第17話 終幕の傍観者
ここはもう駄目だ。
燃ゆる街を見下ろし、魔術師は思った。
街は真っ赤に燃えていた。風に煽られ勢いを増す火が覆い茂る草木のように広がり、黒い煙を立ち上らせている。
魔女は死んだ。聖なる炎に焼かれて死んだ。
街の者達が炎の中で歌い、踊り、魔女が死んだことを喜んだ。
燃やされているのは十体のマネキン人形。どれも白いワンピースを着た、亜麻色の髪のマネキンである。彼らはそれを魔女だと言い、捕まえ、リンチし、火を付けたのである。それがマネキンであることも、十体もいることにも気付かず。
外壁から街が朽ちていく様子を眺めながら、魔術師は思った。
この街は死んだ。もう二度と元には戻らないだろう、と。
魔術師は何もしなかった。街がどうなろうと知ったことではないからだ。目的を果たせなかった今、考えるべきはシプレ・ライラローズの奪還方法だけである。
シプレは小型飛行艇に乗って何処かへ連れ去られてしまった。恐らく拉致したのは複数体の眷属を同時に使役していた、バストニア帝国軍のコートを着た男で間違いない。
追うべきか考えた。だが追うのは止めた。単独行動をしたら死ぬ可能性があるからだ。眷属を同時に何体も実体化させるなど異常である。下手に触ると怪我だけでは済まない。
それよりも一旦拠点に戻り、計画を立て直す方が賢明だ。
魔術師は混沌に飲まれていく街に背を向け、外壁から飛び降りた。
廃街のエルピス 森石乙太 @mori_o
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