第27話 片鱗
「……まじですか」
幸いにして、いなくなった三奈野さんは意外とすぐに見つけることが出来た。
しかし三奈野さんの周りには軽薄そうな二人の男たちがいる。
いわゆるナンパというやつなのだろうが、正直、考え得る最悪の状況であることには間違いない。
とりあえず僕は三奈野さんたちの会話が聞こえる程度まで近づく。
「ねえ君、一人なら俺たちと遊ばない? どうせ暇でしょ?」
「というか何でそんなおもちゃなんか持ってるわけ? ウケるんですけど」
「…………」
男たちはへらへら笑いながら、三奈野さんに絡み続ける。
対する三奈野さんはずっと無視を決め込んでいる。
「ねえってばぁー、そんな無視しないでよー。俺たちと遊ぼうぜって。楽しませてあげるからさぁ!」
そんな三奈野さんの態度に痺れを切らした男の一人が、三奈野さんの行く手を阻むように立ちふさがる。
そしてもう一人の男もその意図を汲み取ってか、退路を断つ。
「……っ!」
そこでさすがに三奈野さんも我慢の限界がやって来たのだろう。
怒りからか、肩が小刻みにぷるぷる震えている。
さすがにこれ以上は見て見ぬふりは出来ないか、と思わず息を吐く。
三奈野さんなら聖剣で男二人を斬り伏せたとしても何も不思議ではないのだ。
そんなことになればそれこそ警察沙汰になってしまう。
せっかく部活まで設立して授業中の平穏を取り戻したというのに、そんなことで僕の努力を無にするようなことをさせるわけにはいかない。
「すみません。僕の連れが何か?」
「っ!?」
すっと男と三奈野さんの間に身体を入り込ませる。
きっと二人には僕が急に目の前に現れたように感じただろう。
僕がそういう風にしたのだから当然といえば当然だが、案の定、二人の男は突然現れた僕に驚いている。
これでこのまま引き下がってくれれば楽なのだが……。
「な、何だよお前。俺たちが声かけてるんだから引っ込んでろよ」
そう上手くは行ってくれないらしい。
男たちは警戒の色を含んだ視線を向けてきながらも、数の優位からか再び勢いづく。
面倒なことこの上ない。
だがこのままでは余計に面倒なことになってしまうのは目に見えてる。
「…………はぁ」
何でこんなに不運なことばかりが重なるのか。
僕が魔王だから不幸属性でも持っているとしか思えない。
唯一幸いなのは、まだ僕たちのいざこざがそこまで目立っていないということくらいか。
だから少し手加減さえしてやれば、それでいい。
「
目を細める。
そして意識する。
僕は魔王だ、と。
そうすることで僕の中に潜む魔王の力が姿を見せる。
これくらいやれば勇者でなくとも、余程の
もちろん周りに影響が出ないように意識している。
こんなのは魔王の力の片鱗でしかないのだ。
「っ!? わ、悪かった!」
だが魔王の力の前では、それだけで十分だった。
男たちは僕たちの前から慌てるように走り去ると、あっという間にその姿は見えなくなる。
残されたのは僕と三奈野さんの二人。
そもそも僕が三奈野さんを追ってきたのは謝るためであって、ナンパを追い払うためではない。
それが気付けば三奈野さんの前で魔王の力を使ってしまった。
何となく気まずい空気が流れる。
「来るのが遅いのよ!」
そんなことを考えていた僕に突然、怒ったように言ってくる三奈野さん。
思わぬ言葉に僕は面食らう。
「大体、私たちは冷蔵庫を買いに来たんだから早く用事を済ませるわよ!」
「う、うん」
そう言って再び歩き出す三奈野さんは、いつもの三奈野さんだ。
きっと僕がさっきまで思っていたことを謝ったら謝ったで「そんなこと謝る暇があるならさっさと冷蔵庫を買いに行くわよ!」とかって怒られてしまうのが目に見えて想像できてしまう。
ただ、地図で見た電気屋は僕の勘違いでなければ逆方向だったような。
しかし何となくそれを今言おうとは思わなかった。
確かこのまま行った先にアイスクリーム屋があったはず。
不機嫌な三奈野さんには、そこで機嫌を直してもらうのが良いだろう。
もちろん謝罪も込めて僕の奢りだ。
三段重ねでも何でもどんと来い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます