第19話 協定
「それでどうする? 協定を結ぶ?」
「そ、それは……」
小春先輩に答えを迫られ、僕は悩んでいた。
確かに協定を結んだことによるメリットは大きいだろう。
ただやはり聖女という点が、どうしても一歩踏み出すのを躊躇ってしまう。
「……分かりました。協定を結びましょう」
しかし最終的に、僕は先輩の提案を呑むことにした。
やはり大きなメリットにはそれなりのリスクは仕方ないだろうと思ったのだ。
「ただ一つ、条件があります」
「条件?」
僕が協定を結ぶにあたって、どうしても約束してほしいことが一つある。
「柊木さんの正体について、公言しないでください」
「……それだけ?」
僕の出した条件に先輩が首を傾げる。
もっと何か厳しい条件を出されると思っていたのだろう。
しかし僕にとっては今思いつく限りではそれが一番重要だ。
「僕については勇者のせいで『魔族』だというのが周知の事実ですが、柊木さんに関してはそういったこととは無縁の存在なんです」
幸い、小春先輩が興味があるのは魔王の僕だけだと言う。
それならわざわざ柊木さんをこんなことに巻き込む必要はないだろう。
ましてや柊木さんがサキュバスであることが学校の皆にバレるわけにはいかないのだ。
「そんな条件でいいなら、私は全然構わないけど」
先輩の言葉にホッと胸を撫でおろす。
これでとりあえずの僕の心配はなくなった。
「でも魔王様がこんな条件で協定を結んだりしていいの? 提案した私が言うのも何だけど、私ってあまり良い噂とかないし」
「それについては全然心配してないですよ」
僕の中での小春先輩はお腹が空いたらパンと飲み物をくれたり、僕の話を真剣に聞いてくれたりする良い先輩だ。
そんな先輩が簡単に約束を破ったりするとは思えない。
「そういうことは意外とスラッと言えるんだね」
鳩が豆鉄砲を食ったような表情の先輩が何やらぼそぼそ呟いたかと思うと、すぐにいつもの笑みを浮かべ言ってくる。
「それじゃあそんな可愛い後輩くんに一つアドバイス!」
◇ ◇
「……であるからにして」
小春先輩と協定を結んだ次の日、今は午後の授業の真っ最中だ。
先生の長ったらしい説明が続き大半の生徒がうんざりし始める頃、僕の方にも例のごとく睡魔が襲ってきた。
いつもなら何とか眠気を覚まそうと頬を
僕は睡魔に逆らうことなく、そのまま机に突っ伏した。
「魔の気配がするわ!」
その瞬間、教室の中にあの声が響き渡る。
見らずとも分かる、勇者だ。
恐らく今回も僕から漏れ出た魔力を感知し、おもちゃの聖剣を掲げているのだろう。
そして数秒後には寝ぼけている僕に「魔族め!」と聖剣を向けてくるのだろうと考えると憂鬱になる。
ただ、今日の僕はいつもとは一味違うということを勇者にも思い知らせてやろう。
「我は魔王! 全ての悪の頂点に君臨せし者!」
僕はそう宣言すると同時に勢いよく立ち上がった。
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