第23話 話し合い


「それで、結局これはどういうことなの?」


 僕を含む三人の自己紹介がようやく一段落したところで、勇者の三奈野さんが事情の説明を求めてくる。

 因みに三人の本名も既に確認済みだ。


 三奈野さんの言葉に、僕の両隣に控える柊木さんと小春先輩が僕を見てくる。

 どうやら僕が説明しろ、ということらしい。


「一応もう一回確認するけど、ここにいる四人は普通とはちょっと違う存在だっていうことはいい?」


 魔王、サキュバス、聖女、そして勇者。

 どれもファンタジーの中で出てくるような存在だ。


 僕の言葉に三奈野さんも頷く。


「そんな僕たちだからこそ敵同士だとか言う前に、ひとまず四人で集まれる場所を作るべきだと思ったんだよ」


 三奈野さんはどうかは知らないが、少なくとも僕は自分が”魔王”であることを周りに知られたくはない。

 普通の男子高校生として高校生活を送りたいし、変なごたごたに巻き込まれたりとか、変人だと噂されたりとかは御免なのだ。


「だから――――”部活”を作ろう!」


 部活。

 それは僕たちが四人で集まるにあたって、一番簡単かつ一番効果的なものだ。


 何しろ部活さえ作ってしまえばそのための部屋も用意される。

 それだけでなく誰も寄り付かないようなこの場所なら、勇者がいくら騒いだところで何の問題もない。


「因みに顧問の方は既に確保してあるし、正式に部活動として始まるならこの部屋を部室にしてもいいっていう許可も取ってあるわ。つまり準備はもう全部できているから、あとはあなたが了承してくれればそれで万事解決ってこと」


