第75話 それが私に残された最後の仕事です
バルムンク直轄軍対リューリク公家軍―――中央戦線・リューリク公家軍本陣―――
「敵軍は後退を続けています」
「塹壕の中にいたクロス・ボウ兵は全て排除、こちらの被害は凡そ千名」
「楽勝ですね……しょせんはアールヴ人。我らスヴァルト人には適わない」
会戦開始より一時間、リューリク公家軍の本陣で徐々に戦勝ムードが流れてきた。リヒテルが考案した塹壕を用いての戦術は、スヴァルト騎兵の勇猛さによって崩壊しつつあったのだ。
文字通り、生命をぶつけるような攻勢は相応の被害を攻撃側であるスヴァルトにも与えていたのだが、リューリク公家の兵士は怯まず、仲間の死体を踏み越えて突撃していく。
「笛の音……」
「よし、第七騎兵連隊に攻撃の命令を……」
「はっ!!」
遠くまで響く笛の音は撤退と、再集結の合図だ。重装騎兵と違い、リューリク公家の主力である軽装の槍騎兵は機動力がある。突撃した後、状況が不利になれば撤退することも出来る。
騎兵突撃が最も効果を発揮するのは一直線に横に並んだ時、撤退して乱戦で乱れた陣形を再編し、再び突撃をかけるのだ。
そしてその間に軽騎兵が矢の嵐を降らせて相手に体勢を整える時間を与えないようにする。十年前、三倍の兵力差があった法王軍を大敗させたスヴァルト必勝の戦術である。
「親衛騎士団に攻撃命令を出せ」
「陛下……」
「もはや敵軍に余力はない。親衛騎士団でもって会戦を決着させよ」
「はっ……!!」
そんな中、ウラジミール公の勅命が舞い降りる。
親衛騎士団とはウラジミール公直属の騎兵連隊であり、十年前の戦争ではまるで草でも刈るように法王軍を薙ぎ払った古強者達である。
法王軍精鋭であった黒旗軍でさえも歯が立たなかった最強の切り札。それの出陣は早くもウラジミール公が自軍の勝利を確信した証拠でもあった。
「リヒテルは生け捕りにせよ……殺してはならぬ。あ奴にはまだ使い道がある」
「リヒテルを……ですか」
「そうだ」
ウラジミール公の意外な命令に周囲の将校は訝しむ。しかし、それは彼らが神のごとく崇める公の命令である。
疑問を封じ込めてその命令を現場に伝えようとして、そこで一人の老騎士が、彼らが問えなかった疑問は投げかける。
「できる限りということでよろしいですか」
「無論だ、親衛騎士団団長。戦場に絶対はない、死んだのならばそれまで」
「とういう訳だそうだ。急ぎ前線にその旨を伝えろ」
「はっ!!」
騎士団長によって微妙に修正された命令がリューリク公家軍全体に行き届く。彼はウラジミール公の片腕である親衛騎士団の長。
主人の劣る部分を補佐するのも彼の役目であった。
「リヒテルをどう思う」
「優秀な統率者ですな。神を信じず、それ故にまとまりに欠けるアールヴ人をうまく団結させている。彼にアールヴ人をまとめさせるのもいいかもしれませんね。無論、我らスヴァルトの支配下でですが……」
「あ奴は醜い男だ、人心をまとめる力はない」
「醜いですか……」
どこか吐き捨てるようにウラジミール公はリヒテルを罵倒した。王者として振舞おうとする公にしては珍しく俗物めいた挙動であった。
「なんでも自分がしなければならない。そのような妄想を信じている傲慢な男だ。周囲が全て愚者にしか見えず、自らを天才と疑わない真に愚かな男。盲信の果てに父を姉を殺し、それに対する罪を感じたりもしない。行きつく先は自滅よ。そしてそれは周囲を巻き込む」
「それではなぜ、そのような男を生かすのです」
「見せしめにあ奴以上に適した者はおらぬ」
「そうですか……」
「余はもうすぐ不死王の下に招かれる。その手配が余の最期の仕事になろう」
「崩御なさるのですか。それではお供しましょう」
