第11話

 なんだろう……すごく、ホッとした。

 自分にも誰かを守ることが……救うことができるんだって。

 まさか、ボク自身がこんなにも、誰かのために頑張りたいと思っていたなんてビックリだ。

「さて、シュン君に元気が戻ってきたところで、本題に入りましょうか」

 視線を市長に戻す。すると、そこには例の赤髪の美少女――いや、これも市長さんなんだけど――の姿があった。

 ドンッ!

 目の前にあったテーブルが空高くへと舞い上がる。同時に、市長さんが猛スピードでこちらに……いや、ミリアに向かって飛びかかった。

「私の街に何しにきた? 幾億の識者……いや、厄災者!!」

 首に手をかけられるミリア。それでも、まったく動揺する様子を見せない。

「そう言われましても~ワタシはシュン様のぉ、従者ですから~」

「その舐め腐った態度……相変わらず、腹が立つな! ミリオンの名を継ぐヤツってのは!」

「ちょ、ちょっと待ってください! 市長さん、何してるんですか」

 ボクは止めに入るが、聞く耳を持っていないらしい。

「ミリオン! お前の目的はなんだ! 言う気がないなら、このまま首を捻ってやるよ!」

「待ってください! 彼女の目的は……ボクらは、世界征服をするんです。世界を……救うために!」

「……なんだって?」

 市長さんがボクの言葉に反応した。

 思わず、とんでもないことを口走ってしまった。よりにもよって、何で本当のことを言っちゃうのか。くそっ、精神的に参っている時に、突発的な出来事が起こるのは勘弁してほしい……。

「ほら、あれなんですよ。世界中を……制服で埋めようかなって。そうしたら、みんな着る服で悩まないじゃないですか。ね?」

 ああ、何を言ってるんだボクは! 一体どこの変態だ! ボクは別に制服に萌えたりしない……多分、しない!

「世界征服……シュン君は、そう唆されたのかしら?」

「……唆された、わけじゃないですよ。ただ、それがみんなを、この世界を救う方法だって聞いただけです」

「今、『この世界』を救うと言ったね? 世界を救う、じゃなくて、『この世界』を救うって」

 事ここに至って、嘘を吐くのは得策じゃないな。

「……はい、言いました。ボクは異世界から呼び出されたんです。ミリアの力で」

「つまり、異世界から世界征服のために呼び出された……地獄の軍団と同じわけね!」

「逆です! ボクは……地獄の軍団を倒すために、この世界を束ねるよう言われたんです!」

 市長さんはボクをジッと見つめる。あまりの眼力に、ボクはごくりと息を飲んでしまった。脂汗が出る。ミリアは首を掴まれたままだが、そちらの様子に目を向ける余裕さえない。

 しばらく沈黙が続く。

 だが、市長さんは大きく息を吐いて、ミリアから手を離した。

 少しバランスを崩してよろけるが、彼女はすぐに体勢を直す。

「いいわ、信じてあげる。ミリオンじゃなくて、あなたをね……シュン君」

「あ、ありがとうございます!」

「それにしても、今度は世界全部を巻き込むつもりなのね。それなら、四百年前にその方法を試してほしかったわ。本当に……ミリオンというのは、つくづく腹が立つ存在ね」

 市長さんはミリアを再び睨みつける。

「そう言われましてもぉ、何代も前の~別人の話をされてもぉ、困ってしまいますぅ」

「白々しいことを。はぁ……まぁいいわ。とにかく、またヤツらが攻めてくるんでしょう?」

 市長さんは、散らかしたテーブルやイスを直しながら、ミリアに問いただした。

「はい~やってきますぅ。おそらく~、前回よりも~ずっと強力になってぇ」

「……そうなるわよね。私達の時も、そのせいで苦戦を強いられたんだから。でも、まさか英雄の次が、世界征服とはね。さすがに驚いたわ」

 それはそうだろう。

 英雄が勝てなかった相手と戦うなら、世界征服をすればいい……って、どういう発想なんだ。ボク自身もいまだに疑問である。

「では、シュン君。今後、リィンバームはあなたに力を貸します。地獄の軍団と戦うため、一緒に頑張りましょう」

「こ、こちらこそ!」

 ボクは市長さんが差し出した手を握り返した。

「きっと命懸けになるけれど、ね!」

 聞きたくなかった。

 いや、そうだろうとは思っていたけども。改めて聞かされると、本当にこれでよかったのか、わからなくなりそうだ。

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