 小春先輩が僕の代わりに説明してくれる。

 因みに顧問や部室などに関してはどうやら二人が色々と動いてくれたらしい。

 さすがというべきか、とにかく感謝しかない。


 まあただここで三奈野さんが僕たちの提案を断れば、全ては水の泡だ。

 僕は固唾を飲んで、三奈野さんの言葉を待つ。

 ただやはり勇者である自分が魔王と一緒の部活、というのに思うところがあるのか難しそうな表情を浮かべる三奈野さん。


「あ、因みにまだ部長とかは決まってないけど、私たち三人の中で立候補したりする人とかはいないからね?」


「やるわ!」


 思い出したように呟く小春先輩の言葉に被せるように、三奈野さんが叫ぶ。


「……それは部活を? 部長を?」


「両方よ!」


 やけに乗り気な三奈野さんは、誇らしげな顔で聖剣を掲げている。

 どうやら”部長”という響きがお気に召したらしい。

 もしかしたら魔王の上の立場、というのが勇者的に良かったのかもしれない。


「そ、それじゃあ三奈野さんが部長ということで」


 まあ何はともあれこれで僕たちが当初予定していたところまではたどり着くことが出来たわけだ。

 ここからはほとんど打ち合わせも何もしていない。


「え、えっとじゃあこれから何をしようか」


 案の定、何も思いつきませんでした。


 僕の言葉に呆れ顔を向けてくる小春先輩と苦笑いを浮かべる柊木さん。

 三奈野さんは未だに”部長”という言葉の響きに酔いしれている。


「朝野くん、まず部活動の名前を決めないといけませんよ」


 情けない僕を見兼ねた柊木さんが助言しながら一枚の紙を差し出してくる。


「これに部活動名、部活内容を書いてから顧問の先生に提出しないといけません」


 そういえばそんなことを昨日にも言われたような気がする。

 部活動名を考えてきてくださいなどと言われたが、すっかり忘れてしまっていた。


「ま、まあせっかく三奈野さんもいるわけですから、これから一緒に考えれば」


 そう言いながら、柊木さんが教室の隅から椅子を二つ持ってきてくれる。

 そして何故かもともと教室に置かれていたホワイトボードも準備する。

 机などがないのが残念だが、それはこれからどんどん用意していけばいいだろう。


「じゃあここは魔王様の朝野くんが司会をお願いしますね」


 あ、なるほど。

 ホワイトボードにも色々と書いていくから僕の分の椅子は無いんですね。

 立ったまましろ、と。

 はい、分かりました。


「それじゃあ第一回、部活動名&部活内容決めーっ! ……あ、すみません変なテンションで」


 ここぞとばかりにテンションを上げてみたのだが、誰一人として乗ってくれなかった。

 それどころか三奈野さんなんかは「早く進めろ」とばかりに睨みつけてきている。


 確かに第一回などと言ってみたが、第二回などがあるわけではない。

 というか部活動名をそんなぽんぽんと変えられるわけがないのだ。


 とはいえ少しくらい僕と一緒にテンションを上げてくれたって……え、そろそろ進行しろ? あ、はい。


「まあまずは部活動名から考えるとして、早速一人ずつ意見を聞いていこうか。柊木さんはどう?」


「わ、私ですか?」


 まさか一番に振られるとは思っていなかったのか、慌てて考え出す柊木さん。


「ま、魔王部とかどうですか……?」


 そしてしばらくの逡巡の末に、柊木さんが一つの案を出す。

 しかし何というかそのまま過ぎるような気もする。

 だが柊木さん自身それは十分に分かっているのだろう。

 恥ずかしそうに顔を伏せる柊木さんにこれ以上何かを言うのは忍びない。


「——却下よッ!」


 そう思っていた矢先、三奈野さんが突然立ち上がりながら叫ぶ。


「魔王部なんて名前にしたら、魔王がリーダーみたいじゃない! そんなの却下よ!」


 そこまで言わなくても、と思うが勇者にとっては重要なことなのかもしれない。

 それに柊木さんならそんな三奈野さんの気持ちも察してあげられるはずだ。


「じゃあ三奈野さんは良い案があるの?」


「そりゃああるに決まってるでしょ。勇者の私が部長なんだから勇者b「却下!!!!」――な、なんでよ!?」


 自信満々な顔で自分の案を発表しようとする三奈野さんの言葉を遮る。

 そんな僕の反応が納得いかないらしく、三奈野さんは不満を露にしている。

 しかし僕だってここで折れるわけにはいかない。


「理由は詳しく言えないけど、勇者の部活はだめなんだ!!!!」


「ど、どうしてだめなのよ!」


「勇者の部活はもう別にあるんだ!!」


「あるの!?」


 僕の言葉に驚きの表情を浮かべる三奈野さん。

 ただ柊木さんは不思議そうな表情を浮かべている。


「……この学校にそんな部活ありましたっけ?」


 さすが柊木さんというべきか、恐らく学校の部活をある程度把握しているのだろう。

 だが残念、僕が言っているのはそういうことではない。


「勇者の部活は、だめなんだ。他に有名なやつがあるから」


「……?」


「分かってもらえなくてもいいけど、とにかく勇者部はだめだから!」


 僕の押しに負けたのか不服そうに「わ、分かったわよ」と三奈野さんが引き下がる。

 別の勇者部との戦争とかにならなさそうで、とりあえず一安心だ。


「こ、小春先輩は何か良い案とかありますか?」


「うーん、私の考えたやつは部活動名と部活内容が一つになったようなやつなんだけど、それでもいい?」


「と、とりあえず聞くだけは」


 二人の案は没になってしまったので、順番からすれば次は小春先輩だ。

 だが正直あまり小春先輩に期待できるかどうかは微妙なところではある。

 しかしそんな僕の予想に反して、




「中途半端な楽しみで終わらせることなく、二度とない高校生活を謳歌するための部活動」




 先輩らしからぬ案に思わず驚く。

 少しポエミーな部分もあるものの、それも僕たちのような異端な存在からすればいいスパイスの一つになっているのかもしれない。


「……まあ、良いんじゃない?」


「わ、私もこれで良いんじゃないかと。部活動の内容としても分かりやすいと思いますし」


 他の二人の反応も上々だ。

 早速、柊木さんが書類に記入していく。


「じゃあ先生に提出しに行ってきますね――あ」


 記入し終えた柊木さんが席から立ち上がろうとして、自分の恰好に気付いた。

 さすがにこのまま職員室なんかに行けば大騒ぎになってしまうだろう。


「仕方ないわね。部長・・の私が持って行ってきてあげるわよ」


 するとやけに”部長”の部分を強調する三奈野さんが柊木さんから紙を受け取り、教室から出て行く。

 顧問の先生を伝えるのを忘れたかとも思ったが、書類にも書いてあるので恐らくは大丈夫だろう。


「……ねえねえ」


「? 何ですか、小春先輩」


 その時、ふと小春先輩が僕の耳元に顔を寄せてくる。


「さっきの私の案、どうだった?」


「え、意外ではありましたけど普通に良かったと思いますけど……」


 先輩ってそんなことを聞くようなタイプだったっけ、と疑問に思いながらもちゃんと答える。

 すると先輩は修道服を着ている姿からはとても想像できないような笑みを浮かべる。

 つまり普段の先輩の笑みだ。




「『中途半端な楽しみで終わらせることなく、二度とない高校生活を謳歌するための部活動』



 ————略して中二部」




「三奈野さあああああん、ちょっと待ってえええええええええええええ」


 僕は教室を飛び出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る