絶望の治療薬
@hinononononono6
ノルンの場合 その1
ガキの頃、近所に住んでた爺さんから教わった将棋というゲームで「にっちもさっちもいかなくなる」ことを「詰み」というのだそうだ。
先史文明時代のゲームだし、既に正しく伝わってない言葉なんだろうが、今の人類の状況を見事に表す二文字だと思う。
人類は詰んでいる。
でも、そんな中でも生きてる以上は生きたいと思うし、死なない為にはいろいろと方法を考えるものだ。俺でもそうするし。俺以外もそうするのだろう。
――――――――――――――――――――――――――――――
「いらっしゃい、旅人さんかい? 珍しいね」
「旅人相手に愛想よく挨拶するあんたの方が俺には珍しく思えるな。こいつを丸焼きにしてくれ。三匹はおっさんが取っていい」
カウンターに血抜きした大鳴き鳥を並べる。今朝狩ったばかりの新鮮な奴だ。
「・・・・・・若いのに気の毒に。発症はいつからなんだ?」
「背丈がおっさんの半分くらいの時さ。左腕から徐々に、な」
防刃断熱帯でぐるぐる巻きになった左腕を見せながら言った。
“液化病”正式名称は忘れたがナントカ性液化症候群とか言うらしい。ある日突然体の一部分が水のように透き通る奇病だ。透き通るだけで触れば肉や骨の感触はしっかりあるし、ほとんどの内臓や筋肉、脊椎が発症しても機能はそのままだ。
「ま、今時の旅人なんてだいたいそんなもんさ。顔や首辺りじゃないだけ俺はマシな方だよ。幸い進行も遅いしな」
それだけならそれほど問題ないんだが、透き通った部分を傷付けると中身が全部流れ出して二度と戻らない。しかも患部は個人差はあるもののじわじわ広がっていくのだ。
そして患部が脳にまで届いた時、その人間は知性を失う。脳の機能だけは代替してくれないのだ。
「・・・・・・丸焼き一匹で三匹は貰いすぎだ。釣りは渦巻き牛の燻製でいいか?」
「ありがたい、でも遠慮しておくよ。あんまりいろいろ持ってると野盗に狙われちまう」
「旅人のならいだったな。断熱帯だったらいいだろう、大した値が付くわけでもない」
「?」
俺が怪訝な顔をするとおっさんは苦笑しながら続けた。俺には泣き出しそうな子供の顔に見えた。
「うちの娘も罹患してるんだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます