第2話
「なぁ、スパルタクト。俺はこれからどうすればいいと思う?」
「ヘプバーン様には技術はございますが、経験がございません。ですので、一番近い魔族の支配下にある森で魔物を駆逐しましょう。」
「対人なら城で学んだが、対魔物ということか?」
「その通りでございます。その森は冒険者が間引いているので強い魔物はいなく、経験を積むには丁度良いでしょう。」
冒険者なる存在がいるのか、聞いていないな。
「城では、座学はあまり習わず、この世界に対する知識が足りないようだ。挙動不審な様子は見せないつもりだが、分からない物は分からないから教えてくれると助かる。」
「では、森に向かいながらこの世界についてご説明しましょう。」
ふむ、ありがたいな。
「まず、この世界のことはどこまでご存知でしょう?」
「ふむ、テュダという神がいて、細々とした小国があり、このトスカ王国がこの大陸で1番大きく権力を持っていることくらいか。」
「あの、濃密な訓練の中でそこまで調べられるとは…。では、補足説明をしていきましょう。この世界は、テュダ神という男神と女神であるアマルテア様がお創りになったと言われております。そして諸説ありますが、何らかの要因でアマルテア様がこの世界の管理に携われなくなり、テュダ神がこの世界を管理することになったと聞いております。また、大陸が6つあり、我々が暮らすエラーラ大陸が1番大きく、1番小さいフォボス大陸のゴルゴダに魔族どもは住んでいると考えられています。」
「恐怖の大陸の髑髏に魔族か。御誂え向きだな。それで、この森が?」
「ご想像の通り、この森は魔力の吹き溜まりの上にあり、絶えず魔物が湧き出るのですが、冒険者様方が弱い内に間引いてくださっているので、新米冒険者様などはこの森で訓練いたします。」
そろそろ告げるか。
「スパルタクト、国王の前などではなく、2人だけの今のような時ならば、敬語を使わないで欲しい。こっちも気疲れするし肩が凝る。」
「…わかりました。では、勇者様。森へ、入りましょう。」
「どうやらスパルタクトは、もう耳が悪いらしいからもう一度言おう。敬語は使わなくていい。それにダニエルと呼んでくれ。」
彼女は不承不承ながら、
「…わかった。勇者様の言う通りにします。」
と。名前では呼んでくれないみたいだ。それに拗ねてしまった。
「じゃあ、森へ行こうか。」
そう言って僕らは森へ繰り出した。
「もう、結構歩いているが、王国の近くの割に広い森だな。それに大気中のマナが濃い。」
「さっきも言ったけど、魔力の吹き溜まりの影響ね。一般人だとなんとなくでしか分からないらしいけど、流石は勇者様ね。」
いちいち嫌味ったらしいが、
「ほら、勇者様。早速ご登場ですよ。」
低い背丈に緑色の体表、そして尖った耳か。
「ゴブリンという奴か。人型なら城での訓練が役に立つな。」
実際、ゴブリンの首と胴を分断することができた。
「それでもまだだね。切断面が荒い。」
彼女がゴブリンと首を見て言う。
「なんだ、スパルタクト。剣の心得があるのか。」
「私はこれでも、陛下の直接の部下ですよ。これくらい分からなくてどうなの。」
それもそうか、と1人納得してゴブリン以降出てくるコボルドやオークなどの魔物を叩き切って行く。
「ゴボルドみたいな四足歩行だとまだ少し、手こずるな。」
「だけど、回数をこなせば慣れてくるでしょう?」
「まぁ、そうだが。…そろそろ、違う種類の魔物ともエンカウントしたいな。」
そんなことを言ってしまったからか、目の前に3メートルはありそうな人型の魔物が現れた。
「おいおい、強いのはいないんじゃなかったのか?」
「オーガね。調子に乗って森の深いところまで来ちゃったみたい。」
彼女は、とても良い笑顔で、
「経験になるから、勇者様が倒してね。」
言い切りやがった。
右、左、後ろ、斜め前に転がり込む。自分の考えられる避け方で、オーガが振り下ろす棍棒を避けて行く。思っていたよりも攻撃は単調で城での訓練を思い出せば倒せないことはない。
「やぁやぁ、その年でオーガを倒すなんて流石ですね。普通では考えられない。」
「え?」
オーガを倒したと思えば、途端に嫌味ったらしい声が聞こえてきた。
「勇者様、気をつけてください。魔族のようです。」
「スパルタクト、本当か?なぜ、わかる?」
「私のように、この世界の人類は近くに魔族がいれば強烈な嫌悪感に襲われるのです。」
「勇者よ、私は貴様に危害を加えるつもりはない。話がしたいだけだ。」
そう、聞こえてきたと思えば魔族が姿を現した。誠意を見せる為か魔族は武器を持ってはいない。
「貴様は魔族なのだろう?こちらに危害を加えないとなぜ信じられる?」
「ふむ、そこは言葉を重ねるしかないだろう。なぁ勇者、いやタクミ?」
…なぜ、知っている?
「タクミとは、誰ですか?勇者様の名前はダニエル・ヘプバーンでございますが。」
「黙れ、スパルタクト。なぜ、貴様が、魔族如きが知っている!魔族は魔物の系譜ではないのか!」
俺の言い分が面白かったのか、
「我々が魔物の系譜?戯言もほどほどにしろ。私は、いや我々は、お前を覚えている。1人でのうのうと暮らしてたお前をな!」
激昂した魔族は、その怒りを抑えようと深呼吸をし、
「ふぅ、ふぅ、真実を知ればお前も我々の仲間になるだろう。だが、無知も罪だが一から教えて貰う事は貴様の為にもならん。故に我々は考えた。貴様にヒントをやろう。我々は、貴様らが魔族と呼ぶ存在は人間である。そしてそのことに誇りを持っている!」
そう言い切るや否や、目の前の魔族は消えた。
アニソトロ戦記 相生隆也 @carlot
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。アニソトロ戦記の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます