第10話

「ほらほらっ! さっさと片づけて、修理もチャッチャと進める! ここが終わったら、今度は街の修復を手伝うんだからね!」

 ティーネの張りきりぶりに、カーマインのメンバーは苦笑いばかりを浮かべている。

「ほら、ヴァス! なぁにを休憩してやがんだ! さっさと仕事しろ。三倍……いや、他のヤツらの五倍は仕事しろよ!」

「ちょ……なんだ、そりゃ! 俺ばっかりにしんどい仕事を押しつけて、労いの言葉もなしか?」

 ヴァスは渋い顔をするが、ティーネはすまし顔で言う。

「ノールーツをぶっ壊したのは、誰だったっけ? アタシのお腹に容赦ない踵落としをかましたのは、どこの~どちら様でしたっけ~?」

「うぅ……だから、それは仕方なかったんだって! こっちは潜入任務だったんだよ。あの時は、あくまで黒の兵団の一員として……って聞けよ! おい!」

 昨日の夜から、この調子のやり取りがずっと続いている。ティーネも、そろそろ許してあげればいいのに。

「シュン様~! そろそろ行きましょう~?」

「あ、うん。わかった、行くよ」

 ボクはミリアに返事をすると、そのままノールーツの出口へと向かう。

「おい、シュン! 気に病むことはねぇぞ! むしろ、俺がしっかり捕まえられなかったのがいけねぇんだ! なっ?」

 荷物を運んでいたヴァスが、こっちに気づいて声をかけてくれた。ボクは軽く手を振って、返事はしなかった。

 ノールーツを出ると、目の前には大きな壁。昨日、ボクがスキルを使ったせいで、ノールーツからの出入りを阻むように、土壁が延びてしまっている。

 何とか入り口になるよう、トンネルを掘ってはあるものの、コイツをどうにか引っ込めたい。だが、ミリア曰く「掘って壊すくらいしかない」らしい。街中でスキルを使って吹き飛ばすという方法以外だと。

 トンネルを通り、そのまま歩いていくと、街の大通りに出た。昨日の騒ぎは何とか収まり、街の人達は片付けに勤しんでいる。

 結局、ルードヴィッヒが倒れたことが広まると、黒の兵団とヴァーレンカイトは大慌てになった。どうやら、今回の反乱は完全に彼一人が先導したものだったらしい。

 加えて、反乱を起こした連中が混乱すると同時に、小規模あるいは中規模のギルドから、反転攻勢に出るものも現れた。おかげで、敵の士気はダダ下がり。残った連中は投降するか、街から逃げ出してしまった。

 壊れた街を尻目に、ボクとミリアは大通りをまっすぐに歩いていく。目指すは市長の屋敷だ。

 正門は昨日の騒ぎで破壊されていて、ボク達を拒むものは何もなく、そのまま屋敷の庭へと足を踏み入れる。

 すると、庭の真ん中に白いテーブルが置かれていて、そこでお茶をする市長さんの姿が見えた。それは、昨晩見た露出の激しい服の……いや、真っ赤な髪の女性ではなく、最初に会った時の市長さんである。

「今日はその格好なんですか?」

「ええ、あちらは少し若すぎるから。少なくとも、街を収める者には、あまり相応しくはないでしょう?」

「それは……そうかもしれませんね」

 ボクは彼女の正面の席に座る。ミリアはボクの右隣に腰を下ろす。

「ごめんなさいね、こんな外で。屋敷は色々壊されてしまっていて、いつ崩れるかわからないから」

「いいえ、一部はボクが壊しているところもありますし」

「それで落ち込んでいるわけ?」

「え?」

「これでも数百年も生きているからね。男の子一人の心理くらい、軽く読めるわよ……というよりも、今のあなたの顔を見れば、誰だってわかるでしょう」

 今、自分がどんな顔をしているのか……そんなのはよくわからない。ただ、どうやら浮かない顔をしているのは確からしい。だからヴァスも、励ますようなことを言ったのだろう。

「落ち込んでる……そうですね、落ち込んでます。ボクは結局、特に役立ちませんでしたから」

「何を言っているの? あなたのおかげで、私は死なずに済んだのよ?」

「社交辞令はいらないですよ。首が落ちても死なない市長さんなら、ボクが何をしなくても、初めから……安全だったじゃないですか」

 つまらないことを言っている。その自覚はある。

 それでも、やっぱり言わずにいられない。

「ヴァスのことだって……初めから黒の兵団を疑っていたんでしょ? あなたとヴァスがいれば、今回のことはきちんと収まったんだ。ボクは……何も知らないまま、一人で舞い上がってただけで」

「ふふふ、なるほど。そういうこと。いいわね、若いっていうのは……そういう悩みを抱えるところとか。本当にクロノに似ているわ」

「からかわないでくださいよ! こっちは真剣に……」

「クロノスブレード。あなた、あの剣の効力は知っている?」

「え、いきなり何を……確か、『防御系のスキルおよびアビリティの効力を無視する』でしたっけ?」

 市長さんはテーブルの上に置かれていたティーカップを手に取り、ゆっくりと口元へと運んでいく。そして、一口だけ飲み、カップをそっと置いた。

「私は不死身ではないのよ。生来のアビリティ『死に至るダメージを無効化する』だけ。これは防御系のアビリティに属しているわ。意味は……わかるわね?」

 ボクはバッと顔を上げる。

「もし、わたしがあの剣で斬られていれば、当然命を落としていたわ。だから、あなたは私の恩人なのよ」

「そんな……でも。だって、ボクは……あの」

「ほらぁ、言ったじゃないですか~! シュン様なら~、何だって救えるんですよぉ!」

「ミリア……」

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