第9話
市長さんがボソリと呟く。
そうか! ミリアの言ってた地獄の軍団も、この世界とは違うところから来るって話だった。でも、そいつらがやってくる『地獄門』が開くのはもっと先のはず。
「門が開く時期がズレた? それか、違う場所から入ってきたとか? そういう可能性ってあるの?」
「さぁ~? さすがに異世界の話までは~詳しくないですから~。そういうのは~ご本人に直接ぅ、聞けばいいんじゃないですかぁ?」
「そうは言うけど、相手の正体もわからないんじゃ……」
「いや、交渉に来ていたヤツなら見かけたぞ。白いローブを纏ってて、顔までは見えなかったが」
そういえば、ヴァスは黒の兵団に潜入してたんだった。
「他には? 白のローブってだけじゃ、情報が少なすぎるよ」
「う~ん……ちょっとすれ違っただけだったからなぁ。白いローブと……腰にベルト、見たことのないアクセサリーを付けてて……あとは~」
「それじゃ、ヴァーレンカイトの連中と見分けがつかないよ……ていうか、そっちに紛れてたのかも。これは、あの女リーダーを問い詰めるほうが早いかもな」
「あ? 女リーダー? 何を言ってんだ? ヴァーレンカイトは戒律で女人禁制のギルドだぞ?」
「え?」
あれ、じゃあ、あの時ルードヴィッヒと一緒にいたのは?
……
ダッダッダッ!! バリーーーンッ!!
ボクは窓にも窓に向かって駆け出すと、そのまま外へと飛び出した。そして、外にいたゲンダに飛びつく。
「ぬお!? いきなりなんだ? どうしたのだ?」
「ゲンダ、飛んで! この街を回って!!」
「はぁ? 一体何を言っておる……」
「いいから、早く!」
ゲンダは鼻を鳴らしながら、翼を羽ばたかせ、空へと上昇していく。リィンバームの上空を旋回する彼に乗りながら、ボクは街を見下ろす。
「コモンスキル発動、テレフォート!」
視界がグンッと狭くなる。代わりに、遠くにあるものまで鮮明に見極めることができた。
街で上がっていた火の手はほとんどが沈静化し、夜の闇ばかりが映る。
ルードヴィッヒを倒してから、ほとんど時間は立ってない。その事実を知らず、市長の屋敷に攻め上がってくる連中は多い。
「けど、アイツはルードヴィッヒのそばにいた。だから、逃げ出している可能性は高い!」
屋敷から離れていく人影を探す。視界は暗く、この中から人を探すのは難しいだろう。でも、アイツが今でも白いローブを羽織っているなら、見つけられる可能性も……。
キラッ
「うん? 今のは……」
一瞬、暗闇の中で揺らめくものが見えた気がする。違和感を覚えた箇所を中心に周辺を探してみる。すると、街の中心から遠ざかるように、猛スピードで駆けていく白い影が見えた。
「見つけた! アイツだ! ゲンダ、あそこに突っ込んで!」
「なんだ、まったく……ドラゴン使いの荒いヤツじゃのう!!」
ゲンダはボクの指さした方向へと急降下を始めた。アイツがルードヴィッヒをけしかけた張本人なら、絶対に逃がすわけにはいかない!
ゴロゴロゴロッ……ヒュウウウゥゥゥゥ!!
遠くから雷鳴が響いてくる。急激に天気が悪化してきたようだ。
あれ? あ、そうか!
「ゲンダ! キミはボクを下ろしたら、山に戻って!」
「なに?」
「スキルの効果が切れる! キミの嵐が戻ってきたら、また街が壊れちゃうから!」
「むむぅ……お主一人で大丈夫かのう?」
「ああ、何とか捕まえてみせるよ!」
ボクはそう言うと、例の影に向かって、ゲンダから飛び降りた。
「まったく……ボクは高いところから落ちる呪いでもかかってるのかな」
落下する先を見つめると、それはちょうど白い影の正面辺りだった。
バッコーーーーーンッッ!
地面に叩きつけられる衝撃を感じる。今回もさほど痛みは感じない。
急に目の前へと落下してきた物体に驚いたようで、白い影は足を止めている。
「はぁはぁ……ちょっと待った! この街から逃げる前に、顔を見せてもらおうか!」
「死んだはずだと思っていたのだけど……まさかルードヴィッヒを倒しちゃうなんて驚いたわ。それも、こんなお子様が」
「それは……どうも。これでアンタが犯人なのは確定だな。さぁ、怪我をしたくないなら、投降して……」
カチャッ……。
聞きなれない音がした。白いローブの女は、手に何かを持ってこちらにかざしている。
「ここではなるべく使いたくはなかったけれど。普通の法術は通用しないみたいだからね」
「スキルだけじゃないさ。何をしたって、ボクには……」
キラッ!
月明かりが反射する形で、彼女が持っている『何か』の形が一瞬だけ目に映る。それはボクにとって、見慣れたものだ――ただし、実物は初めてだけど。
だから、ボクは反射的にその場から飛び退いた。
ガウンッガウンッガウンッ!!!
熱いっ!
何かが頬をかすめた。さらに、地面に固いものがぶつかるような音がする。ふと目を向けると、ローブの奥で女の驚いたような顔が見えた気がした。
けど、次の瞬間には彼女は走り出し、バランスを崩したボクの横を通り過ぎていく。すぐに振り返り、彼女を追い駆けようとした。
ガウンッガウンッ!!
だが、そこに再び二発の『銃声』が響いた。驚いて、ボクは一瞬立ち止まってしまう。足元に弾丸が突き刺さり、石畳を抉る。
「今のは、拳銃だった……? あんなものが、ここに?」
ボクはふと、自分の頬に手を当てる。
ローブの女が撃った最初の弾が掠ったせいで、頬に焼き切れたような傷になっていて、そこから血が滲み出ていた。
「いっつぅ……」
ボクは女の逃げた方角へと目を向ける。そこには真っ黒い闇だけが浮かび、地面には白いローブが脱ぎ捨てられていた。
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