第12話 魔法少女(!?)姫野優希☆上

「「「!?」」」

「ひ、姫野君?」


 おっと、少し殺気が漏れた。びーくーる、びーくーる。

 先生に満面の笑みを向ける。


「大丈夫ですよ、先生。ちょっとした小粋なジョークです。始めましょう。……この格好のままだと、ボクの心が死んでしまいます」

「? とても可愛らしいですよ??」


 うぐっ……せ、先生まで……。

 月風と双神さんも、大きく頷かない。

 そこ! 口笛吹かないっ、旗を振らないっ! 団扇を販売しないっ!!

 はぁ……何でこんな――貴賓席方向から突き刺さるような視線。止めて、こんなボクを見ないでっ!


『……あんた、『十乃間』を愚弄してるわけ?』


 そういうなら止めておくれよ、月。

 でもでも、あの子も反対なら、逃げ――な、なんだ、このとんでもない魔力の波動は!? せ、世界大戦でも起こす気!!!?

 い、いったいだ、誰が。しかも、僕だけに分かるようぶつけてきてるし。こ、こんな事が出来るのは、雪姉か、月か華しか……。 


「どうしたの?」「姫野先輩?」 

「あ、ああ。うん、だ、大丈夫だよ」


 魔力は収まっている。き、気のせい? 

 月風達は会場の外へ。さて、やろうかな。

 ――視界に、どうしたってひらひらの衣装が入る。無心だ。無心になるのだ。ボクが着ているのは普通の制服。違う! 女子のじゃない。男子の制服!!

 ……良し。刷り込み完了。どっからどう見ても、ボクは


「姫野!」


 腕組みした委員長が何かを投げてくる。うぐっ……。

 こ、こんなモノ、受け取るもんかっ。投げ返――凄まじい圧力に押され、無意識で空中に飛び上がり、受け取ってしまった。

 はっ! ボ、ボクは何を……。


『オオオオオオオオオオオオ!!!!!!』


 会場内が湧きに沸く。

 ボクが受け取ったのは、白い翼がついた可愛らしい杖。要は、魔法少女がもっていそうなソレだ。

 凄い数のフラッシュがたかれる。「……見えたっ」「!?」「そのデータをよこせっ! よこすんだっ!!」「そうだ!! ……で、何色」おっと。それ以上を口にしたら、許さない。

 委員長、ボク、仮にもこれから『十家』の内、三家の直系と戦わないといけないんだけど? もう、精神的には敗北してるよ??

 深い深い溜め息をつき、その場で崩れ落ちそうになる自分を励まし、対峙する。

 御倉君は憤怒。残り二人は困惑。あー……その反応、とっても和むなぁ。


「えーっと……姫野君、もういいかしら? だ、大丈夫??」

「はい、どうぞ。ハハハ。先生、これで大丈夫な筈ないじゃないですかぁ。もしも、ボクが死んだら、灰は海へ撒いてください……」

「し、死ぬのは駄目ですよぉ。コスプレなら任せてくださいっ」


 分かる。ボクの目は今、死んだ魚みたいになっている。

 どうしよう、何処を見渡しても救いがない。


「望月教諭! 早く、始めてくださいっ!! ……こんなふざけた輩と一緒の空気を吸うのは不快に過ぎるっ!!!」


 嗚呼、御倉君。君とは親友になれる気がしてるよ。思わず目頭が熱く……。

 戸惑いつつ、審判役の望月先生が手を振り下ろす。


「えっと、で、では――はじめっ!」


 声と共に、御倉君が機剣を抜き放ち、突撃してくる。あの波紋は『紅雲』の末期型かな。悪くない。

 後方では、天原さんが光属性の魔法を多重展開中。神乃瀬君は、その直衛。

 ふむふむ、前衛・中衛・後衛と揃い踏み。魔法もまぁまぁ。


「何処を見ているっ!!」


 距離を詰めて来た御倉君が、十数の身体強化魔法を使いながら、ボクへ機剣をふるってくる。

 極々僅かだけ魔力を用いていなし、後退。杖を振り、魔法を展開。

 ……うわ、この杖、下手な業物より全然性能上だ。委員長、ドヤ顔しても褒めないからね。

 いったい何時から用意していたのかを考え戦慄しつつ、いきり立つ前衛様へ、魔法弾を一発ずつ発動。


「このような基本魔法など、当たるもの、がはっ!」

「「!?」」

「ほい、ほい、ほいっと」


 迎撃してきた瞬間に、次々と転移させ、障壁の死角からぶつけていく。んー雷耐性が低いかなー。勿論、非殺傷です。人殺しとか、ねぇ?

 御倉君へ一発ずつ、魔法弾を叩きこんでいると、援護の光魔法がボクへ向かって放たれた。その数、数百。否、数千。

 杖を振り、闇魔法を発動。空間へ吸収させていく。


「そんなっ!?」

「…………」


 無言で、神乃瀬君が、機剣の切っ先に紡いでいた魔法を解放。

 つめたっ。周囲一帯が氷つき始め――突如、足元から、氷山が産まれた。


「「「!」」」

「危ないなぁ。今の、人が死んじゃう威力だったよ? まったく、命は何よりも、大事だっていう教えを君達の家は忘れてしまったの? 仮にも『高遠』の隊長達だったのに? ――はっ!」


 氷山の頂点上にいるボクは、慌てておしりを押さえた。

 後方から舌打ちの嵐。

 き、君達ねぇ……ボクの心配じゃなくて、そっちを撮ろうとするなんて……うぅ、この学校、変態が多過ぎるよぉ……。

 分家の人達は、何か泣いてるし。そんな事したかなぁ。

 杖を抱きかかえながら、腕組みをし小首を傾げる。う~ん。


「お前は……お前はなんなんだっ! 何故、そのような恰好をしながら、これ程の技量を持っているっ。これでは……これではまるで、かの『狐魔』ではないかっ!」

「へぇ……よく、知ってるね。もう、忘れ去られた――いや、意図的に抹消された名前なのに。ま、当たらずとも遠からずかな? さて」


 杖を頭上に掲げる。


「「「!!!!!」」」


 四方を埋め尽くすように展開された、緋色の『魔法槍』。

 三人の顔が蒼白になり、引き攣る。えーこれでも、思いっきり手加減してるんだけどなぁ。

 それに、ほら? これは、君達が放ってきた魔法だし?? ボクは育ちが良いから、拾ったモノは返すんだ。

 

 さ、反撃開始といこー。

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