ウラジミール公より十数年若い騎士団長は元々は公の小姓であった。半世紀近く前より忠義を誓い、以後、一度として公を裏切ったことはない。
彼の老騎士はウラジミール公以外の主をいただく気はなかった。
「ルーシの大地で生まれた私はその厳しい風土の中、父を母を、兄を妹を失いました。しかし貴方は世界を手に入れる夢を見させてくださいました。もう飢えたり、凍えて死ぬスヴァルト人はいない。もう十分、そろそろ夢から覚める時です」
「……」
「後は私のような老人がいなくても後進の者がなんとかしてくれます。リヒテルを生け捕りにする。それが私に残された最後の仕事です」
「逝くか……ブラト」
「はい、不死王のおわす死者の森の入り口、先に行って掃いておきましょう」
そう言うと、親衛騎士団団長ブラトは出陣していった。それは今生の別れ、ウラジミール公はそれには何も答えず、その表情には何の感情も見せることはなく、ただ王者のように堂々と鎮座しているだけであった。
*****
バルムンクの陣に軽騎兵が放つ矢の雨が降り注ぐ。塹壕から後退する時に大楯を置いてきてしまった者はそれより逃れる術はない。
次々と射殺されてむなしく死体を晒していく、バルムンク連合、中央を担当する直轄軍は壊滅状態になっていた。
「嫌だ、死にたくない」
「撤退命令はまだか!!」
「早くあれを完成させてくれ」
悲鳴を上げてのたうち回る彼らにもはや矜持はなく、ただ無様を晒すだけであった。リューリク公家の兵士は一つの家、あるいはそれに準ずる分家の集まりであり、顔見知りが多い。
しかしバルムンク直轄軍は能力や実績はあるものの、会戦の前に募集して集まった言わば外様である。
リヒテルやヴァンの選別を通っているものの、極限まで追いつめられると周りが知らない者だらけであるという事実が不安感を呼び起こし、烏合の衆へと代わる危険性があるのだ。
ただ反スヴァルトと言う憎しみだけが彼らをまとめている。
スヴァルトが言う厳しいルーシの大地からの脱出は元からそこに住んでいたアールヴ人にしてみれば侵略以外の何物でもなく、彼らは生きるために剣を取らざるを得ないのだ。
「な、なんだあの影は……」
「後方から……まさか左翼か右翼が撃破されて後ろに回り込まれたのか」
「違う、影術士部隊だ。助かった」
壊滅を過ぎ、全滅に近しい状態に近づいた彼らに一筋の光が差す。それはリヒテルが用意した影術士部隊であった。
強大な影の魔物を操る子供たち、それがリューリク公家の精鋭、親衛騎士団と激突する。
「もう、大丈夫だ。俺達は下がっていようぜ」
「馬鹿が、いくら化け物を扱っていたとしてもあいつらだけでどうこうできるわけないだろう」
「あいつらは援護だよ、スヴァルトは俺らが殺す。それでこそ侠客たるファーヴニルだ」
「じゃあ、任せたぜ。俺は後退する」
「はん、消えちまえ……バイエルンの腰抜けが」
「が、がぁぁぁぁ!!」
「な、なんだ!!」
影術士部隊の出現で直轄軍の兵士の対応は二つに別れた。全てを影術士に任せ、逃走する者、そして彼らを援護扱いし、あくまで戦場に立ち続ける者。
後者の何人かが共に戦うべく影術士部隊の隣に並ぶ。しかし列の前、影の魔物が隣にきたところで彼らは血を吐くような禍々しい悲鳴を上げたのだ。
「俺は味方だ、や、やめろぉぉぉ!!」
「ダメじゃないか、近づいたら。影の魔物は生きている者と死んでいる者の区別はつくけど、敵味方の区別はつかない。目や耳があるわけじゃないんだから……」
いたずらをした子供をしかるような茶目っ気のある顔で影術士部隊隊長である死術士ツェツィーリエがファーヴニルを嗜める。
しかし、彼は既に影の魔物に体の半分を食らわれ、絶命していた。
「さあ行きなさい、僕の可愛い実検体達……スヴァルトを皆殺しにしよう。上手くできたらお菓子をあげるよ、そして愛してあげよう」
