第13話 魔法少女(!?)姫野優希☆中
「ではでは、いっくよー。あ、先生、退避をー」
「え? ええ? えええっ!?」
杖を振るうと、魔法槍が緋色の奔流と化し顔を引き攣らしている三人へ襲い掛かる。うんうん。久しぶりに使ったけど、綺麗だよね。ちょっとした花火気分。
「撮ってるな?」「無論、抜かりなしっ!」「売れる、売れるぞぉぉ。衣装とアクセサリー代を出してなお、御釣りが出るっ! 黒字万歳っ!! 後はタイトルを決めないと」「あの杖にして正解だったな……でも、次回はグローブで」「矢野、あの姿を見てまだそのような戯言を吐くとはな――第一、そのような物を持たせて、万が一怪我をしたらどうするのだ。あの小さくて可愛い手が、だぞ?」「うぐっ……そ、それは……」――君達。少しはボクの心配をしよう。
四方からの襲撃に御倉君達は、それでもすぐさま対応。
天宮さんと、神乃瀬さんは光の結界と、氷壁を全周展開。御倉君も、攻撃魔法で迎撃しつつ、突撃態勢を維持。ふむふむ。まぁ、そこそこかなぁ。
魔法槍が、結界と氷壁、迎撃魔法と衝突。砕かれ、消失――再生。
「「「!?」」」
「そこまで、驚かなくても。ほら? 散った魔力って勿体ないな~って思うでしょ? 君達の魔力も集まれば数はあんまし減らないよ? むしろ、増えるかも?」
これ以上ないくらい目を見開く御倉君達。反応は面白いけど、この程度で驚いていちゃ、月に虐められたら大変なのになぁ。
人差し指を顎につけ、小首を傾げる。
瞬間、周囲から大歓声。「優希さまぁぁぁぁあ」「こちらに視線、視線をっ! 是非とも、是非ともぉぉぉお」「あーあー優姫様。四方に、四方に同じ姿勢をっ! 不公平は不満を鬱積させますっ!」「そうですっ! ……あの衣装の製作者、出来るっ」「雪子様へ嘆願書の準備を! この後、全分家を参集の上、上映会決行の許可を願うのだっ」「はっっ!!」…………終わっても、そっちにはいかない。いかないからねっ!
少しずつ、結界と氷壁が綻び始める。御倉君の顔は真っ赤。天宮さんは愕然。神乃瀬さんは氷壁を維持しながら、必死に魔法を紡いでいる。
――ボクの周囲に氷華が舞い始める。おー綺麗。
「『
一気に具現化。突風と共に氷華が迫ってくる。
……これ、人殺せる魔法なんだけどな。酷い。あんまりだ。ぐれてやる。
直撃寸前に氷山の上から跳躍。面倒なので飛翔魔法を発動。すると、観客席から今日一番の凄まじいどよめき。えー普通の魔法なのになぁ。
緋色の翼をはばたかせ、少しだけ距離を取り、氷華を全て空間に吸収。
そのまま、魔法槍にして返すのは芸がないので、今度は氷で☆を形成。
杖を降り下ろす。
「えーい」
流星群が、緋色の奔流に合わさる。緋と白が綺麗――はっ! 視線を感じたので、お尻を押さえつつ、魔法を発動。手応えあり。「!? 目が、目が、目がぁぁぁっ!」「お、おいっ! だ、大丈夫かっ。何を、何を見たんだっ!!」「……俺は見たんだ。ああ、確かに見たんだ。ここで、死んでも悔いは――」「おい、おいっ! 死ぬなっ! 死ぬ前にっ、見たものを400字原稿用紙50枚分に書き残してから逝けっ!!」「やっぱり、恥じらう魔法少女は最高だぜ」「……甘いわね。苺パフェの上に練乳をこれでもかってかけて、更に高級チョコレートをトッピングしたくらいに甘々ね」「! なんだとっ。あの姿を見て、そんな台詞を吐くとは、お前、もしや」「確かに魔法少女は至高よ。でも――変身を一回に限定するのは、思考硬直よ!」「!? そ、そうか……二度、三度と」……いけない。また、新たな異端者が生誕しようとしている。早く、早く滅せなければっ。
今までは、単純に結界と氷壁へぶつけ、砕け、消失していた魔法槍を再生させていただけだったのを変更。一旦停止して、掲げた杖の上に集結させる。
「馬鹿な、馬鹿な、馬鹿なっ!!!!」
「っ!」
「……本当に、人、なの?」
御倉君達は蒼白。だいじょーぶ。死にはしないし。ボク、血もあんまり好きじゃないし。
前方に、今まで集めた全魔力で巨大な球を形成。
流石に、最前列で陣取る生徒さん達や分家連中に声をかける。
「あーあー。本日は晴天なり。前列の人達、ちょっと、危ないかもなので退避を――……うん、分かった。もう……好きにすればいいよ」
皆、一丸となって戦略級結界を形成中。満面の笑み。そ、そこまでして、ボクの恥を撮影したいとっ!?
うぅ……みんな、みんな、敵だ……。
ちょっと泣きそうになりながら、魔力の塊を落下させる。
「「「っっっ!!!」」」
三人は、全魔力を振り絞り魔力障壁を急速展開。
きっと月なら、ここで容赦なく介入して障壁自体も展開させないだろうけど、流石にそれは……ボクはこれでも、優希、だし? 優しいし? あの子みたいに鬼じゃないし?
――障壁と塊が激突。
構築物にひびが走り、壊れていく。視界の外れにあたふたする望月先生の姿。あ、注意しそびれた。仕方ないなぁ。
吹き飛ばされそうになっている先生を抱え、空中へ。
「大丈夫ですか? すいません、ちょっと、やりすぎちゃいました」
「え、あ、は、はい……」
? どうしたんだろ??
さて、あの子達は――突然、塊と障壁自体が全て消失した。
極大の悪寒。
心臓をこの場で握りつぶされたかのような、こ、この感覚は……!
慌てて、先生を委員長へ放り投げる。
ほぼ同時に、緋色の魔法槍が、周囲を完全包囲。
う、後ろを振り向きたくない。ないったらないっ! でも、振り向かなかったらぜっったい、殺されるっ!!
両手を挙げ降伏を示しつつ――振り返る。うぅぅ。
氷山の上にいたのは長い黒髪の美少女。この前、買いに行ったズボンを履いた、ラフな格好。眼光鋭く、手には古い機剣。うぇぇぇぇ。
「ま、ま、待ったっ! は、話しおうよ、月っ! 話し合えば、きっと、分かり合」
「うっさいっ! この変態女装趣味っ!! ……私が言っても中々着てくれないくせに、こういう時は着て……しかも……私の前で、違う女を御姫様抱っこするなんてっ!!! 万死に値する。万回殺すから、そのつもりでいなさいっ!!」
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