第24話 中二部


「中途半端な楽しみで終わらせることなく、二度とない高校生活を謳歌するための部活動」——略して「中二部」が活動し始めて早二週間が経った九月下旬。

 初めはどうなるかと思っていたが二週間も経てば環境の変化にも慣れ、今ではすっかり中二部の一員として放課後の時間を過ごすようになった。


 そして意外なことに、この二週間で毎日欠かさずに部活に参加しているのは僕と三奈野さんの二人だ。

 僕はまあ暇だったから休むことがなかったのだが、三奈野さんは恐らく部長という立場上休むわけにはいかないとか思っているのかもしれない。


 柊木さんと小春先輩の二人に関してはどうやら放課後に用事があることが偶にあるらしく、しばしば部活動を休む。

 因みに今日もその二人はお休みだ。

 とはいえ元はと言えば僕に巻き込まれる形で部活に入ることになってしまった二人に部活動の参加を無理強いすることは出来ない。


 まあ実際のところ、部活に参加したところで何をするわけでもない。

 初めの頃は「魔王を倒す!」と息巻いていた勇者様も、今ではだらーっと机に突っ伏している。

 どんな時でも常に携帯していたおもちゃの聖剣も、今では部室の隅っこにぽつんと置かれている始末だ。


 勇者がそれでいいのかと思わずにはいられないが、僕も決して人のことを言える立場ではないのが辛い。


「ねえ朝野ぉー」


 僕がため息を零していると、ふと三奈野さんが声をかけてくる。

 因みに三奈野さんが呼び捨てで呼ぶのは僕だけだ。

 敵だからという可能性も、サキュバスである柊木さんを普通にさん付けしてることで否定された。


 恐らく三奈野さんの中で、僕だけがヒエラルキー的な問題で下の方に位置しているのだろう。

 まあ僕としてもそのことについて今更言及する気は全くないのだけど。


「あんたって、世界征服を目論んだりしないの?」


「また随分と唐突だね」


 一体何を言い出すかと思えば、本当に一体何を言っているんだか。


「だって私、自分で言うのも何だけど最近とか全然勇者らしくないじゃない?」


「まあ確かに。ちょうど僕も同じようなことを考えていたところだったんだよ」


 まさか勇者なんかと思考が被るとは思ってもみなかったが、実際、三奈野さんは授業中の「魔の気配がするわ!」とかもしなくなったせいで、最近ではクラスでも「ミステリアス美少女」などと噂されているらしい。

 まあ部活での三奈野さんを知っている僕からすれば「ミステリアス美少女(笑)」以外の何ものでもないのだが。


「それで気付いたんだけど、私が勇者らしくないのって魔王のあんたに魔王要素が皆無なせいなのよ」


「ものすっごい責任転嫁きたこれ」


 さすがの物言いに僕もびっくりだ。

 しかし勇者である三奈野さんは自分の言っていることがおかしいとは思っていないらしい。


「仮にあんたが世界征服を目論むとするでしょ? それで魔王のあんたに世界は追い詰められるわけ」


「ほうほう」


「そんなあんたを勇者の私が倒したら、私は世界を救った英雄になれるわ」


「それが目的か」


 思わずため息を零す。

 どうしてこの勇者様はそんなに私利私欲に溢れているのか。


「こんなこと言うのも何だけど、勇者とか魔王だからって無理に暴れたり世界を守ろうとしたりする必要はないんじゃないかな。実際『勇者が事件を解決!』なんてニュースがこれまでに一度でも流れたことあった?」


「それはきっと政府の偉い人が、私たちみたいな異端の存在を必死に隠しているのよ」


「そんなこと言ってたらきりないでしょ……」


 仮に三奈野さんの言うようなことを可能性として考慮するならば、それこそ何でもありになってしまう。

 それにもし本当にそんなことがあるにせよ、少なくとも今のところ僕たちの生活に影響が出ているわけでもないのに、わざわざ自分から渦中に飛び込む必要はないはずだ。


「だってつまらないじゃない。何か面白いことがあるわけでもない惰性な毎日を送ったところで何になるって言うのよ」


「……まあ、それは確かにそうかもしれないけど」


 三奈野さんの言い分も分からなくはない。

 確かに僕も”魔王”として普通とは違う生活には今でも憧れる時が無いとは言わない。


「でもやっぱりさすがに世界征服はないかな」


 あまりにスケールが大きすぎて、正直僕の手に余るというか。

 そんな話が出てくるのはせめて英語が人並みに話せるようになってからだろう。


「はぁ、魔王のくせに情けないわね」


 失礼なことを言いながらも、世界征服は諦めてくれたらしい。

 しかし僕がほっとしたのも束の間、何か思いついたように顔をあげる三奈野さん。


「ねえ朝野、ちょっと学校爆破してみない?」


「おい勇者」


 この勇者は一体どこに向かっているのか、誰か僕に教えてくれ。

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