第10話 見てもいい
「見ても、いい……?」
柊木さんの言葉を反芻する。
しかしそれでも頭の中で理解するにはしばらく時間がかかった。
『見てもいい』
こんな素晴らしい日本語が、未だかつてあっただろうか。
少なくとも僕の中ではなかった。
ダントツで一番なのは間違いない。
「そ、それなら是非お願いします!」
これはもう我慢なんてしている場合ではない。
据え膳食わぬは男の恥、と昔の偉い人も言ってるじゃないか。
それにここで中断してしまえば、柊木さんを辱めずに済むどころか、むしろ柊木さんのサキュバスとしてのプライドを傷つけてしまうかもしれない。
そう、だからスカートの中を見せてもらうのは仕方ないことなのだ。
「そ、それじゃあいきますよ……?」
柊木さんは頬を朱に染めながらも、遂にスカートの中を僕に見せてくれよう――
ガチャリ。
————とした時、屋上の扉が開かれる。
あまりに突然だったために、僕も柊木さんも禄に反応することが出来ずにただ固まる。
「あら、お邪魔だったかしら?」
扉のところに立っていたのは、一人の女子生徒。
ただあまり見覚えがないことを考えると、恐らく先輩なのだろう。
「っ……!?」
そこでようやく我に返った柊木さんが小さく悲鳴をあげて身体を隠す。
とはいえはだけた制服から覗ける下着や、スカートをたくし上げていた柊木さんの姿は間違いなく見られてしまっているだろう。
男子じゃなかったことだけが唯一の救いではあるものの、何と言い訳すればいいか……。
そこで僕は改めて女の先輩を見る。
そして気付いた。
その先輩がかなりの美人なのである。
それも清楚な柊木さんとは反対の、見るからに色々と遊んでそうな感じだ。
しかもキャンディ棒を舐めているのがまたポイントが高い。
そして極めつけはその巨乳。
まさに男子たちの理想を具現化したような容姿の持ち主だった。
正直、柊木さんなんかよりもよっぽどサキュバスっぽい。
「清純お嬢様みたいな顔してるのに、案外やってることはやってるのね」
「っ……」
そんな先輩の一言に、真っ赤だった柊木さんの顔が更に赤く染まる。
「邪魔して悪かったわね。それじゃあ続きをどうぞ?」
そう言って、何事もなかったかのように屋上を去っていく先輩。
しかしその爪痕は当然小さくなく……。
「ひ、柊木さん大丈夫?」
とりあえず膝をつく柊木さんに何か声をかけなければいけないと近寄る。
さすがに柊木さんも自分のあんな姿を僕以外に見られて、大丈夫なはずがない。
「……朝野くん」
「な、何?」
近寄ると、柊木さんがゆらりと立ち上がる。
少し怖い。
「さっきの女の人の胸を、凝視してましたよね」
「え……」
思わず言葉に詰まる。
確かに僕はあの巨乳を凝視していたかもしれない。
いや、間違いなくしてました。
「私は胸が小さくてすみませんねっ」
僕が心の中で謝罪していると、柊木さんは拗ねたように屋上から走り去ってしまう。
正直止める暇もなかった、という訳ではない。
ただそれ以上に「柊木さん、それは間違いだよ! だって柊木さんの胸は”小さい”じゃなくて”無い”んだから!」と言ってしまいそうになるのを堪えるので精一杯だった。
本当にごめんなさい。
◇ ◇
「…………」
僕は、無言で椅子に座っている。
机を挟んだ斜め前の席には私服に着替えた柊木さんが座っている。
普段なら「私服の柊木さん、まじ天使」とテンションが上がっていただろうが、今に限ってはどう頑張ってもそんなテンションにはなれない。
というのも、僕の向かいの席には一人の女の人が座っている。
柊木さんと一緒で黒髪ロングのストレート。
綺麗な艶のあるその髪はまさに大和撫子を連想させる。
本当に、柊木さんが成長したらこうなるのだろうと容易に想像できる。
しかし柊木さんとただ一つ違うのは、その巨乳。
しかも大きいだけでなく形まで満点なその胸の持ち主は、何を隠そう、柊木さんの実の母親である。
そんな柊木さんの母親が、思わず引き込まれてしまうような微笑をこちらに向けてきている。
一体どうしてこうなった。
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