「はい!!」
ツェツィーリエの命令を聞き、子供達は横に薄く展開した。上から見ると逆弓形になるだろう。突撃してくる槍騎兵を三方から包囲する形だ。
子供達の前には巨大な影の魔物。でっぷりと太ったそれは熊程の大きさがあり、背中には小さな羽。
降り注ぐ矢の嵐を受けてもビクともしない、ただ流れ矢が魔物を飛び越えて後方の影術士に当ると、それに対応した魔物が倒れて砕けたレンガのようにあたりに破片を撒き散らした。元となった死体がその正体をさらす。
死体は捕虜となったスヴァルト兵、あるいは捕えられた腐敗神官の成れの果てであった。
「おやおや、親衛騎士団か……なつかしいね、十年ぶりか」
「ツェツィーリエ様、ご命令を……」
「ああ、言ってなかったけ、ごめんごめん……それじゃあ、攻撃開始だ!!」
影術士部隊、四百と親衛騎士団、千の一騎打ち。周囲にいたファーヴニルは味方をも捕食する影の魔物の姿を見て撤退を始めていた。
*****
「三方に別れろ。両側面、正面からの同時攻撃を行う!!」
ブラト団長率いる親衛騎士団は先のような正面のみの一辺倒な攻勢は行わない。軽騎兵もいる、槍騎兵もいる。少数だがムスペルの炎を扱う擲弾兵もいる。
親衛騎士団はそれ単体で万能な行動が取れる一つの師団だ、一つの軍隊なのだ。
「ブラト団長、あれはなんでしょうか」
「黒い影、あれはまさか死術の……やはり情報通りツェツィーリエなのか」
ブラト団長は十年前の聖戦の折、力を借りた死術士ツェツィーリエと面識があった。彼女が扱う死術は大きな効果を上げたが、元より己の武を誇るスヴァルトでは死術は蔑まれるものであり、活躍は限定的なものであった。
だから一般のスヴァルト人は死術の存在を知らない。故に恐怖する。しかしブラトは知っていた。その禍々しい術を……だから彼は恐れない。
「あれは人間でも獣でもない、心臓を貫いても首を切り落としても死なない、バラバラに切り刻め。それで活動はできなくなる」
「はっ……!!」
ブラト団長の号令の下、槍騎兵が先頭に躍り出る。死術士が操る最下級の兵士である屍兵は元より、影の魔物は急所という物が、胸の中央にある小さな種以外に存在しない。故に点で攻める矢が利きにくいのだ。
「影の怪物は素手、こちらのハルバードの方が射程は長い。距離を保ちつつ攻撃せよ。奴らは連携が出来ない」
「はっ!!」
横一列になって突撃する槍騎兵、だがその動きは突如、乱れる。スヴァルト兵が怯んだのではない。彼らが乗る、軍馬が恐慌を起こしたのだ。
「な、なんだ……どうした!!」
「う、馬が怯えて……お前、しっかりしろ。貴様は栄光ある親衛騎士団の軍馬であろう、戦え、戦って死ね!!」
動物的な直感か、軍馬が影の魔物に近づくのを拒否した。尻込みし、躊躇する。旗手にサーベルや槍で尻を小突かれ、拍車で横っ腹を傷つけられても動こうとしない。
それよりなお勝る恐怖が支配していたのだ、生命を奪い尽くす魔物、それは獅子や狼よりも恐れるべき脅威。
「ダメです、ブラト様!!」
「なんということだ、十年前にこんなことはなかった」
ブラト団長はツェツィーリエを知っていた。彼女が操る死術、あるいは影術の性能、扱う兵士の実力を知っていた。
しかし、知っていたことが仇となったのだ。ツェツィーリエがリヒテルというパトロンを得て、研究を急速に進めていたことを、彼は予測できなかった。十年前より遥かに強大になった不死の怪物を彼らは甘く見ていたのだ。
「仕方がない、下馬して戦え!!」
「はっ、ぐ……こいつら、おのれぇぇぇぇ!!」
馬が恐慌を起こし、仕方がなく下馬して戦おうとした親衛騎士団、だがそれは臨機応変だが結果的に最悪の方法だったのだ。
