第79話 おかえりなさい

ロスヴァイセ連合軍対ライプツィヒ市駐留軍―――ライプツィヒ戦線・ロスヴァイセ本隊―――


「吹雪はまだ止まないのか」

「被害は……」

「今、確認します」


 ブライテンフェルト大草原、東の端、ライプツィヒ戦線では猛吹雪により戦闘が一時中止していた。

 吹雪が弱まり、他戦線が戦闘を開始し始めたが、それでもロスヴァイセ本隊は動けない。民兵を無理やり戦わせるために彼らの家族を人質に取り、戦場に出したヴァンの策が完全に裏目に出た。

 現在の防御のための円陣を崩し、攻勢に移行すれば中心で守られている非戦闘員、つまりは民兵の家族を吹雪が直撃し、寒さで瀕死となった彼らは全滅する。

 人質となった家族が死ねば民兵はもう戦う必要はない、それどころか家族を失った恨みを総指揮官たるヴァンにぶつけてくるだろう。

 直接の原因は天候だが、天に憎しみをぶつけても仕方がない、ならば代わりに怒りをぶつける存在が必要だ。その点、ヴァンは市外から来たよそ者であるが故に最適の犠牲である。

 そういった時、ヴァンの副官にして市のまとめ役であるイグナーツはヴァンを見捨てるだろう。

 誰だって故郷の人間の方が大事だ。猜疑心の強いヴァンはそう思った。


「屍兵の反応が三割を切っている。芯まで凍り付いて種が枯れたな……このままでは」

「民兵、約五分の一が戦闘不能、戦死数はまだ確認できません」

「特に後方がひどい、陣に大穴が空いています、至急、予備を回してください」

「どこに予備があるのか、周囲の兵士が倒れた兵士の分まで頑張れ」

「そんな……!!」


 悲鳴のような報告が矢継早にヴァンに届く。外周の屍兵は七割が核となるミストルティンの種が凍り付いて戦闘不能、民兵は消耗し、まともに戦えそうにない。

 ヴァンは周囲を見回す。円陣の周囲には斃れたスヴァルト騎兵、凍り付き、紫色に変色した断末魔の顔色は壮絶だ。

 だが、凍死したかに見えた彼らの何人かがゆっくりと立ち上がり、馬に乗ろうとする。


「吹雪が弱まった……戦闘再開だ!!」

「……!!」


 未だ兵士達を叩き続ける吹雪の中、スヴァルト騎兵が戦闘を開始しようとしている。騎兵らとて消耗している。

にもかかわらず槍や弓を手に立ち上がるのだ。底なしの闘争心、極寒のルーシで育った蛮族としての特性か、ヴァンは戦慄した。

 その戦慄は味方の〈愚かな〉行動により、さらに強大となってヴァンを打ちのめしたのだ。


「母さん無事か、声を上げてくれ!!」

「俺の娘は大丈夫なのか、軍楽隊に中にいる俺の娘は!!」

「おい、どけ……敵が来る? まだ来ないじゃないか……早く妻に合わせろ!!」

「何が起こったというのだ!!」


 みるみる円陣が崩れていく、吹雪が弱まり、余裕が出てきたところで民兵らはさかんに家族の無事を確認したがった。

 ある者は大声を張り上げ、ある者は直接確認しようと陣を抜けようとする。一人が抜ければそれで終わりだ。総崩れとなる。


「スヴァルトが戦闘を再会しようとしている時に……状況が分かっているのか、アマーリアは軍楽隊、イグナーツ殿はその他の兵士の確認を急いでくれ」

「軍楽隊に今の所死者はいません、周囲の民兵が盾に……あ、ちょっと」


 アマーリアの横を一人の女がすり抜けていく。年齢は二十歳を少し超えたばかりか、恐らくは誰彼の妻、その顔は喜びに満ちていた。家族と再会できることに歓喜していた。

 彼女だけではない、親子、夫婦、兄妹、繰り広げられる情愛の交換、それらはヴァンにはまるで縁のない事柄であった。

 なぜかは知らない、ふとヴァンは自分が非常に不愉快な思いをしているのに気付いた。戦闘中だと理解しているとは思えないその浅はかな行動を諌めるには犠牲者が必要だろうか、ならば誰か死ねばいい、そうすれば自身の愚かな行為に気付くだろう。ヴァンはその〈悪しき〉思考を表面には出さないように務める。

