第98話 その視線に気づかずに
リューネブルク市・上級区前・ヘルムート橋―――
「地下からの奇襲作戦は失敗、敵軍に動揺がありません、突っ込んできます」
「もう、見えてますわ、ファーヴニル軍が進軍してくるのが……地下との連絡・伝達に問題がありますわね」
「突貫工事の上に元々、こんなにも早くリューネブルク市で市街戦をするなんて考えていませんでしたからね、準備不足でした……」
「でも、やるしかありませんわね、バルムンクの意地を見せてやりますわ!!」
司教府などの上等区と市街地を繋ぐヘルムート橋、そこにはバルムンクの主力軍、テレーゼとヴァンに率いられた三千の兵が河を隔てた城壁の上に陣を敷いていた。
かの大橋を渡れば上等区、つまりはこの城壁がバルムンクの最終防衛戦だ。
上等区の中心たる司教府には負傷兵や身寄りがなく、疎開に参加できなかった市民が避難している。
その内訳は孤児や年寄り、未亡人、そして焼き打ちになったライプツィヒ市の住民……正規軍たる法王軍ならともかく、賊に等しいファーヴニル軍やアールヴ人を人間とは思ってはいないスヴァルト貴族連合軍などが突入してくれば盛大な虐殺が巻き起こるだろう。
故にテレーゼらは剣を取った。彼らを暴虐から守るために……。
「来ます……!!」
「ヴァン!!」
「クロス・ボウ隊、武器を構えろ、狙いをつける必要はない、撃てば当たるぞ!!」
「おぉぉぉぉ!!」
上等区に繋がる他の橋は全て落としてある。敵の進軍を集中させるようにわざとヘルムート橋だけを残したのだ。
案の定、一万という大軍が仇となり、橋を渡るのにもたつき、極度の密集陣形にとなって動きが取れなくなる。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」
最前列にいたファーヴニルが矢を顔面に受けて苦しみのたうつ。
矢避けの盾を持っていたものの、混雑のせいでまともに構えることが出来ずに直撃したのだ。
「次、ムスペルの炎。これは数が限られています、無駄射ちにならないよう正確に、そして同時に効率よく叩き込め!!」
「はっ、プロージット!!」
矢の雨の次は炎の雨、ブライテンフェルト会戦に運びきれなかった分の焼夷兵器をここが終とばかりに遠慮なく寝返ったファーヴニル達にばらまく。
「あっ、嫌だ、あちっ、死にたくない!!」
「こっちへ来るな、おい、こいつを突き落せ……俺じゃない、俺じゃないぞ、あ、ああぁぁぁぁぁ!!」
直撃は勿論の事、周囲に延焼し、水でも消えない殺戮兵器、極度の密集が仇となり、忽ち数十人が業火に焼かれ、冷たいエルベ河に転がり落ちていく。
十二月、冬の水温は凍り付くよう、落ちれば決して這い上がれない。
「あ……」
「どうしました、テレーゼ様」
人食い狼もかくやと言うように、冷徹に敵兵をあの世に送っていくヴァン、そんな彼がふと横を見ると蒼ざめたテレーゼの姿を垣間見えた。
「見知った顔がいましたわ」
「……」
「今、顔を貫かれた人、名前はギルベルト、確かまだ五歳の男の子がいたはず……」
「テレーゼ様」
「分かっていますわ、大丈夫……救うべき人間は選びます。それが今の私たちの限界ですもの」
やはりと言うか、テレーゼは寝返ったかつての仲間を心配していた。
彼女は動揺しながらも、彼らを見捨てると言う、しかしそれでも心配ではあった。
テレーゼは優しい、見知った仲間、共にブライテンフェルト会戦を戦い抜いた人間が助けを求めてきた時、彼女は本当に冷静な判断ができるというのか。
相手は文字通り、人面獣心の輩だと言うのに……。
「たっ、助けてくれ……!!」
「一人、矢を掻い潜った……まずい、城壁の影に入られる。油を持ってこい!!」
三千人の五分の一、六百の兵によるクロス・ボウの一斉射撃、それを掻い潜った者がいた。
