第8話

「気を取り直して勝負の続きといこう!」


「あぁ、そうだな」


俺が返事を返した瞬間にシスが魔法を発動する。


「雷撃!」


「よっ!ほっ!」


間髪入れずに絶え間なく打たれる雷撃をかわしつつ、シスに接近を試みる。

だが、少し近づいたところでシスは後ろに下がる。

先程の戦いで見せたソニックブームを警戒してのことだろう。


「もっと近づければいいんだが......」


距離が遠いとシスには見切られるだろうから、なんとか接近したいが恐らくそうはいかないだろう。

シスの動体視力は凄まじく、反応速度も異常に早い。

シスに認識されないくらいの速さで接近しなければ勝てる道はない。


「私にそっちの趣味はないよ......っと!雷銃!」


シスは親指と人差し指で銃の形を作り、俺に人差し指を向ける。

その人差し指に収束された雷を銃弾のように飛ばしてくる。


「っ!反応出来ねぇ!?」


雷銃は雷撃よりもかなり速い速度で、どうにか認識はできたものの、反応が間に合わなかった。

手をクロスさせガードしようとするが、耐えられるかどうかの保証はない。


―パシュン!


「は?」


「あぁ、これは効かないのか」


雷銃が俺に当たる寸前のところで消失する。

俺の予想だが、雷銃は一撃の大きさが小さいため、雷撃に比べ殺傷力が少ないのだろう。

小さくすることで速さを上乗せしたのだろう。

加護の力は弱い魔法ならそれを無効化できるというもの。

街最強の魔法使いであるシスの弱攻撃を防げるということは恐らく他のやつの魔法ならだいたい防げるだろう。

しかし、弱い攻撃の無効化の判定が分からないので、出来るだけ魔法は食らわないようにした方がいい。

雷銃は無効化することが出来たので警戒は解いていいだろう。


「どういうカラクリかな?」


「1つ言えることは雷銃は俺には効かないってことだ、何なら試してみるか?」


「いいだろう、雷銃!」


俺の言葉に釣られ、雷銃を連射してくるシス。

しかしその全てが無効化され、俺には1つとして届かない。


「原理は分からないが、君には雷銃は効かないようだ。雷撃は避けていたことから察するに殺傷能力の弱い魔法は無効化されるってとこかな?それに君は魔法が使えないから遠距離系の攻撃が出来ないから私に接近するしかない。違うか?」


「あぁ、恐ろしいことに一言一句その通りだ」


シスの洞察力には驚かされる。

ほんの少しのやりとりで俺の特性、弱点を全て見破ってきた。

となればやれることは限られてくる。

俺の取っておきの十八番の出番だ。


「お前には言ってなかったが、俺にはいくつかの必殺技がある。さっき一言一句その通りだと言ったがそれは間違いだ。遠距離技?俺にだってそれくらいできるさ、なぁファズ?」


「まさかあんた!?遠距離って!?」


「全身全力の必殺!!砂かけ!!」


さっきのやりとりの間に握っておいた砂を全力で投げる。

この地面が砂でよかった。

しかもご丁寧に小さな石も混じっている。

筋力増強の加護が加わってとんでもないスピードで飛んでいった砂や小石はシスにもろに命中し、シスの体を後方に飛ばす。


「がはっ!?今何かを投げたようだが......はっ、砂煙!?ということはまさかクルシュ君は砂を投げて......!?」


「ご名答!お前の敗因はただ1つ!この中庭に砂を敷いたことだ!!!」


「くっ!!!」


砂煙で俺の姿が確認出来なかったシスは俺の接近に気付かず、避ける間もなく俺の放った拳で意識を失った。


「勝ったぜ!」


笑顔でファズとマーシャにグッドサインを送る。

だが返ってきたのは称賛の声ではなく、汚物を見るような目だった。


「「せこっ!!!」」


HAHAHA!!!

勘弁してくれよ!

魔法が使えないやつに何言ってんだ?

過度な期待なんて抱くもんじゃないぜ?

要は勝てばいいんだからな!


「ふっはっはっはっは!!!」


「「......」」


かくして魔法使いを倒すという目標を一歩前進させた俺は高らかに笑った。




―シス兄さんが意識を取り戻し、私は肩を貸して部屋に連れていく。

その廊下でシス兄さんはクルシュやマーちゃんに聞こえない声で私に耳打ちをする。


「ファズがクルシュ君と行動する理由はやっぱり......」


「その先は言わないで!クルシュやマーちゃんにも絶対このことは言わないで」


「私がかつてファズの嫌がることをしていないのはファズが一番よくわかっているはずだよ?」


「えぇ、そうね......」


少し感情的になったかもしれない。

しかしこの秘密は絶対に守らなければいけない。

そう、絶対にだ。

クルシュにだけは......










......私と同じ人だけには―










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