 だが、見抜かれていた。ヴァンを見たイグナーツは彼を恐れるようにのけぞり、アマーリアは逆に満面の笑みを浮かべた。彼女は本当に楽しそうだった。


「あっ……」


 駆けよる妻を抱きしめようとする民兵の夫、そんな彼の横を一本の矢が通り過ぎる。それは寸分違わず、妻の左目を貫通し、脳に突き刺さった。

 ゆっくりと斃れていく女、何と愚かなことか、皆が寒さで震えて動きを止めている中、吹雪で視界が悪い中、駆けだすような目立つ行動を取れば的にしかならない。

 悲しいことに、ヴァンが思ったのはそんなことであった。女への憐憫の情など欠片程も湧かなかった。


「なんだ女か……ハズレだな」

「貴様ら……スヴァルト騎兵!!」

「自業自得だ、馬鹿め、女子供なんかを戦場に連れて来るからだ」


 女を射殺したのは吹雪より立ち直ったスヴァルト騎兵であった。彼は偉そうに説教しようとした。

 男尊女卑のスヴァルトは、と言うよりも戦場がどれほど危険か分かっていた彼は、脆弱な女子供を従軍させる愚かさを理解していたのだ。


「愚かしいアールヴ人め、女を戦場に出して自分の武勇でも見せつけるつもりだったのか、女を物にするために……その結果がこれだ。愚かすぎて……」

「きさまぁぁぁぁ!!」


 妻を失った男が槍を両手に構えて突進する。泡を吹き、血走った目つきにはもはや正気の色がなかった。

 愛する者を失った悲しみが、絶望が、彼を決して後戻りできない道へと歩ませてしまったのだ。


「愚かな……」

「なっ!!」


 そして彼は死んだ。鍛えられたスヴァルトの騎士に、どんなに力を振り絞っても付け焼刃の民兵が一対一で適うはずがなかったのだ。

 槍を躱され、首を撥ねられる。一矢報いることも出来なかった彼は憐れであった。

 だが彼が死した瞬間、彼が抜け出した円陣からまるで爆発したかのような怒号が発せられる。

 円陣から抜け出した民兵、今度は一人ではなかった。二人、四人、八人、二十、五十、次々と槍を構えて件のスヴァルト騎兵に襲い掛かっていく。

 騎士はそれでも冷静だった。冷静に迎撃してしまった。 

 剣を仕舞い、弓を構える。十秒で数本の矢を放つ神業、寒さで体力を消耗しているとは思えない俊敏さで忽ち先頭の民兵を数人、射殺す。

だが彼らは倒された仲間を踏みつけ、死体を蹴散らし、なおも突進し続ける。真っ赤な目をしていた。皆、目を朱く染めていた。


「しまっ……」


 彼らの異常さを理解し、逃げようとした騎士はしかし、間に合わなかった。

 槍で横腹を貫かれる。苦痛を上げる暇も有らばこそ、今度はよろけた所を殴打される。側頭部に鮮血が散り、朱いブヨブヨとしたものが零れ落ちる。

 その一撃で彼は絶命していたかもしれない。だが、民兵はそれでも許さなかった。服を破り、槍で串刺しにする。

 飛んできた指は騎士の物か、あるいは服を剥ぎ取ろうとして味方の槍で切り飛ばされた民兵の物か。

 幾本もの槍で串刺しにされて高々と掲げられる騎士の死体、それが放り投げられ、地面に落ちると、群がるように民兵が素手でその死体を引きちぎっていく。


「う……」


 その地獄のような光景を見て、イグナーツは顔を蒼くして吐き気を懸命にこらえる。彼はまともであったからであった。

 救い難かったのは残りの二人であった。


「女一人のことで必死になるなんて民兵とは安い人たちですね」

「声が大きい……」