影の魔物は弱点がない。首を切り落としても、心臓を貫かれても死なない。一応は核となる種を壊せば消滅するが、さすがにそのくらいは対策をしている。
何重にも重ねられた鉄の板が種を守り、人間の腕力でその防御を突き崩すのは困難だ。壊すには軍馬の突進力を利用したランス・チャージが必要。
つまり、下馬して歩兵となった彼らでは影の魔物は倒せない。ただ餌として目の前に並ぶだけができる全てなのだ。
「ウッラー、ヴァール、この命を我らが父のために!!」
「アールヴを倒せ、スヴァルトに栄光を!!」
親衛騎士団は主君たるウラジミール公に絶対の忠誠を誓い、死をも恐れない、例え確実に死ぬ状況だとしても槍を振るい、目の前の敵に挑みかかる。
その忠誠心が仇となった。槍を振るい、多少の傷をつけても影の魔物は損害を受けない。何十年も、それこそ生まれた頃から武人となることを決められ、家のために研鑽を続けた来た戦士達、それがなすすべもなく捕食されていく。
ただ、己が忠誠のために武勇を見せつけ、無駄死にしていく彼らは憐れとしか言いようがない。死術に無知な彼らは術者である影術士を倒せばいい、という考えすらなかった。
そしてついに四百の魔物が、術者と同じ数だけの魔物が、ついに数において親衛騎士団を上回る。スヴァルト最強の騎士団の実に半数が食われたのだ。
「……こいつらは無視しろ、化け物どもは動きが鈍い、軍馬に乗り、機動力を生かして迂回し、リヒテルのいる本陣を奇襲せよ!!」
遅い、余りにも遅すぎる。無駄な時間を浪費したブラト団長がようやく命令を下した。
それまではただ怒鳴っているだけであった。
だがその命令は時期を逸していた。目の前の魔物に気を取られていた彼はリヒテルに切り札を準備する時間を与えてしまったのだ。
「な、なんだあれは……」
その驚愕は影の魔物に軍馬が恐慌を起こした時より大きなものだった。
壁がある、堀がある、バルムンク連合軍はエルベ河を背にして布陣し、背水の陣でもって挑みかかってきたのだと多くのスヴァルト兵は思っていた。
だがそれは違ったのだ、バルムンクはエルベ河という水運を利用するためにあえて河を背にする形で布陣したのだ。
「あれは……要塞だ」
呻くように一人のスヴァルト騎兵が呟いた。
バルムンク直轄軍の本陣、否、バルムンク連合軍の布陣、その後ろで着々と築き上げられていた野戦陣地。
壁は鋼、バルムンクに協力した商会が利益を度外視して材料を集め、リューネブルク市、ヒルデスハイム市の工房が全力を挙げて作成した鋼の盾。
市民は反スヴァルトの元に心を一つして融通無碍の協力を提供し、その作成を助けた。
堀は周辺の農村から集められた農民によって作られ、格子状のそれは騎兵が一斉に突撃できないように工夫されている。
そして全ての素材がエルベ河の水運を利用して決戦の地、ブライテンフェルトに輸送されたのだ。
会戦に先立ち、ブライテンフェルト大草原をくまなく哨戒したスヴァルト軽騎兵、だが彼らは戦場となる大草原を監視していたが、そこからリューネブルク市に続く水運は見逃していた。
まさか戦闘中に船で物資を運ぶとは予想していなかったのだ。そしてその見解は、彼らの司令官たるウラジミール公も同様であった。
「まさか……戦闘中に運んだのか」
「侵略者たるスヴァルトよ……これが破れるか!!」
「り、リヒテル!!」
城壁の上にバルムンクのリヒテル総統が立っている。その姿は雄々しく、王者の風格すら感じられる。
その姿に親衛騎士団は怯み、そして激昂した。彼らの中で、王とはウラジミール公だけである、地上に二人も王はいらない。
ならば排除するだけ、引きづり落とし、立場というものを分からせる。アールヴ人は、スヴァルトの上に立ってはいけないのだ。
