第12話

「やりましたねぇ、シュン様! これで、初めての領地を獲得しましたよぉ」

「いやいや、領地とか言わないの。あくまで協力してくれるってだけだから」

 ミリアにはもう少し、言葉の選び方をどうにかしてもらいたい。彼女の発言のせいで、命の危機が訪れる可能性が増えている気がしてならないのだ。

「さてさて~では、印をつけておきますね~。え~っと、リィンバームは……あ、ありましたぁ!」

 ミリアは腰のカバンの中から、何やら紙を取り出して、そこにペンを使って印をつけていく。

「これって……地図か?」

「はい~! エクスフィアの~世界地図ですよぉ」

 なるほど。要するに、そこに征服できた地域を書き込むわけか……いや、別に征服はしてないけどね。

「……って、これだけ? え? リィンバームってこんなに小さいの?」

 世界地図で見ると、リィンバームはまさに『点』である。そして、この街の影響下にある地域さえ、ほとんど塵みたいな大きさだ。向こうの世界地図で言うなら、日本の四国程の大きさもない。

「これで……世界征服って絶対に無理だって」

「できますよぉ! シュン様ならできますぅ!」

「だ~か~ら~、その自信は……一体どこからくるんだよ!」

 ああ、ダメだ。やっぱり今すぐ、家に借りたいよ……本当に!

「お~い! シュン! 迎えに来たぞ」

「ミリアさん、シュンに何かされませんでしたか!」

 あれ? ティーネとヴァス? わざわざ、こっちに来たのか。

「二人とも、どうしたの? ノールーツの修理は終わったのかい?」

「いんや、まだだ。あとは他のに任せてきた」

「ヴァス、それってサボりってこと?」

「そうとも言うな! お前と同じだ!」

「ボクは市長さんに呼ばれただけだから。ヴァスとは違うから」

 ヴァスはボクの言葉を聞き流し、「固いことを言うな」とばかりに肩をポンポン叩く。

「もう話は終わってるのか? シュンを返してもらいたいんだが、いいよな?」

「ええ、もういいわ。お疲れ様、シュン君」

 視線を市長さんに戻すと、姿が壮年の女性に戻っている。こうコロコロ姿は入れ替わると、さすがに違和感がすごいことになってきた。

「さて、サボり仲間のシュン君。ここに一つ仕事があるんだ」

「勝手に仲間にしないでくれる? ……その仕事をするって話?」

「そう! いい勘してるな。実は最近、街の周辺でゴブリンがうろつきまくってるらしいんだよ。ゴブリン自体は雑魚で、これまでは中小のギルドが請け負ってたんだが、街がこの有様だろ? だから、俺らがいっぺんに退治しちまうってわけよ」

 なるほど。実力のあるギルドが出張れば、サクッと片づくお仕事ってわけか。まぁ、そのほうが効率はいいだろうけど。

 けど、ボクはヴァスの持っている仕事の依頼書を見て、ギョッとしてしまう。

「うん? ううん? 気のせいかな。桁がおかしいんだけど」

「そうさ! ゴブリンを千体打ちのめすんだぞ。大丈夫だ、俺ら三人が本気を出せば、そのくらいいけるって!」

「違う、そうじゃない! 倒す数じゃなくて、報酬のほう! 何これ、どうして報酬が五百ベルンしかないの? こんなの食事代にしかならないじゃないか!」

 ティーネがため息を吐く。

「コイツな、仕方ないとはいえ、街を壊したのを気にしてるんだよ。だから罪滅ぼしがしたいらしい……どうしてアタシらが巻き込まれるのかは知らないけどね」

「た、頼む! 二人とも! 力を貸してくれ! 調子に乗って、ゴブリン千体なんて引き受けたが、俺一人じゃ無理だって。な、な? 俺たちゃ、仲間だろう? 頼む、この通りだ!」

 う~ん、ヴァスの土下座は何度見ても見事だなぁ。

「仲間……仲間ねぇ。元は人間だったってことも、黒の兵団にスパイに入ってたことも、なぁんにも教えてくれなかった仲間だもんねぇ」

「ティーネ、お前……何もそんな言い方しなくても……」

 えげつない。言い方がえげつないよ、ティーネ。なんか、さすがにかわいそうになってきた。

 ボクは地べたに両手をついているヴァスの肩をポンッと叩いた。

「わかった。ボクは手伝うよ……だから、元気出して」

「シュン……お前って奴は、本当にいい男だなぁ」

 そんなに目を潤ませなくても……。

「だが、ミリアさんは渡さないからな」

 あ、そこはブレないんだ。

 せっかく助け船を出してあげたのに……恩を仇で返してくるとは。だから、少し意地悪をしたくなってしまった。

「どうしようかな? ミリアって美人だから、ちょっと惹かれてきたかも?」

「はぁ!? お前、それはないだろう! 男に二言は……」

 ヴァスの言葉を聞く前に、ボクは屋敷の門に向かって歩き出す。

「はいはい、仕事しにいくんでしょ! ねぇ、ティーネ。お願いだよ、手伝って!」

「う~ん、アンタの頼みじゃ仕方がないね。今回だけだよ!」

「ちょっと~待ってくださいよぉ! ワタシも~一緒に行きますぅ!」

「待ってください、ミリアさん! そんな……危ないですよ! っていうかシュン! さっきのどういう意味だ! おい、待てって!!」


 世界征服とか、世界救済とか……そういうのは実感が湧かないけど、もう少し、ここで頑張ってみるのはいいかもしれないな。

 そうしたら、世界征服も成功するかもしれないし!

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異世界救済には世界征服が正解らしい 五五五 @gogomori555

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