第78話 私は自らの選択に誇りを持つ

旗軍対法王軍―――南部戦線・法王軍・本陣―――


「吹雪が弱まり始めました、グスタフ様」

「よし、総攻撃をかける、セルゲイを休憩から呼び戻せ」

「その必要はありません、この状況でのんきに休憩など取れませんよ」


 リューリク公家軍が相対するバルムンクの陣に総攻撃をかけた直後、南部戦線でも、法王軍のグスタフが攻勢をかけようとしていた。

 これはリューリク公家に合わせたわけではない、いや合わせたのは確かだが、その命令が届く前に彼は動いたのだ。

 彼はウラジミール公以外で、この大寒波を察知した数少ない人間の一人であったからである、完全な奇襲となった大寒波も彼にとっては想定内、だからこそ消耗を避けて今まで攻勢を控えたのだ。

 ただし対策を建てたものの、部下にまでそれを教えてはいない。

グスタフの配下たる法王軍の兵士は大寒波を察知した彼を称え、それより進んだ者は自己の利益のために情報を隠匿したのではないかとグスタフに疑いを抱いた。


「さすがだなセルゲイ、なら分かるだろう、総攻撃をかける。相手はかつての法王軍最強の黒旗軍だが俺は奴らを張子の虎だと思っている。腐敗しきった官軍の中で少しだけマシだったくらいでのぼせ上っていた馬鹿どもだ。指揮官であるヨーゼフ大司教とかいう干乾びたピクルスのようなババアなぞ、バラバラに引き裂いて豚のエサにでもしてやるさ」

「それは剛毅なことで……」


 全てを知りえていたが故にグスタフには余裕があった。だが知らされていなかったセルゲイの心中はいかばかりか、彼は丸めた紙屑のようなしかめっ面をしていた。


「なんだ、何か言いたいことがあるのなら言ってみろ。お前は俺の片腕だ、遠慮はいらないぞ」

「黙っていましたね、この大寒波を……」

「ああ、そうだ、全員に知らせれば必ず敵対するバルムンクにまで伝わる。奴らの諜報能力ならばそのくらいできる。それがどうした?」


 セルゲイが真に問いたいこと、それを知っていたにもかかわらずグスタフは悪びれずに情報の隠匿を白状した。

 それどころか、グスタフは暗にセルゲイに問い返しているのだ。お前は俺に何をしたいのだ?


「的確に指示を出し、食事係のような非戦闘員は天幕に避難させました、これ以上ないほどスムーズに完全な奇襲となった大寒波に対応できたでしょう」

「ほう、お前がいて良かったな」

「ですが……交わされた婚約が永遠に無効となりましたよ、私の配下と難民とに交わされた婚約が、です」

「何人か死んだか、男か女か、あるいは両方か……自業自得だな」

「自業自得……?」


 セルゲイは目を見開き、愕然とした。グスタフは自身の行動で味方を無為に殺したことを自業自得と言ったのだ。

 高貴なる者はそれ相応の義務をの精神で生きてきたセルゲイには許容しがたい考えだ。

 戦場で犠牲になるのは戦士から、非戦闘員が死ぬのは最後、敗北し、戦士が死に絶えた後でなければならないのだ。


「この世は所詮、弱肉強食、弱い奴が死ぬのだ。不死王の狩り、いや統治階級であるお前は自然現象だと知っているだろう。なぜ察知できなかった、なぜ対応できなかった。それは個人の責任だぜ、全部、手前が悪いのさ……この戦乱の世、誰かが助けてくれると思ったのか、誰かに縋れば安心できるのか」

「戦乱は終わりましたよ……これからはスヴァルトによる統治が始まる」

「本当にそんな世迷言を信じている訳じゃないだろう。アールヴ人を抑えつけている間はスヴァルトの世、できなくなればそれも崩れる。今度はスヴァルト人が虐げられる番だ」

「……」

「まあ、今はそんな議論している時間じゃないな、戦闘中だ。セルゲイ……お前は俺をどうしたい。味方殺しの俺に復讐するか、それもいいだろう、自信があるのならばかかってこい」


