ノルンの場合 その2

 修道女をやっていた娘、ノルンが液化病に罹ったのは一昨年のことだ。いつも通り教会で最高神ガグーシャに祈りを捧げる儀式をした後、聖衣せいいから常衣じょういに着替えている時に左足つま先の異変に気付いたのだという。

 すぐさま解析局に連絡し、コジョから断熱帯を貰って今に至る。


「つま先か、すぐに気づけたのは幸運だったな」

「ああ、神々ノーツの加護だと言うのがノルンの口癖だ」


 液化病の患部は水の入った革袋のようなものだ。一度穴が開くとコジョの不可思議な道具でも癒すことができずに患部が全て流れ出てしまう。階段から落ちた時、うっかり左手を突いてしまったセルジオの最期を思い出す。彼の患部は肺まで進行していた。


「で、コジョから推進剤を分けてもらうまでの間に」

「俺の娘の話し相手をしてくれれば寝床と食事は用意させてもらうって事よ」


 次のコジョの日は一週間後だ。旅人のならいで浮き床以外に碌な財産が持てない彼らの最も重要な財産は、旅先で得た経験そのものだ。それを面白おかしく語ることで家を建てる旅人も居るのだという。


「食い物はほとんど不味い保存食料だけどな。外壁で風魚でも釣ってきてくれれば料理はできる。調味料はまだあるからな」


 このエルカシレ宗教街では料理をする機会が少ないのだ。住人であれば衣食住は約束されているが、それ以上はコジョから分けて貰わなければならない。そして宗教街である以上コジョへの出入りは制限されてしまう。


「願ってもない条件だ。さっそくだが大鳴き鳥の血と内臓で簡単な保存食を作ってある。生でも食えるが塩をまぶして軽く炙ると絶品なんだ、晩飯に出してくれ」

「なかなか魅力的な提案だが先に娘に紹介したい。えーと」


 ここまで来てお互いに名乗ってすらいないことに気が付いた。顔を見合わせて苦笑しながら右手を差し出す。


「料理人のエドワードだ」

「旅人のヒノという。一週間だが世話になる」

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絶望の治療薬 @hinononononono6

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