「軽騎兵は弓の一斉射撃、擲弾兵はムスペルの炎、その後、槍騎兵は突撃せよ、不敬なるアールヴ人を打ち滅ぼせ!!」
怒号を上げてブラト団長が大分少なくなった配下の騎士に命令を下す。スヴァルト必勝の戦法。何十年と続け、そして十年前の聖戦で勝利した実績。かの老騎士が追いつめられた末に頼ったのは過去であった。
「愚かな……」
「敵騎兵、突撃してきます」
「軽騎兵の一斉射撃後、反撃せよ、大丈夫だ。この壁は破れない、そして残りの者は資材を運ぶのを手伝え、壁を固定させてこの野戦陣地を完璧にさせるのだ!!」
飛んでくる矢と炎、だが鋼の盾はビクともしない。鉄よりも固く、融点も高い鋼は人力で飛ばせる矢や、焼夷兵器程度では破壊できない。
だが実は一つだけそれを崩す方法はあった。地面に突き刺さった程度の鋼の盾は固定されているとは言い難く、ロープか何かでひっかけて馬力で引きづれば、簡単に倒れる。
だがロープを持っていなかったのか、あるいは指揮官たる騎士団長がそこまで頭が回らなかったのか、最後のチャンスを彼らは生かせなかった。
スヴァルトが今まさに無駄な攻勢をかけている瞬間も、続々と船から資材が運びこまれ、要塞は完成に近づいていた。
より堅固に、より広範囲に……中央だけではない、右翼の黒旗軍、左翼のファーヴニル軍も徐々にこの要塞に撤退していく。そこまで壁が伸びていく。
「槍騎兵、突撃してきます」
「よし、堀に火を灯せ!!」
「はっ!!」
空堀には油が引かれていた。そこに火が灯される。そしてそれは炎へと変わり、スヴァルト騎兵が乗る軍馬を怯えさせた。
「止まるな、進め……がっ!!」
「ウラジミール公、万歳!!」
軍馬が怯え、動きが鈍くなった槍騎兵はクロス・ボウや長槍の的でしかない。格子状の堀の短い通路を渡った槍騎兵が次々と討ち取られ、炎が舞う堀へと落ちていく。
先の塹壕での戦いで、蛮勇でもって槍方陣を食い破った彼らであったが、今回はそういかない、突撃した順に無駄死にしていく。
精神力、狂信では覆せない、絶対の事実がそこに存在していた。
「勝ちました、奴らはこの壁を突破できない。バルムンクの勝利だ!!」
「いや、敵の兵力は数万、力づくで攻めれば突破できなくはない」
「リヒテル様?」
逆転の勝利に歓喜する兵士に水を差すリヒテル、だがそれは新たな勝利のために必要な説明であったのだ。
「私は彼らが突破してくるのを望んでいる。スヴァルトは狂信者だ、貴族の命令とあらば生命を度外して突破してくるだろう。だが彼らは同時に貴族の領地を監視し、民衆を弾圧する先兵でもある。ここで大きな被害を受ければ領地の農民反乱を鎮圧できなくなる。それは虐げられたアールヴ人がスヴァルト貴族支配を覆すきっかけと成り得る」
「それでは……」
「我々が倒れても、スヴァルト支配は覆る。礎となろうではないか、初めにして、最後の犠牲となろうではないか。千年後の未来において、我々はアールヴ人の偉大な独立闘争だと後世に語り継がれる」
戦いはこの戦場だけにあらず、全ては虐げられし一千万のアールヴ人を救うために、そのリヒテルの決意が少しずつ、全軍に波及していく。
そんな中、リヒテルは遠く離れた仇敵、ウラジミール公に挑戦状を叩き付けていた。なぜか知らぬ、だがはっきりと、かの老王の声が聞こえる。
「破れるものならば破ってみろ、老王よ。この壁は人間の結束が何をできるかの証明だ!!」
「あくまでも傲慢なる道を顧みぬか、リヒテルよ。ならば見るがいい、神々の裁きを!!」
リヒテルが全ての切り札を晒し、戦局は次の段階へと移っていた。ブライテンフェルト会戦は折り返しを過ぎる。
しかし勝利の女神は未だ、どちらにもその笑顔を見せてはいない。
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