第10話 この歳で授業参観なんて……もう、おうちに帰らせていただきますっ!

「ねぇ……委員長」

「駄目だ」

「まだ、何も言ってないよ!?」

「言わずとも分かる。『着替えさせてよ』だろう?」

「ど、どうして、それを……!」


 ま、まさか、特異能力さとり「阿呆が」酷い!

 ……うぅ、ひらひらしてるよぉ。動き辛いぃぃ。

 こんな格好で『天原』『神乃瀬』『御倉』とやりあえと!?

 これは虐めだ! 横暴だ! ボクは断固として抗議を――。


「ああ聞いていると思うが。今回の模擬試合、宗主様、月子様、華子様、それに分家筋は、皆来るぞ。今から逃走すれば……さぞ、悲しまれるだろうなぁ」 

「うぐぐぐ……き、汚い。余りにもやり方が汚いよ、委員長!?」

「ふははは。誉め言葉と受け取っておこう」


 勝ち誇りながら、委員長が控室から出て行った。お、おのれぇぇぇ……。

 それにしても、この歳で授業参観なんて……もう、おうちに帰らせていただきますっ! ……帰れないけど。

 入れ替わりで、月風と双神さんが入って来た。


「………へ、へぇ。少しは似合ってるじゃない」

「うわぁぁ。姫野先輩、お似合いです」

「二人共、余裕だね。ボクが負けたら君達がやり合うんだけど?」

「「あーそれはないです」」

「即答!?」

「いや、だってあんたが負ける姿が」

「まったく想像出来ません。むしろ、先程、覗いたら、祝勝会で着る服を選ぶ会議が未だ荒れてましたけど。矢野先輩が力説されていらっしゃました」

「…………どうにかして、諸々の原理主義者だけは潰してね。それ以外だったらもう許容する」


 そう、人とは悟るものなのである。

 まさか、自分がこんな風になろうとは! ボクも成長したものだ。うんうん。

 ……泣いてない。泣いてないぞ。泣かないっ。泣かないんだっ。

 が、奴等だけは……潰しても潰しても、叩いても叩いても、焼き払っても焼き払っても復活してくる、体操服派、水着エプロン派だけは、殲滅しなければならないっ。

 これは聖戦である! 我が尊厳賭けた戦いっ! 絶対に負けられない戦いがここにはあるっ!

 本当はもう一派閥潰したいところだけれど……いや、終わってから考えよう。

 今回は月子もいるし。そう、変な事にはならないだろう。

 最近、やたらとボクへの当たりが強いけれど、あの子は良識を持っている筈だ。

 時折、変な事を要求されるけど……それにしたって、だ。

 ん? この魔力は。はっ! ま、まずいっ。


「兄様♪ 待ちきれずに来ちゃい――」

「は、華……み、見ないで、見ないでおくれ。こんな、こんなボクを……」


 妹の華子がやって来た。そして、ボクの姿――完全に魔法少女風――を見て目をまん丸にしている。

 うぅぅぅ……こ、この子だけには、見られたくなかった……。

 試合が始まったら、そそくさと着替えてしまおうと思っていたのに。

 押し黙り、俯いたまま、華子が近づいてくる。

 思わず、一歩後退。更に前進、もう一歩後退。

 突然、両手を掴まれた。

 

「……兄様」

「な、何かな?」

「素晴らしいですっ! どなたが作られたのですか? 是非是非、ご紹介を。私も兄様に着ていただきたい服の案がまだまだたくさんあるんです♪」

「ええええ……」


 華子は、ボクに構わず服の細部を確認し、その都度、賛嘆の声をあげている。

 うぅぅ……雪姉の悪影響がこんなところに……お兄ちゃんはとてもとても悲しいです。

 双神さんがおずおずと口を開いた。


「あ、あのぉ。姫野先輩、そちらの方は?」

「あー妹です。華子、ボクの後輩さん達。双神さんと月風」

「……話には聞いています。十乃間華子です。あ、一つ言っておきますけど、兄様は私達の兄様ですので、手を出されても無駄です。出したら、潰しますね♪」

「「っ!」」

「てぃ」

「あぅ。あ、兄様、痛いです」

「一般人相手に、殺気を飛ばすんじゃありません」

「えーだってぇ」

「だってじゃありません。そういう事するのは、月だけで十分だよ、ほんと」

「…………月姉様だったら、もう『月風』を抜かれてると思いますけど」

「? 何か言った?」

「いいえ、何も♪ それでは兄様。また後程です」


 華子の姿が消える。

 二人が息をのんだ。う~ん……新鮮な反応。いいなぁ。

 時計を見る。おっと、そろそろかな~。

 思いっ切り、伸びをし、準備体操。

 やっぱし、動きにくいっ! 

 今からでも、制服に――おや?

 んー! んー!! ……ぬ、脱げない、だ、と!?

 な、何故だ。服の細部を調べる。こ、これは……魔法式!?


「華まで、酷いよ……」

「ね、ねぇ」

「うん? 何さ。今、僕は妹にまで裏切られて傷心なんだけど」 

「…………今のが、その、『十乃間』なの?」 

「え? 見れば分かっただろ」

「嘘でしょ? あ、あ、あの子、私達よりも年下だったわよ?」

「華子は、7歳で世界十傑に入ってたからね。今は、確か五位だったかな?」

「…………」 

「ひ、姫野先輩、わ、私達は、その……」

「あーさっきの言葉を気にしてます? 常套手段です。うちの妹達は、よくああいう事言うんですけど、実行したことはないですよ。止めますし」

「そ、そうですか……」


 少し顔を蒼褪めた双神さんが深呼吸をしている。月風はぶつぶつ、と何を呟き中。ふぅ、やれやれ。華で驚いていたら、雪姉に会った時は大変だ。

 あの人は、まぁ、そういう人だからなぁ。

 さて……服は脱げそうにない。

 無心だ。無心になるのだ、姫野優希。

 今、ボクが着ているのは制服。そう、普通の男子生徒の制服だ。

 良し。いこう、うん!

 二人の肩を叩き、促す。



「それじゃやってみますか。とっとと終えて、桜宮さんが準備してくれているらしい美味しい物を食べに行こう」 

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