第8話

「あ……あぁ……うぁ」

「素直に答えなさい。あなたに力を貸していたのは誰? 一体どの国から支援を取り付けていたの? 東のライマーラ? それとも祖国である聖バーザム帝国かしら?」

「……違う、どっちでも、ない」

 市長さんとヴァスは顔を見合わせる。どうやら、二人の間では、そのどちらかが本命だと思っていたらしい。市長さんはもう一度ルードヴィッヒに問いかける。

「では、一体どこと手を組んでいたの? まさか、南部連合ではないでしょう?」

「……違う、あいつらは……何者か、知らない」

「はぁ!? 相手が誰かも知らず、手を組んだっていうのかよ!」

 ヴァスは思わず声を荒げる。

 当然だろう。正体もわからない相手と手を組んで、街の占拠を目論むなんて、こんなバカげた話はない。

 ボクは何とか立ち上がって、市長さん達のほうへと歩いていく。

 ヴァスは呆れた顔を続け、市長さんは何やらブツブツと独り言を繰り返している。どうやら、考えをまとめようとしているらしい。

「相手が何者かわからないのに、どうして信用する気になったのさ。あんた、簡単に人を信じるタイプじゃないだろ?」

「……力を見せた。俺に……剣が使えるように……した」

「なっ……それはどういう……」

 ズッドォォォォォンンッッ!!

 衝撃が響く。何が起きたのかと、ボクたち四人は周囲を見回した。

 すると、窓の外が何かで塞がれていることに気づく。次の瞬間、何かの巨大な瞳がギロリと部屋の中をのぞき込んできた。

「おお、どうやら無事のようだな、シュンよ。作戦は無事に成功という……おや? これは、ずいぶんと懐かしい顔ではないか」

「あら? 久しぶりね、ゲンダリオン。四百年ぶりというところかしら? ずいぶんと老け込んだんじゃないかしら?」

「フンッ! お主は相変わらず口が悪いのう。見た目の一つも変わらんとは、化物ぶりは健在と見た。さすがは我が友を口説き落としただけのことはあるのう」

「……余計なことを言うと、くびり殺すわよ?」

 え? この二人、知り合いなの?

 いや、それよりもゲンダがここにいるってことは……。

「シュン様ぁ! さすがですぅ。ワタシは~シュン様ならできるってぇ、信じてましたよぉ」

 部屋に入ってくるなり、ミリアはボクに抱きついてきた。相変わらず、柔らかい胸元……じゃなくて!

「話を戻しましょう。ルードヴィッヒ、剣を使えるようにしたって、一体どういう意味……」

「それは、おそらくクロノスブレードのことね。本来、あれは『英雄』の称号持つ人間にしか扱えないのよ。てっきり、ルードヴィッヒがその称号を得たのかと思っていたけれど」

「う~ん……ちょっとぉ、見てみましょうか~。コモンスキル発動、ライズ・アナライズぅ」

 ミリアは右手を黒い剣にかざし、スキルを使用する。すると、彼女の目の前に、文字の羅列が浮かんできた。

 基本的には、分析対象となるアイテムの情報だが、一つだけ明らかに不自然な表示がある。


 使用条件:英雄あるいはルードヴィッヒ


「なんだこれ! 後から書き足しました感が、酷すぎるでしょ!」

「そうですねぇ~、これは~びっくりですね~」

「こんな条件、あるわけないわ。どうしてこんな……できるの、こんなこと?」

 市長さんが動揺している。

「できませんよ~。アイテムのステータスを書き換えるなんて~。アイテム自体を作り直すならぁ、話は別ですけど~。使用条件だけを変えるなんて~この世界の住人には無理ですよぉ」

「この世界の住人? あなた、何を言っているの? というか、あなた何者?」

「そういえば、二人は初対面だったっけ? えーっと、ミリア、こちらは……」

「知ってますよぉ。ゲンダリオンと同じ~英雄クロノの仲間でぇ~、宵闇に踊る緋……ゾルダート伯爵ですねぇ」

「……ずいぶんと古い呼び名を知っているわね?」

「もちろんですよぉ。ミリオンの名は~ダテじゃないですからぁ」

 ミリオンという名前を聞いた瞬間、市長さんが苦い顔を浮かべた。まるで、嫌いな食べ物を無理やり飲み込む時のような、不快感いっぱいの表情。

「なるほど……『幾億の識者』とは……運命っていうのは皮肉にできているらしいわね」

 そう言うと、市長さんは大きなため息を吐いた。二人以外は、ボクも含めて首を傾げてしまう。

「それで、さっきの質問の答えは?」

「質問~? あぁ、この世界の外の人間なら~ステータスの書き換えもできるかもしれないって意味ですよぉ。シュン様みたいにぃ」

「ボク? え、まさか、ボクが犯人だって言ってる?」

 いやいや、この場面で言っていい話じゃないでしょ。本当に、空気が読めないって恐ろしい!

 うわっ、本当にみんな、こっち見てるし。

「違うよ? ボクじゃないですよ? いや、ホントに!」

「もちろんですよぉ。『征服者』であるシュン様にはぁ、ステータス書き換えは無理ですから~」

「そういう大事な情報を先に言いましょうね。誤解の元にしかならないから!」

「異世界の住人……まさか、地獄の?」

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