第7話

「さっきも見た通り私は雷魔法を得意とする。さぁ、貴様の得意な魔法も私に見せてみろ!」


雷魔法を打ち付けながら、シスは俺に魔法を打つようにと急かしてくる。

自分だけが得意な魔法を晒すのは不利と悟ったのだろう。


「クルシュさん、言う必要はないですよ〜!」


呑気に観戦しているマーシャから茶々が入る。

ファズは呑気そうに花壇の花見ている。


「(*´︶`*)♡きれ〜い♪」


俺の敵はシスじゃなくてファズなんじゃないのか?

俺の役目はマクテリア家を滅ぼすことなんじゃないかと割とマジで思う。

おっと、戦いに集中しよう。

マーシャは言わなくていいとは言ったが......


「......俺、魔法使えないんだわ」


「クルシュさん!?」


「!!!ほぅ、それでファズは......」


「兄さん......!」


マーシャは俺がわざと不利な情報を与えたことに戸惑っている。

そして、何かを察したようなシスとその言葉を止めようとするさっきとは違う真剣な表情のファズ。

今の俺の一言でこの場の空気が変わる。

こういう戦いの中での言葉のやり取りで空気を変えることは勝ちに繋がると師匠は言っていた。

まさにこの事だろう。


「ほっ!」


地面を思い切り蹴る。

ファズを捕まえる時に感覚は掴んだ。

シスの目の前まで一瞬で移動し拳を振り抜く。


「むん!」


「うおっ!!!」


拳が空を切り、ソニックブームを起こす。

それをシスは紙一重でかわす。

シスコンはシスコンでもこの街で最強の魔法使いの異名は伊達ではないようだ。

シスは近接戦闘にも慣れているようで、魔法が使えない俺にとってはだいぶ不利な状況となってしまった。


「なんだ今のソニックブームは!?当たったら死ぬぞ!?と言うか魔法が使えないんじゃなかったのか!?」


「だってそっちも殺す気で魔法打ってるじゃん、あとこれは俺の筋トレの賜物だ!」


「( ˘•ω•˘ )」


論破されたんだな......。

ただ、ソニックブームが出るのは俺も知らなかったので、また更に俺の力について知ることが出来た。

筋力増強はかなり凄い加護らしい。

それに加えて体への負担も少ない。

いつもと比べて少し疲れることしかデメリットがない、もはやチート能力だ。


「......そういえばお前らの目的は何なんだ?」


今のソニックブームで少し落ち着きを取り戻したシスが尋ねてくる。

おいおい、ファズが捕まっているだけで理由も聞かずに戦うとか手のつけようがないほどシスコンだぞ......

シスコンじゃなければいい兄貴なのにな。


「魔法使いをぶっ......」


「魔法使いをぶっ倒すことです!その為にフーちゃんに協力してもらい、まずはこの街の最強の魔法使いであるあなたを倒すことにしたのです!」


マーシャが俺の言葉を遮り、俺とシスの間に割って入る。

なんかいっちゃまずいことも言ってたような気もするが......


「という事はファズはそちらの仲間ということか」


「あっ、口が滑っちゃいました」


「馬鹿だろ......」


「╮(´・ᴗ・` )╭」


自らでロープを解きやれやれという表情を見せるファズ。

いや、やれやれじゃなくて、あなたかなりの大根役者だったよ?

相手がシスじゃなかったら絶対バレてると思う。

だが、ファズが捕まっているわけではなく、こちらの仲間だと知ったことでシスも落ち着いたようだ。

地面にどっかりと座って考え込み、暫くするとなにか閃いたようで勢いよく立ち上がる。


「それは私も協力していいのか?」


「は?お前何言ってるか分かってんのか?」


まさかの共闘の持ちかけに疑いの目を向け、シスを見る。

しかし、その目は本気で、何かを覚悟した者の目だった。

するとシスは顔を伏せ、拳を握る。


「私はこの世の中をいい世の中にしたい。君は魔法が使えないからと迫害されていたのだろう?噂で聞いたことがあるよ。魔法で人間の価値が決まるなんてそんなの間違っている!私は常日頃からそう思っている。だから君が魔法使いより強いということを証明できればこの世界の常識を覆せるはずだ!どうだ?私にもその手助けをさせてくれないか?」


こいつもこいつで考えがあったのか......

それに俺の事情も知っているようで、俺のために世を変えたいという。

これが本当なら俺は絶対にシスを好きになっていたかもしれない、いや、なっていた。

だが、少しの間こいつと接してきて分かったことが1つある。

その事実はファズは勿論、マーシャも分かったはずだ。

そう、シスは......


「シス......」


「シスさん......」


「兄さん......」


「「「で、本音は?」」」


「我が愛しのファズに婚約やら結婚やらを申し込む、自分は強い魔法使いだとか言っているうじ虫共を魔法が使えない君が血祭りにあげ、地位を無いものにするように私が工作するいい供述になるじゃないか......」


「「「納得!!!」」」


このシスコン全然ブレないな!

俺には微塵も興味がないようで、


「ぐへへへ、これでファズと私がゆっくりと愛を誓い合うことが出来る......」


さっきの素晴らしい演説はどこへやら、今はただの変態と化している。


「理由はあれですが、あなたのような強い人が協力してくれるのはとても助かります!ようこそ、私たちの軍団「魔法使い〇ね」へ!」


なんだそれ初耳だわ!

全世界の住人を馬鹿にするような軍団名をこの世界のヤツらが聞いたら蜂の巣にされそうだし、戦うの俺だからね?


「それについてはここでひと段落でいいだろう、しかし私はただ興味本位でクルシュ君とやりたい。どうだ?さっきの続きをもっとやろうじゃないか」


「あぁ、俺も物足りないと思ってたところだ。最後までとことんやり合おうぜ!」


互いを見つめ、様子を伺う俺とシス。

その横でファズは、


「┌(┌^o^)┐」


なるほど、さっきの俺たちの言葉が1つの誤解を生んだようだ。


「「誤解じゃぁぁぁぁ!!!」」


その時、俺とシスの気持ちが1つになった。

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