第8話 姫様はこう見えても博識なのです

 さて、ここで一つおさらいをしよう。

 この国には、政治・経済・魔法の各分野へ大きな影響力を及ぼす名家が存在する。その代表例が二宮八家と呼ばれる十名家。

 

 二宮『桜宮』『藤宮』

 表四家『天原』『神乃瀬』『双神』『御倉』

 裏四家『十乃間』『鹿灯』『八ツ森』『月風』


 内『桜宮』『藤宮』『天原』『神乃瀬』『双神』『御倉』は、人類が魔法を使うより以前から存続し、ずっと名家の本物だ。

 そして、同時にかの家々は……『高遠』と呼ばれ、かつてこの国に存在した世界最強の対魔組織内で、別格の強さを誇った歴代一桁台の隊長を輩出した背景を持っている。『八ツ森』も同組織出身だけど、一桁まではどうしても辿り着けなかったそうだ。

 なお『森塚』と拓海の家も古い。ただ、あの二家は『高遠』に参加しておらず、別系統。

 この『高遠』という組織、とうの昔に解散しているのだけれど、その戦歴は凄まじい。何せ、の『魔王』を幾体も討滅しているのだ。

 表沙汰にはならなかったけれど数年前、某国が対人用として、そのほんの一部を顕現させた時は……。で、各国政府が即座に結束。世界最精鋭部隊をぶつけたものの、損失率七割で敗退する、という現実を突きつけられ、恐慌状態に陥った事もある。

 その後、雪と月とボクとあの人とで滅ぼしたけれど……もうやり合いたくないなぁ。なお『高遠』が滅ぼしたのは、完全体だったらしい。変態過ぎる。

 雪姉曰く『人という種の恐ろしさを濃縮体現していた組織』。

 あの人にそこまで言わせるって事は、最早人外中の人外という集まりだったんだろう。がくがく。

 戦力としても強大だったのに、『七機剣』『雪』『月』『二十四節季』といった、世界の戦力バランスすら未だに揺るがす機剣を作成したって言うんだから……もうちょっと、オカシイ。『七機剣』はボクも使った事があるから分かる。あれは、もう戦略兵器だ。

 ……逆に言うと、そんな物を使わないと『魔王』は倒せなかったのだ。怖い。今度、顕現したら雪姉と月に任せよう。そうしよう。


「待ってください、姫野先輩」

「はい、双神君」

「今までのお話は、私もある程度は知っていました。一部、知らない話もありましたけど。『鹿灯』『月風』が新世代なことも。ただ」

「ただ?」

「——『十乃間』は何処からやって来られたんですか?」

「あ~……」

「姫野」

「ん~いいんじゃないかな、この話は。もう、過去の因縁も何もないでしょ。歴史のお勉強だよ。桜宮さんは知ってるんじゃない?」

「知っています。知っていますが……何も話しませんっ!」


 両手で自分の口を塞ぐ桜宮さん。えらく張り切っている。自分の魔法で自分を縛っておいてもなお危ない、という自覚は持っているんだね……。

 月風は――あ、この子は知らないな。うん。


「……ちょっと、今、私の事、馬鹿にしたでしょ?」

「まさかまさか」

「舞花ちゃん、知ってるの? 」

「……知らないけど」


 拗ねた口調。う~ん、何とも分かりやすい。

 仕方ない、ちょっとした小話だしね。


「今から話す事は、歴史秘話ってやつになる。あんまり口外はしないでね」

「……分かったわ」「分かりました」「喋りませんっ!」

「あ、ついでに森塚家のことも」「姫野?」「……話しません、ハイ」


 うぅ……委員長の目が本気だよぉ……。

 それにしても、脅す方法が物理じゃなくて、画像を見せるっていうのはある意味で斬新な気もする。

 そう言えば、拓海が『姫の画像データは愛好家の間で、トレードされたりしてるからな。その市場は学内全体に拡大中だぜ!』と言っていたけれど、あれはいったい……何れ、撲滅を図らねばっ! ボクの心の平穏の為にっ!!


「姫野先輩?」

「ああ、ごめん。ちょっと考え事をしてたんだよ。『十乃間』はね、地名なんだよ」

「地名、ですか?」

「そ。かつて、この国には『十乃間』という地があったんだ。今はもう――あるにはあるけど、誰も入れなくなっているけどね。昔々の話だよ」


※※※


 かつて、まだ『高遠』がこの地にあった時代。

 魔王『紅炎』を討滅した後だったというから、まだまだ混乱していた頃だね。

 さ、ここで質問しよう。

 魔王を討滅するような組織で『最強』の称号を持っていたのは誰だったと思う?

 総隊長? 違うよ。当時は天原家の人が務めていたらしいけど、本人自身が否定している。他の隊長達も同様だね。


 ——『高遠最強』。その称号を戴いていたのは。四人の男達だったらしい。


 すなわち『特班』と呼ばれた小班。

 『魔王』討滅に多大な貢献を成し、『七機剣』他を創り出してみせたとされる、狂気の四人組だ。

 だが、彼等の活躍は殆ど分かっていない。資料はほぼ残っていないし、意図的に四散させた形跡もある。今では、存在を疑う研究者も多い。まぁ知ってる人自体が最早少数だけどね。

 でも……そんな影から影へと動き回り、容易に存在を掴ませない彼等の存在が、一時的に歴史の表舞台に上がった事がある。


 それが『十乃間事件』と呼ばれるものなんだよ。


 諸々割愛するけれど――うちの実家は、そこから名を取ったって聞いてる。

 まー事件自体は血腥いし、そんなに良い名前でもないと思うんだけど……初代様は、頑として譲らなかったみたい。第一希望は師匠から通らなかったんだって。

 ……愚痴ばかりだけど、最後は必ず惚気るという妙な日記を遺してるから、中々初代様も、変な人だったんだろうね。

 

 え? 血筋?? そんな馬鹿なっ!

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