生きる

 手に取る。掴む。

 圧力と摩擦に応力。素材ごとに異なる閾値。

 収束曲線、予測値、特異値。

 アラームが鳴る。目を瞬くその前で、兎リンゴは無残に散った。


 動作とは、筋肉負荷と感覚からの入力を、経験で補正した演算結果の出力であり。

 脳の単なる計算なのだと言い換えることすら出来てしまう。


 アームを伸ばす。ヘッドギアを介して命じる。

 リンゴを突く。リンゴが揺れる。リンゴを挟む。兎リンゴの耳が揺れる。

 モニタの中でグラフの線は上昇し、CGは赤色を増す。

 力を加える。チキンレースに挑むように。

 持ち上げる。持ち上がる。そろりとアームを水平移動。口元まで。


 唇が触れ。舌が感じた。


 失った四肢とメタルの義肢。

 生きると言う、そのことを。

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300字絡繰りグルメ映投箱 森村直也 @hpjhal

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