 まるで恫喝するようにグスタフがセルゲイに迫った。ただ問うているだけ、それなのに、心臓を締め付けられるような幻覚をセルゲイは感じた。

 自分ではとても相手にはならない。翻弄されたセルゲイが頼ったのは今まで自分が信じた正義、スヴァルトの、騎士の正義であった。


「……私は秩序を守るスヴァルトの騎士、最高司令官の命に従います」

「そうか、ならばお前は騎士の義務を果たせ」


 そう言ってグスタフは会話を打ち切った。どこか失望したような声音であったが、セルゲイは安堵し、そして気づいた。

 いつの間にか彼は膝を地面に落としていた、屈していたのだ。

 まるで鎖で縛られていたような圧迫が消えていた。グスタフの尋問は終わったのだ。


「リューリク公家軍の陣が縦に伸びている。どういうことだ……」


 グスタフに言われ、セルゲイもまた気付いた。バルムンク直轄軍に総攻撃をかけるウラジミール公率いるリューリク公家軍の陣が縦に伸びていた。

つまりいくつかの部隊が攻勢に消極的なのだ。さらに言えばいくつかの部隊がウラジミール公の総攻撃の命に逆らっていた。


「臆病風に吹かれた。それもあり得るが……まさか、いや、奴はこの大寒波を予想していた、そんなはずが……」


 どこか焦ったようなグスタフの声、それに騎士セルゲイは安堵し、同時に恥じた。グスタフが自分と同じ人間だと思い、それに安堵した自分を恥じたのだ。


*****


黒旗軍対法王軍―――南部戦線・黒旗軍・本陣―――


 親衛騎士団の奇襲による中央軍が食い破られた事実は左翼のファーヴニル軍、右翼の黒旗軍にも大きな衝撃を与えた。

 なかんずく、総統リヒテルとの付き合いが短く、彼の実力を見たことがない右翼・黒旗軍の士気低下は甚だしい。

 総統リヒテルの戦死の虚偽まで流れるに至って、司令官、ヨーゼフ大司教の怒りが爆発した。


「もはやこの戦いは敗れたのです大司教、ここは南部バイエルンまで撤退し、もう一度再起の時を待ちましょう」

「馬鹿なことを言わないで……」

「ですが、我ら黒旗軍が滅びればアールヴ人の解放の夢が潰えてしまいます」


 黒旗軍はかつて法王軍の中で最精鋭であった。その練度、兵を指揮できる将校が占める割合、積み重ねられた戦術の知識、だがただ一つだけ改善出来なかったことがあった。

 それはその精神性。長い雌伏の間、彼らはその腕を磨き、同時に排他性をも養ってきた。市民と毎日顔を合わせてきたブリギッテらリューネブルク市の神官兵と違って、彼らが守る物は人ではなく、正義。