彼は巧みに仲間を盾にして生きのびたのだ。その卑劣さ、身勝手さ、しかしそういった輩はおおむね、自分こそが最大の被害者かのように振舞う。
「助けてくれ……俺は無理やり戦わせられているんだ!!」
「よくも抜け抜けと……強そうな方に寝返った裏切り者が」
「頭に熱した鉛をかけてやれ、骨まで焼き尽くされればいいんだ」
男の訴えは通らない。なにせ、先の仲間を盾にした非道を城壁の上にいる兵士は見ていたのだ。
嘆願も白々しい事この上ない。だがここで大方の意見と異なる者が現れた。
「待って……私に考えがあります。あの男と話をさせなさい」
「テレーゼ様……彼は裏切り者ですよ、助けたところで、恐らくは」
「分かっています、大丈夫ですわ」
「ちょっと、くっ、躊躇なく飛び降りた!!」
城壁から地面まで三ディース(約十二メートル)、常人ならば飛び降り自殺をするほどの高さだが、テレーゼは壁を蹴り、柔軟な体を駆使してまるで羽毛が舞い落ちるように地面に降り立った。
天使か……そう呟いた兵士の声がヴァンの耳に届く。
「貴方を助けましょう」
「あ、まさか、そんな……」
助けを求めた卑劣漢とて、まさか本当に助けが来るとは思っておらず、心底、おどろいた様子だった。
しかしすぐに思い直す。それは喜びであった。
だがそれは純粋な感謝とは程遠く、そして無論、自らの所業を悔い改めたというものではない、間抜けなガチョウが目の前に現れたとほくそ笑む邪悪な微笑みであった。
「助けますけど、その代わり貴方が持っている情報を教えてくれます?」
「ええ……いくらでも教えるますよ、俺らは督戦隊と影の魔物に追い立てられて戦わされているんだ」
男はその邪悪な本心を巧みに隠しつつテレーゼと相対する。
ギリギリの瞬間まで、獲物がこの手の中に入るまで、研ぎ澄ました牙は隠し続けるのだ。
「影の魔物……?」
「シャルロッテとかいうクソガキです、あいつが小さな家ほどもある影の魔物を駆使して……あいつ、どこぞのお嬢様みたいに気取っているが本当は貧民上がりですぜ、混血の分際で上流階級とかありえない。今、奴は市街地の教会前で影の魔物に乗って待機しています。あそこからでも他の魔物を操れるようで……」
ひとしきりしゃべった後、男は媚びるような視線をテレーゼに見せた。
訳すれば、これだけしゃべったのだから助けてくれ、と言っているのだ。つまりは城門を開けてくれ。
しかし何百ダクト(数トン)あるか分からない城門は簡単には開かない、そして開けばそこからファーヴニル軍が突入するのも理解していた。
故に城門は開けられない。
つまり男はどうあっても城門の外には入れない。ならば考える事は一つ。
「ご苦労様……貴方の頑張りは必ずや私達のためになるでしょう」
「そうかい、じゃあ、少し早いが、代償を払ってくれよ」
「代償……?」
鼻息荒く、残忍な瞳をギラギラと輝かす男に比べ、テレーゼはあまりにも無垢だったかもしれない。
会話をしながらも、男は武器を構えたままだった。
「手前の首を持って行けばシャルロッテ様は俺を死術から解放してくださるかもしれない、死ねよ、淫売!!」
「私はシャル、何とかに恨まれてますの?」
「そうだ、あの方はお前を……えっ?」
飛びかかる男に対し、テレーゼは何もしなかった。武器を構える事すらしない。
その必要がない事が分かっていたのだ。
男が武器を振り落そうとした瞬間、男の背中に数十の槍が突き刺さる。
串刺しになった男は瞠目して背後に首を巡らせる。
「手前、仲間である俺を……」
「テレーゼの首を取ってシャルロッテ様に許されるのはこの俺だ!!」
数十の男が同じことを言った。誰もが救われるのは自分ひとりだと信じていたのだ。
「槍が重なっている、これならば私の体重を支えられますわね」
「何……!?」
しかし男達の希望と別にその中で救われるものはいなかった。誰も選ばれなかった。
男を串刺しにした槍の奔流、まるで一つの床のように重なり合ったそれはテレーゼにとっては足場であった。
まるで階段でも昇るように、跳躍した彼女が今度は飛び上がり、城壁の上を目指す。
「なっ、飛んだ!!」
「捕まえろ、矢だ、矢を放て!!」
「……まさか、あのガキ!!」
即座に空中のテレーゼを狙い、弓矢を構えるファーヴニル達、その反応速度はさすがは武の世界に生きる無頼漢である。
だがやはり混雑した状況が足を引っ張る。彼らが矢を番えるのに遅れた数秒、それでヴァンには十分だった。
「掴んだ!!」
そこには城壁から体の半ばを乗り出したヴァンがいた。
本当にギリギリの差で両者の手が交差する。
互いの手が重なり、飛んできた反動を利用してテレーゼの体を城壁の上に引き上げる。
その時間わずか数秒、互いの息が合わなければ決して行えない離れ業であった
テレーゼ、あるいはヴァンがいたところに数十の矢が突き刺さったのは刹那の後、彼らのラスト・チャンスは夢と消えた。
「帰還成功、情報を聞きだしました!!」
自らの成功を喜ぶテレーゼ、皆もまた先の無謀が万に一つの奇跡で何の犠牲もなく行われたことを言祝いだ。
その祝福もまた彼女には嬉しい。
「敵将はシャルロッテとかいう多分、死術士ですわ。市街地の教会ら辺にいるそうです」
「……」
しかし最も祝福してもらいたかった幼馴染の少年はいつもの仏頂面で……。
「テレーゼ様、目を瞑りってください」
「はい……?」
そしてヴァンは静かに剣を逆手に持ち、テレーゼの鼻に柄頭をぶち当てた。
ガンっと、いい音がする。
「痛っ……鼻血がでましたわよ!!」
「勝手なことをした罰です」
そっけなく言い放つヴァン、見方を変えれば部下の功績を正しく評価しないと言うべきだが、周囲の反応はむしろテレーゼが生還した時よりも安堵したものだった。
テレーゼが死ぬのではないか、彼女を知る者は純粋な心配、そうでない者は総統の義妹を死なせたことでどんな罰を受けるか危惧していたのだ。
ただそれでも、ヴァンはまだまだテレーゼに対しては甘い。
救いはテレーゼがヴァンの意図を理解した事。彼女は自分が言うほどに馬鹿ではない。
「ごめんなさい、少し無謀でしたわ。みんなにも心配させましたわね」
「分かればいいです、今後は慎んでください」
あくまでテレーゼを突き放すヴァン、ただし彼は同時に平等だ、テレーゼがやったことに対し正当に評価を下す。
「ですが、有力な情報が手に入りましたね、死術士シャルロッテ……あの女、まだ従軍しているのか」
「知っていますの?」
「ハノーヴァー砦で一度、戦ったことがあります」
ヴァンが思い出したのは決死隊として砦に潜入した時に会った時、あのグスタフと一緒にいた混血の少女。
今でも腸が煮えくり返る。
否、あの頃はそう考えなかったかもしれないが、今現在、変ってしまったヴァンは怒りを禁じえないのだ。
「味方の兵士ごと我が軍の突入部隊を城壁で押しつぶした女です」
「そう……あれをやったのね」
ヴァンの怒り、しかしそれよりもなお熱く、そして冷え冷えとした情動が辺りに広がる。
まるで人ならざる水妖のように、整い過ぎた容貌の美しい少女がそこにいた。
水晶を溶かし込んだような蒼い瞳と同じ色の透き通るような長髪、しかしその美しさに男は憧れない。
それはただ芸術品としての美しさ、人はそれに近づくことを畏れて、決して触れようとはしない。
テレーゼ・ヴォルテールという戦乙女は、怒りに我を失う時が最も美しいのだ。
(……ただ、私は畏れないですけどね)
テレーゼの変貌に気圧された周囲の兵士を横目に、ヴァンは気遅れもせずに彼女に意見した。
「復讐するにはまだ早いです。ひとまずはリヒテル総統に連絡しましょう」
「ヴァン……」
「大丈夫です、必ずその時は訪れます」
ヴァンはそう確約した。
別に嘘ではない。彼は自身の発言に責任を持って生きてきた。
何が何でも、どのような手段を用いても職務を遂行する。
その約束を違えたことはほんのわずかだ。
「……ハグしてもいいですか?」
「……?」
「いえ、何でもありませんわ」
しかしその固い意志は同時に周囲への盲目さにもつながる。
ヴァンは、時として職務以外のことがおろそかになる。
十年共に過ごし、時に背中を預け合った幼馴染が自分に視線を向けていることを、その目が潤み、その視線が甘く熟れていることも、彼は未だ正確に把握していない。
*****
リューネブルク市前・グラオヴァルト法国軍本陣―――
「総司令官閣下、どうやら貴族連合軍はリューネブルク港の制圧に成功したようです」
「意外と遅かったな」
「河底に丸太やら鎖やら罠が仕掛けられていたようです。座礁した船も多く、早くも港に向かった兵力の一割を失ったとか」
「無能共め……これで俺からウラジミール公爵位を奪おうとするのだから笑わせる」
ファーヴニル軍が地獄を見ていた頃、彼らをそこに送ったウラジミール公グスタフはそんな惨状は知らぬとばかりに昼食を取っていた。
献立はパンに去勢兎の串焼き、鹿肉のスープ、ザワークラフト、ドライフルーツのラード煮、デザートはドライフルーツにイチゴ、栗、飲み物にワイン。
戦場とは思えない程の豪華さだ。
無論、グスタフが戦時中にこのような食事を取るためには多大な労苦を補給部隊に強いることを知らない程、愚かではない。
ただこれは彼の虚栄心の表れだった。
自分は他者とは違う、その心情が露骨に表れた結果である。
「残存戦力は分かりませんが、この戦いに際し、貴族連合軍はかなり無理をして頭数を揃えたようです。しかしその分、質が落ちる。このままでは狭い前線に大量の兵力が集中します。そろそろ、ファーヴニル軍を下げるべきではないでしょうか」
グスタフと対峙するのはトリスタン竜司教、セルゲイ含む法王軍一万五千を統括する三人の連隊長の一人だ。
年齢は四十の半ばを過ぎ、限りなく老人に近づき、体の衰えを隠しきれない有様だが、数多の戦場を生き抜いた経験ではセルゲイとは比べ物にならない。
十年前の戦争でもスヴァルト連合軍に激しく抵抗した。
先代のウラジミール公に粛清されなかったのが不思議なくらい有能な人物なのだ。
「トリスタン、簡単に寝返る人間を大事にする意味はあるのか?」
「い、いえ……特にありませんが」
「だろう、ファーヴニル軍は全て使い潰す、一人も生かして返さない」
「……」
ただグスタフにとってみれば有能だが、それ以外に特筆する点がなく、面白味のない人物であった。
そしてこのような……「頭の悪い人物」は、彼にとって非常に与しやすい。
「気を付けるべきは補給線の維持だけだ。五万だか十万だかの兵士を食わせるのは大変だからな」
「いえ、それが他にも……」
声量を落とし、トリスタン竜司教がグスタフに耳打ちする。
その内容を聞き、彼の竜司教はグスタフが驚く様を予想した。
「市街の至る所に油の詰まった樽が、そして他にも可燃物が要所要所に配置されています。恐らくは市街地に火を放って我が軍を殲滅するつもりなのでしょう」
「なるほど、地下通路を建設した本当の理由はそれか」
リヒテル、第二の策である。
敵軍主力を市街地に集め、火を放って皆殺しにする。
放火の下手人は地下から逃げればよく、味方の被害はわずかになる。
ちなみに、バルムンクの本陣がある上等区はエルベ河で隔てられているために延焼の危険は少ない。
成功すれば何万人でも殺戮できる恐ろしい策だが、しかし見抜かれていた。
見抜かればグスタフにはそれが苦し紛れの悪あがきにしか見えない。
「このままでは前線部隊、ファーヴニル軍と貴族連合軍が大きな打撃を受けます。バルムンク、まさか市街地にあんな罠を仕掛けているとは……すぐにでも撤去いたしましょう」