 陣形が崩れそうになるのを必死になって抑えようとしていたヴァンはアマーリアのあまりにも無情な言葉を嗜めようとする。

 だが彼女は聞く耳を持たなかった。


「私が死んでもヴァンさんはあんな風に狂ってくれますか」

「それほどの価値があるというのか、お前に……狂っているのはお前だ」

「あはは、確かに……でもいいじゃないですか、狂っている者同士、ヴァンさんも死んだって誰も泣いてくれない人間なのですから……」

「私は……」

「いませんよね、誰も……いるはずがないんです」


 論理が破綻している。会話が繋がっていない、だがそれを払いのけれない何かが今のアマーリアにはあった。

 それがなんであるかは分からない、だが……。


「まだ大丈夫だ、私は……私はまだ底まで堕ちずにいられる」

「何か言いました、ヴァンさん?」

「いや、民兵のこの勢いならば攻勢をかけられるな、包囲されているテレーゼ様をお救い出来る」

「……あの女を」

「そうです、私が死んだら泣いてくれる彼女を」


 ヴァンはそう言うと、アマーリアの腰に手をやる。その手には彼女が隠し持っていたナイフが握られていた。

 アマーリアが体を震わせる。その隙をついてヴァンはそのナイフを取り上げた。傍目には抱き付いているようにも見えたかもしれない。

 そんな周囲の視線を無視して、ヴァンはイグナーツに命令を下す。


「民兵を前面に集中、包囲を崩しファーヴニル部隊を救出します。つきましてはイグナーツ殿には軍楽隊と影術士部隊を率いて市内に撤退してください」

「民兵三百、いやもう二百程か……それで駐留軍や増援部隊と戦うつもりか」

「凍死しかけている軍楽隊や影術士部隊を連れて行っても仕方がありません」

「だが……」

「私は別に優しいことを言っている訳ではありません。街に戻るまでに軍楽隊や子供ばかりの影術士部隊に必ず死者が出ます。その他諸々の対応をお願いします……そして終わったら、戻ってきてください」


 ヴァンはそのまま遥か前方を見やる。その吹雪の向こう、包囲作戦を行う駐留軍より南西にさらに向こう、小さく見えるその旗は赤地に黒十字、その両端に翼持つ竜が描かれていた。


「リューリク公家の旗、いや、しかしここは貴族連合軍の後方のはず、彼の軍はどこに行った。親衛騎士団もいない、これではウラジミール公の本陣が剥きだしではないですか」

 思わぬ僥倖に驚くイグナーツ、しかしヴァンは冷静に応えた。


「どうなっているかは分かりません、しかしこれは大きなチャンスです。焦らず、急がず、このチャンスを生かしましょう。生き残れるかもしれませんよ……皆」


 ヴァンは今一度、大声を張り上げる。その声は狂乱した民兵の目を引き付け、彼らの視線を一点に集中させた。


「今、ここにヴァルハラへの門は開かれた。その憎しみ、その怒り、それが正当に評価される時が来たのだ。私に続け、この槍の矛先と共に突入する」


 件の死した民兵の槍を拾い、ヴァンがそれを掲げる。かけられたのは歓声、望まれたのはその勇姿。

 それはどこか英雄たるリヒテルの姿に似ていた。その手法も似ていた。だが一つだけ違うところがある。ヴァンはやや頬を赤らめていた。

 彼は、称えられることに慣れてはいなかった。


ライプツィヒ戦線より西、貴族連合軍本陣―――少し前―――


「ファーヴニル軍は兵力を二分し、窮地に陥った中央軍、リヒテルの救援に向かった、舐められたものだな。我がロストフ同盟(貴族連合)軍相手に十分の一の兵力で戦線を支えようとは……」

「敵指揮官は数々の情報から三人、バルムンクのアンゼルム、竜司祭長ブリギッテ、傭兵隊長マリーシア」


 居並ぶ将軍達はいずれも十年前の戦争にて多大な功績を挙げ、ウラジミール公より広大な領地(元々はグラオヴァルト法国領)を下賜された大貴族である。

 彼らは皆、自分こそがリヒテルの首を挙げてリューリク公家の領土を受け継ぐ者と自負していた。

 協力関係などない、だがしかし彼らはいずれも一流の司令官、漁夫の利を互いに警戒し、緻密な作戦が取れないとはいえ、その判断は似通っており、今の所、大きな障害にはなっていない。


「ふむ、いずれも下賤な者達ばかり……我が軍が総攻撃をかければたちどころに蹴散らされましょう」

「そして左翼のファーヴニル軍を殲滅し、中央軍にいる総統リヒテルの首級を挙げましょう……次のウラジミール公は我らの中から選ばれる」


 彼らには余裕があった。勝利すると言う確信があった。だがその余裕が瞬時に崩れる。手に持つ酒杯を投げ捨てる。

 それが伝令の兵士に当り、その兵士の目が潰れたが気にすることはなかった。


「ではなぜ、今になっても奴ら下賤な者共の防御を突き崩せん!! いかに野戦陣地を築いているとはいえ、十倍の兵力、鍛えられた戦士、奴らにはない騎兵戦力もある。なぜ、今になっても突破できぬのだ!!」


 ファーヴニル軍が軍を二分した機会を完全に生かした大貴族達、戦力を集中させたその手腕は見事だった。

 だが攻勢をかけて既に多くの時を浪費していた。わめき散らす貴族達、だが実の所分かっていた。

 軍事の専門家であるが故に分かっていたのだ。自分達の軍は強い、だが敵はもっと強かったのだ。練度か、結束力か、はたまた指揮官の実力か、どれであるにしろ、敵の防御を突き崩すには時間か、あるいは更なる戦力が必要だった。だが彼らには時間がなかったのだ。