 アールヴ人がスヴァルト人に搾取されない世界、だが彼らが守る世界の住人の顔は平面の、のっぺらぼうであった。

 顔のない無辜の人々、守るべき民衆の姿を彼らはイメージ出来なかった。

 スヴァルトの弾圧から逃れるために世間から隔離されてきた彼らは、誰からも支持されず、慕われなかったのだ。ただ自身の正義だけをよりどころにしてこれまで生きてきた。


「仲間を、友軍を見捨てた者に誰がついて来ると言うのです。いいから戦線を維持しなさい。必ず逆転の時は訪れます、だから……」

「よ、ヨーゼフ大司教、いかがなされました」


 不遜な神官兵が初めて動揺する。彼らを十年間、統率してきたヨーゼフ大司教は彼らにとって母親にも等しい大事な存在である。

 その優しくも厳しい母が荒い息を上げて倒れようとしている。動揺しないはずがなかった。


「少し、さっきの吹雪で風邪を曳いただけよ、慌てないで……」

「しかしすごい熱です。指揮を変わります。ですから休んでください」

「うるさい、今頑張らなくていつ頑張るのよ……年は取りたくはないわね、六十を過ぎたくらいでここまで衰えるなんて」


 かつて法王の座に最も近付いた老女は自身の最期が近づいているのを感じていた。だがそれに怖気づく様子はない。

 ただ眼前の敵を見据えるのみ。目の前には自軍の三倍を超える、一万の法王軍、スヴァルトに屈し、その奴隷となることを許容した恥知らずどもだ。

 法王シュタイナー、グスタフ卿、彼らの喉元を噛みちぎるまでは彼女は死んでも死にきれない。


「法王軍が攻勢を開始しました。旗の数から見て、総攻撃です。騎兵連隊が放たれたのも確認しました。我が軍の側面を狙っています、御指示を、ヨーゼフ大司教!!」


 そんな中、伝令の兵士が事態の変化を告げに来た。彼は必死であった。故に自らの〈母〉が高熱であえいでいることに気付かない。

 それに対して副官が激怒した。


「静かにしろ、何もかも大司教様が指示しなくては何もできないのか、無能どもめ。予備兵力をすべて出して前線の野戦陣地の防御を固めろ、騎兵にはこちらの騎兵連隊をぶつけるんだ、幸いにも騎兵戦力に限れば互角、簡単には倒されない」

「はっ……!!」


 黒旗軍の副官の命を受けて伝令の兵士が駆けだす、それは的確で分かり易い命令であった。

 ただ司令官を無視する形であったため、副官は頭を垂れて謝罪の意思をヨーゼフ大司教に示す。


「出過ぎたことをいたしました、申し訳ありません。その罪は戦後に償います」

「いえ、私が言おうとしたことを言ってくれただけです。謝る必要はありませんよ」


 しかしヨーゼフ大司教は罰することなく、副官の罪を許した。


「この戦い、決して負けられないのよ、もう少しだけ私の我儘に付き合ってくれるかしら」

「大司教様のご命令ならば……ただし、本当に危ない時には貴方を連れて戦場を離脱します」

「それは構わないわ、その時はよろしく頼むわね」


 そう言うと、まるで悪戯を思いついた童子のような顔でヨーゼフ大司教は笑う。ただその顔色は血の気が失せて蒼白であった、その顔にははっきりと死相が出ていたのだ。


*****


ファーヴニル軍対貴族連合軍―――北部戦線・ファーヴニル軍・本陣―――


「軍を二分し、一方をリヒテルら中央軍の支援に向かわせる」

「エルンスト老……それは!!」


 法王軍が総攻撃をかけたのと同じころ、バルムンクの左翼、ファーヴニル軍の司令官エルンスト老は中央軍の窮地に即座に救援を送ることを決断していた。

 彼らは右翼の黒旗軍と違って、リヒテルとは旧知である者が多い。

 ハノーヴァー砦の戦いで生き残った難民上がりの飢狼軍、顔見知りのファーヴニル達、南部ヒルデスハイム司教区、オルトリンデの生き残りや関係者。

 仲間の窮地を見過ごせはしない、だが軍を二分して救援に向かうということは、左翼の前線に配置される兵士が半減するということ。

 他戦線と違って貴族連合軍は脆く、三倍の兵力差がありながらもファーヴニル軍は善戦してきた。

 故に今、わずかながら余裕があるものの、他戦線で攻勢が開始されたところを見るに、まず間違いなく貴族連合軍も歩調を合わせて総攻撃をかけて来る。

 現場に残された前線の兵士は概算で十倍近い兵力を相手にすることになるのだ。救援を受けたリヒテルは助かるかもしれない、だが前線の兵士は全滅する。

 それでは仲間を見捨てることと何も違わない、命に差別はないはずだ。


「前線の兵士に盾になれと、死ねとお命じになるのですか、エルンスト老」

「……分かってくれ、リヒテルが死ねば全てが終わる」

「ですが、彼らにも生きたいのです、死にたくはないのです」

「そう言う奴は救援部隊に回せばいいだろう」


 エルンスト老に詰め寄る副官を、何ものかが罵倒する。その主は赤毛の大男で、目を黒布で隠していた。


「アンゼルムか……」

「別に死にたくない奴は前線に出なくていいぜ、その分は俺が何とかする」


 声の主はアンゼルムであった。死術の力で人間ではなくなった戦士。エルンスト老は大寒波で戦線が混乱した隙をついて前線の兵士を野戦陣地内に収容した。

 その時に彼もまた壁の中に収容されたのだ。


「お前ら、何のために戦場に来たんだ、命が惜しい腰抜けは家に帰って母親にでも泣きついていろ」

「なんだと!!」

「コンクラーヴェでの誓いはその場しのぎか」

「ぐっ……」


 アンゼルムの挑発は二つの結果を生んだ。一つは自らの不甲斐なさを恥じ、勇気を奮い立たせようとするもの、もう一つは単純に反発だ。

 化け物と化してアンゼルムはもう死を覚悟している。だが彼は他者にもその主義を押し付けようとしていた。

 誰も彼も命を捨てる覚悟を持っている訳ではない。コンクラーヴェの誓い、スヴァルト打倒のために戦死も辞さないと約束したことに嘘偽りはない、だがやはり死にたくはないのだ。