「ほうっておけ」
「はっ……今、なんと」
「何もしなくていい、命令があるまで何もしなくていい」
驚愕したのはトリスタン竜司教の方だった。
この男は何を言っているのだ、その疑念が顔にありありと浮かぶ。
その露骨さ、腹芸の全くできない無骨なこの老竜司教の醜態を面白そうにグスタフは見やる。
「どうせならば阻止するのではなく、敵の策を利用してバルムンク軍を逆に殲滅する方が都合いいだろう」
「ですが……」
良識派の竜司教はなおも食い下がる。
大多数の味方を犠牲に敵を倒す。そんな策は実行する気にはなれなかったのだ。
……味方、しかしふとトリスタンは考え込む。
果たして、ファーヴニル軍、スヴァルト人の貴族連合軍は味方だろうか。
アールヴ人のトリスタン、十年前の戦争にて彼は一人息子を失っていた。
「お前は俺の命令に従えばいい。いいな、お前は命令に従った、何も悪くない」
「……」
トリスタンの葛藤を既に知っているグスタフは猫がネズミを嬲るように彼を弄ぶ。
何もかも知っていて、知らぬふりをして利用しているのだ。
「スヴァルト人は嫌いだろう」
「……」
「質問を変えよう、十年前に一人息子をなぶり殺しにした彼らが嫌いか」
沈黙が続く、トリスタン竜司教は皺が薄れる程に脂汗をかいていた。
「……憎んでいます、いえ、総司令官もスヴァルト人でありましたな」
「そうだぜ、しかもあの戦争を起こしたスヴァルトの貴族」
その瞳の奥、トリスタンの中に腐臭を放つ黒々とした熾火、だが彼はそこまでだ。
何もかも失った彼には職務に邁進する以上にできることはなかった。
復讐に身を焦がすには、彼はあまりにも年を取り過ぎた。
あるいはその気概がなかった。
「失礼いたします……」
熾火を消さぬままに戦場に戻る。
グスタフはそれを嘲笑う。彼がこの後、どのように動くか手に取るように分かっているからだ。
この戦いが終わった後、全ての罪を背負わせる犠牲の羊が一匹、完成した。
*****
リューネブルク市・近郊・攻防戦直前―――
「哨戒の騎兵を多数確認。ダメです、完全な奇襲は不可能です」
「さすがはグスタフね、付けこむ隙はないか……」
「補給ルートは幾重にもわたり、その一つ一つに護衛の大隊がついています。例え一つ二つ、大隊を潰しても大勢に影響は出ない模様……」
「マジですか、ああ……せっかく楽できると思ったのに」
「ブリギッテ、ちょっと、本音が駄々漏れすぎやしないかい?」
リューネブルク市近郊、海へと続くエルベ河のほとりにて数十の軍船が集結していた。
バルムンク唯一の水上戦力、すなわち神官軍である。
司令官は序列からヨーゼフ大司教、その下にブリギッテ竜司祭長、アロイス竜司祭長代行、そして傭兵隊長マリーシアが着任している。
「もう、この手しかないのだから仕方がないでしょう、言っときますけど手を抜いたら半年間、減給ですからね」
「待って、待ってくださいヨーゼフ学長、まだ借金が、借金が残っているんです。減給されたら生活できない」
「あんたらな、もう少し真面目に戦うことはできないのかよ、それをあたしのような傭兵風情に言われている時点で恥だからな」
互いに軽口を叩く中、その時が訪れる。
皆が甲板に屹立し、遥か遠くの守るべきリューネブルク市を仰ぎ見る。
「全軍、これよりリューネブルク市に侵攻するグラオヴァルト法国軍に対し、側面攻撃を敢行します、我ら真なる正規軍の力によって売国奴共を不死王の宮殿に送り返せ!!」
「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
悲壮の覚悟を胸に、数千の神官軍が今、死出の旅路に向かう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます