第2話 姫と拓海はかなり仲良し

「――という訳で、一週間後に再戦です。ああ、実際には委員長と君とで対応を」

「姫野、往生際が悪いぞ? 貴様単独で全てを蹴散らせ」

「うぅぅぅ……何で、公開処刑されないといけないのさっ! 相手が誰だか分かってるの? 『天原』『神乃瀬』『御倉』だよ? 殺されちゃう、ボク、殺されちゃうよ? 何時から、委員長はライオンみたいな考え方を……あ、昔からか……」

「ほぉ……後で、その話、詳しくしよう。だが、貴様を公開処刑だと? それはないな。むしろ、相手の連中だろう」

「そうね。それはないとして。問題は、綾?」

「姫野先輩! その日、何を着られますか? まさか、制服とか体操服じゃダメダメですし……かと言って、着物はこの前も散々撮影しました。……やっぱり、ここは女の子の夢である、ウェディング――」

「おっと待とうか、双神さん。それ以上はいけない。第一、ボクの心は公衆の面前にそれを晒して大丈夫な程、強靭じゃない。三人とも、少しはボクの心配をしようよ! 相手の子達、強いんだよ? 狂暴なんだよ? この前、あそこまでやられておきながら、再戦を申し込んでくる位、頭が悪いんだよ!?」

「ああ? 何を言うかと思えば……少しは、まともな事を言え」

「はぁ? 誰がよ? 確かに、私と森塚先輩とでやり合え、ってなるなら、大変だけど。あんたじゃ、問題を探す方が難しいわ。……うちのお父様を負かしておいて、そんな台詞言えるあんたの方が、よっぽどじゃない、バカ」

「えーっと……姫野先輩が心配しないといけないのは、着る物だけだと思うんです! やっぱり、着物にしますか? それとも――あ! 私、この前とっても可愛らしいお洋服見つけたんです。今度、デートしながら買いに行きましょう」

「「それはダメ!」」


 先生方から解放された後やってきたカフェテリアで、今、公開虐めが行われている。うぅ……酷い……。少しは心配してくれてもいいじゃないか……。もうぐれてやる。ぐれて学校をずる休みして映画を観に行ってやる!

 と言うか、そこの拓海! 何をニヤニヤ笑って――む。

 回り込んで端末を見る。き、貴様っ!


「あ、姫、見るなよ。プライバシーの侵害だぞ?」

「キサマヲコロス。ヒメッテイウナ」

「こ、怖っ! な、何だよ? いきなり」

「……ボクが真剣に悩んでいる時に、彼女さんからの連絡を見て、ニヤニヤ、ニヤニヤ、と……。如何に、海よりも広いボクの度量にも限度はあるんだぞ! そうか、そんなにクラスの人間にばらされたいのだな? では、すぐさま」

「ああ、別に構わないぜ」

「!? な、ん、だと……?」

「ふ……俺はもう以前の矢野拓海じゃないのさ。たとえ、姫や他の連中が妨害しようと」

「あ、妨害はしないよ。祝福はするし、助けはするけど。と言うかこの前、彼女さんも一緒に服買いに行ったじゃないか」

「おう、ありがとよ。あの時は助かった。そう言えばあの後あいつ、姫のことを『か、可愛い……可愛すぎるっ! 拓ちゃん! 私、こういう子がほしい!!』って言ってうるさくてよ……今度、また頼むわ」

「はいはい。仲がよろしくことで」


 ちっ……途中から惚気話になるなんて。まったく、油断も隙もない。

 まぁ、あの子は拓海にはもったいない位にいい子だし、うまくいってるならそれはそれで御目出度い話――ふむ。


「あーそこの御三方。どうして、ボクの視界を防いでいるので?」

「姫野……念のため、言っておくがお前の性別は信じ難い事に、男性だ」

「……ねぇ、近くに私っていう、美少女がいるのに、どうして、彼女持ちの男と一緒にデートしてるのよ? しかも、彼女公認で」

「姫野先輩、矢野先輩と話されてる時の御顔が、とっても楽しそうです……ダメです」

「あ~……あのよ。姫はこんななりだが、中身は結構、男じゃねぇか? だから、だろ。な?」

「前半部分が気に食わないけれども……あのね、ボクは男なの。だから、拓海と仲良いのは当然じゃないか」


 やれやれ……時々、変な所から突っ込みを受けるから困る。

 今はそんな事よりも、厄介事を片付け――


「では、矢野先輩なら、姫野先輩に何を着せますか!」

「ああ? そんなの長めのスカートだろ。上に着せるのは清楚系。頭にはベレー帽だな。赤茶系の。普段、姫は可愛い系と着物が多いからな。偶にはそういう『小さい子が一生懸命背伸びしましたっ!』的なのが見たい」

「「「有罪っ! ――だけど、見て見たいっ!!」」」

「……拓海。貴様、頭が腐ってるんじゃないのか? そんな恰好、ボクに似合う筈がないだろうが。そもそも、そんな恰好をした覚えはないっ!」

「――ほれ」

「何だ? 写真データ? これが何――き、貴様……!」

「ふはははっ! 姫、俺があの時、何もしていなかったと? 俺には同志がいるのを忘れたのか?」

「同志、だ、と……? ま、まさか……もう、彼女さんまで汚染されたのか!?」

「くくくっ……あのデートの日の写真データはあいつがばっちり、収集してくれている」

「馬鹿なっ!? だ、だけど、あんな恰好、ボクの背で似合う筈が……」

「それが良い、とさっきも言った」


 へ、変態がいる……。

 この場は不利。早めに撤退――双神さん? ど、どうしたの? ちょっと、息が荒いよ……?


「――姫野先輩」

「な、何かな?」

「今回は、帽子確定で!」


 くっ……誰か、誰か、味方になってくれる人は……。

 あ、当然だけど、そんな人はいませんでしたー。

 ……委員長、学校側に『服装自由』を通すのが余りにも早過ぎると思うんだ。

 ほんとにそろそろぐれるからね? 本気だからね!? しかも、子供料金で観ちゃうからねっ!!

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