後5名ほどいるはずです」
「俺の他に5人もいるのか......」
俺のような境遇のやつが5人もいたことを考えると逆に悪魔に物凄い怒りを覚える。
「私は可能な限り魔法が使えない人を探しました。そして見つけたのがクルシュさんです。あなたは家族に捨てられたというのに、魔法使いを心の底から恨んではいませんでした。むしろ、魔法が使えない自分の他の所を伸ばそうとしていた!」
「まぁ、使えないならその他を伸ばすしかないからな」
俺にはそれしかないから。
頑張っても誰にも評価されないことは知っていた。
でもこの世界に俺がいたことを少しでも覚えてもらうために俺は強くなろうと努力した。
「そこなのです!!!悪魔が封印されてすぐに人類はいつ魔法が使えなくなってもいいように知恵を働かせ様々な文明の利器を作り出しました。それが今では!」
テーブルを両手で勢い良く叩き、身を乗り出す。
自然と声が大きくなり、目からどんどん涙が溢れ出していた。
「それら全てを不用品と見なし、魔法主体の世界に逆戻りしてしまいました!私のご先祖様が命を懸けた結果がこれですよ!?なので私は街の権力のある魔法使いとクルシュさんが戦い、呼び掛けることによって過去の悲劇を起こさずに済むと考え、あなたを神にしました!!」
半ば自暴自棄になって叫ぶマーシャを正面から抱きしめる。
マーシャになんと思われようが関係ない。
俺には優しい言葉をかけることもできないし、マーシャを安心させることもできないが、そばにいることはできる。
「分かったから......。マーシャは1人でこんなにどうしようもない世界のことを考えていたんだな。マーシャは強いよ。よし!乗りかかった船だし、悪魔退治、最後まできっちり手伝ってやるよ!」
神になっちゃったわけだし、義務くらいはちゃんと果たさないといけないからな。
魔法使いはどうでもいいのだが、魔法が使えず迫害されているやつのことを思うと悪魔を倒さないと気が済まない。
「グル、えぐっ、ジュざぁん!!!」
嗚咽混じりにマーシャが背中に回した手で俺の服を思い切り掴む。
マーシャの話を聞き終わった俺には1つだけどうしても聞きたいことがある。
悪魔が蘇る?
人類が支配される?
そんなの関係ない。
俺が思っていることはただこれだけだ。
「どこら辺で俺のこと好きになったのかな〜とか思っちゃったり?」
「こんな深刻な話をしているのにどこかワクワクしてると思ったらそういうことですか!!!!!!」
丁度その時客間の扉が開き、家族に話をつけたと思われるファズとシスが入ってきた。
「ただいま〜、帰ったわ......よ」
ファズの言葉が途切れ、怒りのオーラがムンムンと漂ってくる。
「ん?」
「クルシュ?あんた何私の友達泣かせてるの?」
そこには傍から見ると美人を泣かせている最低男の絵が!
「いや、ファズ一旦落ち着け、待て、俺の話を聞け!2分だけでもいい!」
「( ^∀^)チョウシノンナ」
「謝るから許して?ね?」
「シス兄さん?」
「(*´˘`*)」
ファズに呼ばれたシスは俺に優しい目を向ける。
あぁ、君だけは信じてたよ、俺とのホモ疑惑の人......。
「すまないクルシュ君。愛しのファズのお願いを聞かないわけにはいかないんだ。大人しく死んでくれ」
「ギャァァァァ!!!!!!」
結局こうなってしまったが、マーシャのことをもっと知ることができたし、マーシャを抱き締めることができたのでプラマイで考えるとプラスだな!!!
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