第11話 ボクは姫野優希じゃありません。本当です。嘘じゃありません!
月風と双神さんを伴い、軽口を叩きながら訓練場入り口に向かうと、喧騒が聞こえてきた。
……進みたくない。ボクの身体はこれ以上、進んではいけないっ! と訴えている!!
回れ右をして、通路を戻ろうとすると、両手をガッチリと拘束された。
「今更、逃げるんじゃないわよ」
「姫野先輩、大丈夫です。とっってもお似合いですから♪」
そ、そういう問題じゃないと思うんだけどなっ!?
ふわり、と足が持ち上がり空中へ。あ、こういう絵面、オカルト系で見たことあるや――って違うから。
通路を出ると、一気に視界が広がった。
四方の観客席は全て……埋まって、いる、だと……?
馬鹿な……ここの収容人数は千名近いんだぞ!?
「あ、姫様だ~」
「ねぇ、あの衣装ってさ」
「うん……間違いないわね」
「ここで、魔法少女とは……流石、姫野だ。そこに痺れる!」
「憧れるっ!!」
「おおおおおおお~!!」
何時もの如く、生徒達から歓声。
――無心だ。
大丈夫、これは現実じゃないから。今、ボクは男子生徒の制服を着ているのであって、間違ってもフリフリかつキラキラな魔法少女風の服なんて着ていない。着ていないったら、着ていない。
……だから観客席最前列に並ぶ、撮影用カメラの群れを見ても動じたりなんか……くっ……来るなっていったのにぃぃぃ。
分家の主だった人達全員来てるじゃないかぁぁ……!
し、しかも、応援用の旗とかグッズまで。あ、拓海! な、なに、交渉して分けてもらってるのさっ! え? クラスで配る? へ、へぇ……。
膝から力が抜け、崩れ落ちそうになるも両手を抱えられているので、それすら許さてない我が身の悲しさよ。
「ほら、ちゃんと立ちなさいよ」
「姫野先輩、ファイトです! はい、こっちも視線下さい」
「……君達。案外と楽しんでるね」
後輩達をジト目で睨むも効果無し。どんどん図太くなってる気がする。
えーっと……流石に、雪姉達は貴賓席かな。こちらから、顔は見えないけれど。
――あ、周囲を固めてるのは、滝さん達だな。
小さく手を振ると、微笑み返してくれた。ちょっと嬉しい。
周囲から、何故か今日一番の歓声。そして、フラッシュ。観客席最上部の貴賓席からとんでもない殺気。おおぅ。なるほど、月はもう来ていると。
深く溜め息を吐き、足を運ぶ。
待っていたのは、男子生徒二人と、女子生徒が一人。明らかに戸惑っている。
そりゃそうだよねぇ。大丈夫、君達のその感覚は健全だから。家名を重んじて、無理矢理再戦を申し込んできたのは、どうかと思うけど。
やはり、おどおど、している若い女性の先生――歴史だったかな?―—へ声をかける。
「お待たせしました。それと……何か、ごめんなさい。お祭りみたいになってしまいまして」
「い、いえ、だ、大丈夫ですよ。姫野君がそういう子じゃないことは、よく分かっていますから。ただ――そ、その恰好は」
「……先生。後生です。聞かないでください。なので、とっとと始めて、とっとと終えましょう。そうしないと、ボクは半永久的に、毎日一汁三菜の料理を作り続ける毎日を送りたくなりますから」
「は、はぁ」
「……何だと? お前、今、何と言った?」
おっと、気に障ったかな。
黒髪で、見るからに真面目そうな男子生徒がボクの声を遮ってきた。この子は、『御倉』の子だったかな。
肩を竦めつつ、手をぶらぶら。
「えーだって……君達が難癖をつけてこなかったら、こんな事にならなかったんだよ? 負けは負け。所詮は訓練なんだしさ、それで良かったじゃないか」
「俺達は負けてなどいないっ! あれは、お前達が卑劣な戦術をとったからだっ!」
「それ、戦場だったら負け惜しみなんだけど……君達も同じ意見――って愚問か。まーいいや。先生」
「は、はいっ!」
「見ての通りの有様なので、長期戦は心が持ちません。出来れば、一回で終わらしたいので、三人いっぺんにして下さい」
「「「!?」」」
「ひ、姫野君。そ、それは流石に……」
「勿論、三対三なんていいません。こちらはボクだけです。負けたら、月風は煮るなり、似合わない服を着せて辱めるなり、何なりと」
「! わ、私、そんなの聞いてないわよっ!?」
「今、言ったからね。少しはボクの気持ちを味わうべきだっ! それに負けないしね」
「き、貴様……望月教諭、私達はこの案を受けいれる。神乃瀬と天原さんもそれでいいな?」
憤怒の表情を浮かべている御倉が、同じく怖い顔をしている二人へ確認を取ると、当然といった表情で頷いた。
……よしよし。
「先生、御倉君達もそう言ってくれてることですし」
「……わ、分かりました。ただし、危なくなったら即中止にします。いいですね?」
くっくっく……計画通り。
これで、一戦毎の着せ替えは完全になくなった。最悪、ここでごねられる事も想定してたから、一安心。
原理主義者共は一時的に殲滅したとはいえ、それ以外の宗派は健在。可能性は潰しておくに越したことはない。
あの子達、最早、宗教に片足を突っ込んでいるからなぁ……青春ってなんなんだろう……。
少し黄昏ていると、月神と双神さんが、袖を引っ張ってきた。
「……ねぇ」
「姫野先輩。やっぱり、私達も一緒に」
「う~ん、心配してくれてありがとう。でも、大丈夫。後で打ち上げしようね。ああ、そうだ、一点だけ言いそびれた」
満面の笑みを浮かべ、御倉達へ言い放つ。
「言っとくけれど、今日、どんな結果になっても、文句は言うなよ? 過去に魔王級魔鬼を討伐した『三輝七星』にして『高遠における一桁台の隊長』という家名に誇りを持つのは勝手だ。好きにすればいい。だけど……それを他人へ押し付けるな。自分達の世界の中に、それを留めておけなかったから――昔々、痛い目を見たじゃないか。ご先祖の教訓から学ぼうとしないのは、愚か者のすることだろう?」
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