「このままではリヒテルの首を他の軍に取られてしまう。リューリク公家軍ならばまだいい、だがもし仮に法王軍、グスタフ卿に奪われたら我らは終わりぞ」

「騎兵戦力が少ないようですな、どうも戦況不利と悟った騎兵の何割かが反対側のライプツィヒ戦線に流れているようです」

「レオニード伯の所へだと……あんな愚物に援軍など必要ない、即刻呼び戻せ!!」


 大貴族達は少しでも多く戦力が欲しかった。時間がない、どんな手段を使ってもブリギッテらを打倒しなくては、その焦りが大局的な視線を歪ませた。


「全戦力を前方に集中、敵野戦陣地を打ち破れ!!」


 ドラを叩き、笛を吹く、いくつもの符牒を用いて貴族連合軍は配下の兵士や騎士に号令を下す。

 その瞬間、ライプツィヒ戦線に転進してきた援軍が消えた、そしてそれが彼らが考えなかった事態を引き起こしたのだ。


*****


ロスヴァイセ連合軍対ライプツィヒ市駐留軍―――ライプツィヒ戦線・包囲されたテレーゼ部隊―――


「なんですの……騎兵達が撤退していきますわ」

「馬鹿な、なぜ戻っていく。テレーゼ姫の首はもう目の前だぞ」


 吹雪が弱まり、包囲している駐留軍も、包囲されているテレーゼ部隊が戦闘を開始していた。

 今の所、戦況は互角に近い。テレーゼの猛進撃は指揮官レオニード伯の手前で止められていた。

 それを食い止めたのは伯の親衛隊、実はこの親衛隊、ウラジミール公が直下のライプツィヒ市を守るためにお情けで出した親衛騎士団のメンバーであった。

 バルムンク最優の兵士を蹴散らした親衛騎士団は少数ながらも精鋭揃い、テレーゼに対しても一歩も譲らないのだ。


「伯爵さま、どういたしましょう」

「弱気になるな、所詮、援軍など初めから期待していない、元より千対千の決闘、邪魔者が消えてせいせいする」


 突然の友軍の撤退にあくまで伯は強気な態度を崩さない。崩さずに済んだ。伯は無傷ではない、右肩は負傷し、脇腹は朱く染まっていた。

 だがその怪我がむしろ武人としての伯づけとなり、それでもなお戦い続ける彼に威光を与えていた。

 忠誠心とは鏡である。勇猛なるレオニード伯の姿に兵士は憧れ、我もそれに続けと疲れ果てた体に鞭打ち、武器を振るい続ける。


「敵軍は包囲しているのだ。前後左右から攻撃し……」

「伯爵さま!!」

「なんだ、どうした」

「ロスヴァイセ本隊が包囲を解きに攻勢をかけてきます。最前列に総司令官である死術士ヴァンを確認!!」


 それはヴァン率いる民兵の逆襲であった。彼らを抑えていたのはレオニード伯自前の兵士ではない、援軍の騎兵らだ。

 そして今、騎兵らが貴族連合軍に帰還した今、ヴァンらを抑える兵士はいない。


「司令官自ら先頭に立つとは……矢で射殺せ、それでこの戦いは終わる」

「ダメです、勢いが強すぎてもう間に合いません……兵士が、兵士が次々と薙ぎ倒されていきます、これが寄せ集めの民兵なのか!!」

「包囲を維持できません、テレーゼ隊と合流されます!!」


 怒りに燃える民兵が犠牲を度外視して駐留軍を殲滅していく。一人を斃し、一人が斃れる。彼らの脳裏にあるのは無残に殺された一組の男女、今、この瞬間、彼らは自分が守りたかった家族の姿を忘れていた。

 悲しいことだが忘れていた。何もない、憎しみだけが詰まった彼らは強かったのだ。


「ぐっ、こんな時にはどうすればいいのだ。教えてくれ、我に正しい答えを教えるのだ」


 レオニード伯は混乱した。眠っていた闘志を呼び起こし、戦場に出たがこの時、ついに地金を晒し始めた。

 享楽に生きてきた彼には積み上げた物がない、窮地に陥った時の対処法も知らない、死の恐怖を克服する術は知っていた、だがそれを生かす方法が分からない。騎兵らが撤退を決めた笛の音の符牒すら知らなかったのだ。

 そしてその隙をテレーゼは見逃さなかった。


「崩れた……そこですわね!!」

「ぐっ!!」


 親衛隊の刃をすり抜けて、テレーゼの投げたカトラスがレオニード伯の腹に突き刺さる。腸を串刺しにしたそれは激痛をもたらすが、伯はまだ屈しない。しかし周囲の者はそうは取らなかった。


「おのれ……テレーゼめ!!」

「レオニード伯、ここまでです。ライプツィヒ市まで撤退しましょう」

「黙れ、まだ私はやれる。親衛騎士団の一員とはいえ、私は貴族……命令に従え、何をする、離せ!!」

「指揮官殿は錯乱なされた、今後は親衛騎士団中隊長の私が指揮を取る」


 レオニード伯には積み重ねた物がない、それは周囲にも言える事、信頼がなかった、実績がなかった。指揮官としての能力を信用されていなかった。

 命令を部下に無視され、連れ去られるその姿に全てが現れていた。


「駐留軍が逃げていく……俺達の勝利だ!!」


 巧みに陣形を駆使して付けこまれないよう後退していく駐留軍、だが追う方に余力がない故にそれは見事だが無為なことでもあった。

 その無為さに優秀な親衛騎士団中隊長は気づき、駐留軍は陣形を崩して一目散に逃げていった。

 歓声を上げるロスヴァイセ連合軍、彼らは決闘に勝利したのだ。


「ふぅ……勝ちましたわね」


 そんな中、他より体力に余裕があったテレーゼが合流してきた民兵の方に駆けていく。


「おかえりなさい、ヴァン」


 完璧なる奇襲を成功させたテレーゼは探していた漆黒の少年に、愛すべき幼馴染の頭を胸に抱きしめていた。

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