第7話 お説教モードの委員長は怖いのです

「「次期十乃間宗主!!?」」

「あーえーそのー……」


 寝子に化けようしたボクに、月風と双神さんが詰め寄る。

 うぅ~。

 口を開こうとした瞬間、疾風になった委員長が立ち塞がる。

 ……うわぁ微笑だけど、目が全く笑ってない。これはヤバィ。


「月風、双神、今聞いた事は全て忘れろ。それと、桜宮様――これ以上、口を開かれるようなら、物理的に解決するしかないのですが?」

「なっ!? そ、そんなの納得出来るわけ――っ!」


 委員長が神速の抜き打ち。あ~全然見えてないね。流石に、実戦モードだとまだまだ歯が立たないみたいだ。


「……これは命令だ。むしろ、先程の情報を忘れなければ、斬るしかなくなる。私にそんな事をさせるな。双神も」

「……分かりました」

「綾!」

「……舞花ちゃん、これは私達の実力じゃまだ知っちゃいけないことだよ。諸外国は『十乃間』の情報入手に血眼をあげてる。私達が、姫野先輩の弱点になっちゃうよ?」

「そ、そんなのっ……うぅぅぅ……」

「納得してくれたようで何よりだ。で――桜宮様、もしや故意なのですか? つまり、桜宮は『十乃間』の敵に回ると?」

「え、えええ!? そそ、そんなつもりはないです! むしろ、この身をお捧げしても良いと」

「……ならば、単にポンコツなだけですか? 言って良い事と、悪い事の区別もつかぬ人を、優希様の傍に」 


「香澄」


「!」

「ボクは大丈夫だよ。落ち着いて、落ち着いて」

「……はっ。申し訳ありません」

「口調もね」

「それは――そのすぐには無理、です」


 あ~番犬モードになってしまってるや。

 月風と双神さんが戸惑ってるし……う~ん、どうしたものか。

 桜宮さん、どうしたの?


「……姫野様、申し訳ありませんでした。私、何時もこうなのです。罰は甘んじて受けます。この二人に寛大な御沙汰を」

「何もしないよ。する必要もないし。ただ……さっき言ったのを他人には言わないでほしいなぁ。色々と七面倒だからさ。家の問題になっちゃうと、大変だよ?」

「……はい」

「月風と双神さんも。ああ、安心して。さっきの話、あくまでも『元』だから」

「そんな事はありませんっ!! 優希様こそが正当なる」


「——香澄?」


「……申し訳ありません」


 泣きそうな表情になって、委員長が震えている。

 もう、仕方ないなぁ。

 背伸びをして、頭をゆっくり撫でる。


「「「!?」」」

「あ……」

「別に怒ってないよ。何時もありがとう。大丈夫だから、ね?」


 震えが収まった。やれやれ、これで……ふむ。

 これはこれでピンチだ。


「委員長?」

「…………」

「涙目で抱き着いてくるのは反則だと思うんだけどなぁ」

「……ちょっと、いい加減、説明してくれないかしら?」


 月風が、今にも暴発しそうだ。双神さんもちょっと怒ってる。

 桜宮さんは……「まぁまぁ」なるほど。どうやら、こういう人らしい。


「はぁ……月風、委員長の姓は?」

「そんなの、森塚じゃない」

「それじゃ、森塚はどこの分家?」

「……ねぇ、今や森塚って下手すると『十家』を超えるかもしれないんだけど。その長女が護衛役についている。つまり、それって」

「類推してもいいけど、ボクは答えないよ。今のボクは姫野優希。それ以上でもそれ以下でもない。納得出来ないなら、そこまで。縁がなかったんだね」

「……どうして、そんな意地悪な事言うのよ……バカ」

「双神さんもそういう事だから」

「はい、大丈夫です。姫野先輩は姫野先輩ですから」

「ありがとう。さて――桜宮さん」

「二度と口には致しませんっ!」


 う~ん……最初は正真正銘の御嬢様だと思ったのになぁ……。

 この子の言う台詞を信頼出来ない自分がいる……。

 さぁ、ここで選択肢です。


その①:人を信じないなんて、ダメダメだ。信じよう!

その➁:この子は信じられない。魔法で縛っておこう!

その➂:……もうやだ、おうち帰る。


 う~ん、ど・れ・に・しようかな。

 ――良し! 決めた。

 ボクが選ぶのは。


「……桜宮様、御自身に魔法をおかけください。『優希様の事は口外しない。しようとすると声が出ない』と」

「委員長!?」

「……優希様、まだおうちに帰る時間ではございません。駄目です」

「!!?」


 こ、心を読まれた、だ、と……? 

 ば、馬鹿な……委員長、何時の間にそんな特殊能力を。


「……バレバレだ。バカめ。桜宮様、返答は如何に?」 

「分かりました。もっともな申し出です」

「しかも、納得するの!?」

「? 当然です。これは私の失態。ならば、その責めを負うのは当然のことです」

「おおぅ……」


 ま、眩しい……笑顔が眩し過ぎる……。

 こ、これが、『二宮』の一角、桜宮家の御令嬢!

 ほら、君達もちゃんと見てよ。やっぱり、この子、本物の御姫様――。


「……王子だな」「王子様ですね」「王子みたいね」

「うぇぇぇ」

「では――魔法をかけますね」


 満面の笑みで、自分に精神操作の魔法を発動。うわぁ、本当にかけたよ。

 『桜宮』の精神操作魔法って、解除するにも骨がかかるのに。

 ……何か良心の呵責が。それはそうと。


「ねぇ、委員長。そろそろ離して」

「嫌だ。私は傷ついたのだ。これは必要措置だ」

「はぁ……仕方ないなぁ」


 月風と双神さんからの視線が突き刺さってるんだけど、甘受しよう。

 桜宮さんは……「主従間の禁断の関係。……尊いです!」。

 う~ん……キャラが掴めない。悪い子ではないんだろうけど。先が思いやられるや。  

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