第14話 魔法少女(!?)姫野優希☆下

 月子が右手の機剣を構えた。それだけで大気が震える。

 い、いけない……ほ、本気だ。な、なんとか、なんとか、説得をっ。


「つ、月子、今日はいい天気」

「遺言はそれだけ? 死んどきなさい」


 抗弁する時間もなく、緋色の魔法槍がボクを照準。一斉に襲い掛かってくる。

 一部は空間を展開して吸収。だけど……七割以上が空間そのものを貫き迫って来る。空中を逃げ惑いながら、文句。


「こ、込められる魔力がオカシイよっ!? お、お兄ちゃん、こんなの喰らったら死んじゃう、死んじゃうんだけどなっ」

「大丈夫よ。楽に死――してなさい」 

「い、今、言いかえたよねっ!」

「魔法だけを気にしてるんじゃないわよっ」


 無数の魔法槍と共に、月子がボクを追ってくる。

 吸収した魔力を還元し杖に集中。一撃を受け止めようとするも――半ばから両断! うぇぇぇぇ。声にならない呻きをあげつつ、どうにかこうにか後退。


「はんっ! そんな代物で私の『月風』を受けれると思ったわけ? さ、とっとと抜きなさいよ。もしくは」

「もしくは?」 

「…………そ、そんな恥ずかしい事、こんな所で言える筈ないでしょっ! この変態っ!!」

「り、理不尽という言葉を、超えてるよ!?」

「う・る・さ・い!」


 今やこの世界に無数とある機剣――その頂点にして絶無の存在『七機剣』の一角『月風』をぶんぶん、振り回しながら月子が切っ先に魔法を紡ぐ。

 ……冷や汗。

 どう考えても戦略級殲滅魔法。都市攻撃でもする気なのかな?

 だ、誰か助けを! 救いを求め、貴賓席に視線を向けるも、雪姉も華も出てくる気配なし。

 分家の連中は「いいか、絶対に撮り逃すなよっ!」「「「はっ!!」」」「優姫様、その泣きそうな表情、いい、いいですぅぅぅ」「結界は更に補強せよ。宗主様、華子様は無論、観客の皆様もだ」……酷い。誰も心配してくれてない。

 ――はっ! そ、そうだ、委員長達ならきっと!


「姫野、そこだと私達が巻き込まれる。もっと、上へ行け。逃げたら分かっているな?」

「い、委員長……無体だよ……」


 冷たく、委員長に上へ行けと言われたボクは、しょぼくれながら移動。

 恨めし気に勝ち誇っている妹を見る。


「な、何よ、その目は」

「…………月はさ」

「?」

「ボクのことが嫌い、なの?」

「ばっ!!!! …………こほん。私はあんたのことが、き」

「き?」

「き…………き、嫌いではないわ。い、一応、肉親だし? 姉だし?」

「待った。ボクは姉じゃない。兄。お兄ちゃん。昔は、あんなに呼んでくれ――あれ?」


 古い記憶を呼び起こす。

 えーっと、えーっと……月がボクを『お兄ちゃん』と呼んでくれたのは…………おや?

 小さい頃は『お姉ちゃん』。

 大きくなってからは『あんた』。

 二人で買い物へ行く時は、『優希』。

 ……おっと。

 がくり、肩を落とし、拗ねる。


「な、何よ、ど、どうしたのよ?」

「……月は、ボクのことをどう思ってるの?」 

「!?!!?」


 今まで見た事がない程、妹が動揺。

 切っ先に紡いでいた戦略級殲滅魔法が、バチバチ、と音を立てる。


「いつもいつも、こうやってボクを虐めてさ……酷いよ。ボクは月のことを大事に想ってるのに……」 

「わ、私だってっ! あんたのことが!!」

「ボクのことが?」

「だ、だ、だ」 

「だだだ?」

「――……こ、こんなとこで言える筈ないでしょぉぉぉぉ!!!! バカ優希ぃぃぃ!!!!!」


 癇癪を起し、剣を掲げた。魔法が完成し、解き放たれる。うぇぇぇ。

 観客席からは悲鳴があがっている。まぁ、炸裂したらこの地域全体が吹き飛ぶし、今更逃げるも何もないのだけれども。

 雪姉と華は……動き気無し。ただし、僕と月の周囲に隠蔽魔法を展開してくれている。ここまで、予定通りか。まぁ、十家の子達が見たら気付くかもしれないし。

 溜め息を吐き、右手を翳す。空間から『あれ』を抜き、迎撃。

 

 緋閃が空中を走り、魔法へ接触――そして、最初から何事もなかったのかのように、消失した。余波で、上空の雲も消しちゃったけど、まぁ良し。いい天気。


 月へ近付き、拳骨を落とす。


「こーら」

「! いったぁ」

「こんな所で展開する魔法じゃないよ。いくら、雪姉と華もいるからって」 

「……だって」

「あ~」


 普段の強気は何処へやら、不安気に見つめてきた妹の頭をぽんぽんする。

 凄まじい数の撮影音。

 ……ボクは何も聞いてない。聞いてないぞ。

 月と連れだって地上へ降りる。えーっと。


「先生」

「は、はいっ」 

「試合、中断しちゃってすいませんでした。続きを」

「も、もう結構ですっ! 勝者、姫野優希さん!」


 一斉に大歓声。

 隣の月は、もういない。どうやら、恥ずかしくなったらしい。かき回すだけかき回していくんだから。まぁ、少しだけ寂しかったのかな?

 外で、手を取り合っている月風と双神さんへ手を振る。勝ったよー。


「ま、待てっ!」


 歩き出そうとした矢先、後ろから声がした。

 振り向くと顔面を蒼白にしている、御倉君。


「何かな? まだやる?」 

「……お前は、お前は、いったい何者なんだ。ただの女装趣味の男ではないだろう?」

「女装も趣味じゃないんだけど……ボクの名前は姫野優希。姉が一人と妹が二人いる、何処にでもいる、男だよ。ああ、そうだ」


 近付き、背伸びをしながら耳元で囁く。


「(次回以降は手加減しないから、そのつもりで。挑むならば……死を覚悟してかかってこい)」

「!」


 離れると、複数の殺気。

 委員長を見ると、目を瞑り首を掻き切る仕草。な、何故!?


 大歓声があがっている。

「今、もしかして」「いや、そんなまさか」「姫様、大胆っ!」「公衆の面前で告白するなんてっ!」「漫画みたい♪」……ふむ。

 

 ボクは、再度、背中に翼を広げ逃走を開始した。死にたくないっ。死にたくないよぉぉ。 

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