「十倍の兵力差、結構なことじゃないか、皆殺しにしてやるぜ。エルンストの爺さん、俺が貴族連合軍を全滅させて手柄を独り占めにしても文句は言わないだろうな」

「行ってくれるのかアンゼルム、だがしかし舎弟らは……」

「俺らのことは気にしないで下さい。馴染みの女とは別れてきました、俺らは兄貴についていきます」

「ヘルムートと言ったか……」


 アンゼルムの心強い決意、それに周囲の、軍を二分させ、中央に救援を送ることに反対したファーヴニルがくやしげな、羞恥した表情を作る。

 だがエルンスト老はまだ決断しかねていた、アンゼルムの言いようは威勢がいいが、その実、名誉を盾にした脅迫と代わりがない。

 エルンスト老はハノーヴァー砦の戦いで投入した決死隊を思い出していたのだ。

 脅迫され、戦場に立たされた彼らは全滅した。死んでも死にきれないという表情を浮かべて……それが今、再現されようとしていた。


「邪魔するよ……」

「ど、どうも……」

「マリーシア……それにブリギッテ、なぜお主がここに来る」


 そんな中、ファーヴニル軍本陣に予期せぬ人物が現れた。どちらも後方で物資輸送の任についていた人間だ。

 竜司祭長ブリギッテはこのファーヴニル軍、そして傭兵隊長マリーシアは中央軍で、彼女らは凶報とともに訪れた。


「中央の直轄軍が後ろまでやられた。騎兵突撃で串刺しだ。もう組織的抵抗はできない、よって総司令部をここに移す……伝令は来ていないのかい?」

「いや、来てはおらぬぞ」

「ちっ、スヴァルトの蛮族、無駄にいい仕事しやがる。伝令の兵士は全滅かよ」

「それよりも、直轄軍はどうなっておる。串刺しとは……まさか」

「そのまさかだ。中央軍は分断された、リヒテルが可能な限り軍を再編成しているが総崩れの可能性も高い」

「なんじゃと!!」


 中央軍壊滅、その報が本陣を震撼させる。アンゼルムさえも押し黙った。総統リヒテル戦死の報、それが現実のものとして認識されつつある。


「だが、まだ負けたわけじゃない、という訳でブリギッテの嬢ちゃん、お船に乗ってサボっていたあんたが前線に出てきた理由を皆に教えてやれよ。私を惚れさせた台詞をさ」

「えっ、私……!!」


 突然、話を振られてブリギッテが目を白黒させる。後方で物資輸送の護衛についていた彼女は本来ならば前線に出る必要はない。

 元来、仕事に不真面目かつ生きることに正直、怠惰で戦場なんて死ぬかもしれない割りに合わない仕事場に絶対に行きたくない彼女が前線に出て来ることは実の所驚きである。

 そして目立つことも嫌いだが、マリーシアの期待に満ちた、ブリギッテにとっては脅迫に近い視線に押される形でしゃべり始める。

 マリーシアは竜司祭就任の初日にぶちのめされて以来、苦手な相手である。それ故に逆らえない、特に一対一では……彼女は強い物には徹底して弱い女である。


「さすがに見殺しにしては寝覚めが悪いので、援軍に来ました。今は余裕がありますが……危なくなったら逃げます」

「お主は何を言っているのだ!!」


 エルンスト老が呆れを通り越して怒りの表情を浮かべた。

 やはり逃げると言ったのはまずかったか、ブリギッテは後悔してコメカミに痙攣を起こすが、エルンスト老が反応したのは、逃げる、ということにではない。もっと別なことだ。


「余裕があるとはどういうことじゃ、状況が分かっておるのか、このままじゃと軍は全滅じゃぞ」

「別に間違ってはいないぜ、エルンスト老」

「マリーシア……」


 横から茶々を入れたマリーシアにエルンスト老は怒りの矛先転じる。だが彼女は至極真面目だった。その顔を見て、エルンスト老はその怒りを一時的に収める。


「他の兵士がタマを押さえて逃げちまう状況でも、あたしたちファーヴニルにとってはまだ余裕だ、忘れたのかい、あたしたちは侠客だ、普通の人間じゃない」

「……」

「スヴァルト貴族は神だかにその地位を保証されているようだけど、あたしたちは自分達でその立場を選んだんだ。だらしない真似はよそうじゃないか、もっと頑張ろうぜ、自分の選択に誇りを持とう……まだ逃げるときじゃない。まだ……余裕があるよな」


 アンゼルムの台詞は二つの結果を生んだ、だがブリギッテ、マリーシアが生み出したのは結果は一つ、残されたのは戦う意思のみであった。


「そうじゃな……まだわしらは頑張れる。まだ……何も終わってはおらぬ」

「すぐに軍を二分し、中央に救援を送りましょう」

「前線に残る兵士は……」

「それはあたしと嬢ちゃん、そこの腐った死体の部隊、計、千五百、それでいい」

「おい、腐った死体ってのは俺の事か」

「なんだい、アン……なんとかって御大層な名前を読んでほしいのかい」

「別に……アバズレに親から貰った名前を読んでほしくないぜ」

「アバズレってのはあたしの事かい……?」

「うわぁ……喧嘩か、私に来ないでよ」

「……はぁ、止めぬか、お主ら」


 溜息をこぼしつつも、エルンスト老に先ほどの暗さはなかった。この戦い、負けない。なぜかそんな予感がした。

 そもそもバルムンクの勝利条件はウラジミール公国軍の殲滅ではない。ただ耐えることである。

 領地の農民反乱という弱点を抱えたスヴァルト軍は長期戦、もとい多大な犠牲を払えない。

 戦いが長引く程、多くの兵士を失うほど、スヴァルトの威信は低下し、支配下の農民達に戦えば勝てる相手だと印象付けさせてしまう。そうなれば農民反乱が続発するだろう。

 ただ耐えればいいのだ、偶然にも大寒波という悪条件が重なったがこれは一つだけバルムンクに恩恵をもたらした。

 吹雪が弱まっても空には厚い雲が体積しており、夕暮れがいつも以上に早く訪れそうなのだ。

 日の光を失い、戦場が暗黒に包まれれば数で勝るウラジミール公国軍は同士討ちの危険が生じて思ったように軍を動かせなくなるはず。そこにエルンスト老はかけた。


「リヒテル、わしも頑張るぞ。じゃからお主も頑張れ……後、数時間だけでいいのじゃ」


 エルンスト老が最期の賭けに出た。混沌とする戦場、だがしかし、勝利の天秤はスヴァルトに傾き、されどギリギリのところでその針が降り切れてはいない。

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