第3章

プロローグ

 嵐のような三連休が終わり、また学校が始まった。

 振り返ってみるとそう、嵐……いや、これほんとっ。嵐も嵐。大嵐だった。

 委員長と、双神さん、そして、月風の件はまぁあんなもんだと思うし、仕方ないと納得もしたけれど……最後の月は……。

 流石に七機剣の一振りである『月風』をいきなり抜かれた時は


『はっ……し、しまった。六文銭の用意がない! あれ? でも今はもう紙幣でもいいのかな? いいよね? きっと、そうだよねっ』


と錯乱してしまったぜ。危ない、危ない。 

 最後は飛翔五体立地+着せ替え人形引き換え券5枚+ボクからの電話券5枚で許してもらえたけど。

 それを渡した時の、月の目がそれはそれは怖かった。ああいうのを喜悦っていうのかなぁ……拇印まで押させられたし。

 ボクがそうやって命を賭して、必死に月をなだめているのに、雪姉と華は、くすくす、と楽しそうに笑って全然助けてくれないしさー。しかも、自分達にまで、券を要求するしさー。何なのさーもうっ。

 ……あのね? 庭を見て、庭を。

 後で直せるからって、あの短期間でほぼ半壊だよ? 

 普通だったら何十回は死んでるんだからね? 

 まったくもうっ……そりゃ、ボクの行動のせいかもしれないけどさ、あれは不可抗力だったのっ! 分かってるくせに。

 滝さんを初めてとするメイドさん達に視線で助けを求めても、みんなして何故か、ほろり、と涙ぐんでるし……と言うか、感動してた。な、何でさ!? 

 普通はか弱い男の子が、屈強な女の子に虐められていたら少しは同情してくれてもいいのにさ。滝さんは味方だと信じてたのに……。

 一応、『十乃間』はボクの実家な筈なんだけどなぁ。

 

 ――ということが最後の最後であったので、今日のボクはもう、何もする気ないのです。OK?


「OK? じゃないわよっ! ほとんど、何も話してないじゃない! ね、寝るな、このバカ! あ、あんたが私を前衛に、って言ったんでしょ! あの後、色々と大変だったんだからねっ! 男なら責任をもってちゃんと私の面倒を――あ、あれ? あんたって……男よね? ちょっと、やっぱり違うんじゃないの?? だって、この三連休中、一度も男物を着てなかったような……全部、可愛かったし」

「ごふっ……うぅ……ほぼ、死体のボクを更に死体蹴りしてくるとは、流石、『月風』、流石、暴風娘……委員長、後は、後は、任せた、よ……」

「任された。では、いくぞ、月風」

「あ、ま、待って」

「問答無用!」


 そう言って、委員長が月風との距離を詰めていく。

 近接戦闘の訓練なら、ボクより本職に任せた方が良いに決まってる。あれで、面倒見がいいし、訓練相手も少なくなってたから、一石二鳥じゃないかなぁ。

 現在時刻は、午後3時半。場所は学園屋上。いるのは、ボクと委員長。そして、月風と――あむ。


「先輩、美味しいですか?」

「……美味しい」

「良かった♪ お祖母様、御手製水羊羹なんです。あ、お茶もあります」

「ありがと」

「いえ♪」


 やけに甲斐甲斐しくボクの世話をする双神さん。

 流石に膝枕は辞退して自前で持ち込んだクッションが枕。だって、委員長の目が笑ってなかったし。だけど、ボクは裏切られたのを忘れてない。忘れてないからねっ! この恨み、必ず、必ず、晴らしてみせる……! 

 具体的には、今度の分家会合の時に、普段は委員長が恥ずかしがって着ない、可愛い系の洋服を着てもらうのだ……!

 くくく……姫野優希を敵に回した事を後悔――ボクの頬をかすめて、超高速で魔力で作られた炎の短刀が通過。


「……すまない。少し、手が滑ったようだ」

「う、嘘だ! 今、完全に狙ってたよね!? 当たったら、死ぬよ? 死んじゃうよ?」

「ハハハ、面白い冗談だ。私程度の魔法が、お前に通るならもう何百万回も殺してしまっているじゃないか」

「怖っ! それだけ、試みた事があるの!?」

「当然だろう……貴様の、鈍感さ……死してなお足りん……」

「当然ね」

「え、えーっと……」


 三人の視線が突き刺さる。

 ……え? 共通認識なの?

 失敬な。ボク程、繊細かつ敏感な人間はそんなにいないと思うよ?

 まったく、分かってないなぁ。

 その時、屋上の入り口が開き、見知った男が入ってきた。

 ほぉ……飛んで火にいる夏の虫……わざわざやってこようとは、なぁ?

 飛び上がって起き上がり、睨みつける。


「おっす、姫」

「……来たな、裏切り者め」

「な、何だよ、いきなり」

「黙れ。お前が三連休を彼女さんと、きゃはは、うふふ、と満喫している間、ボクがどんな目に合ったか分かるか? 最後なんか、三途の川の渡し守と何度も押し問答したんだぞ?『今更、六文銭なんか持ってない! 紙幣……いや、電子貨幣で払わせろ!』って」

「そ、そいつは……でも、何時の事じゃないか?」

「ほぉ――拓海よ」

「うん?」

「そんな事を言っていいのかなぁ? これを見よ!」

「何――ななな、なぁ!? ひ、姫、ど、どうして、何で、こんな写真を!?」

「信頼出来る同志諸君に頼んだ。皆、それはそれはもう、楽しみにしているそうだ。審問会をなぁ。それにしても……随分とまぁ、仲良しなことだ。膝枕に、あーん、か。これがクラスで出回れば、即全情報公開の刑だろうなぁ」

「き、汚いぞっ、姫! それでも姫なのかよ!?」

「ふはは! ボクだけ大変なのは許されないっ! お前も大変であるべきだっ! あと、姫、姫言うなっ!!」

「えっと、でも」


 恐怖に怯える拓海と勝ち誇るボクを眺めていた、双神さんが立ち上がり写真を覗き込み、委員長達も近付いてきて確認。


「これ位なら、先輩もやられてましたよね? 今も、あーん、はしましたし」

「!?」

「確かにな。姫野にとっては日常茶飯事だ」

「!!?」

「……私も今度するから」

「あ、それはいいわ」

「何でよっ!?」

「くくく……」


 はっ! し、しまった。

 拓海の目には戦意――否。一人では地獄へ落ちない、という強い決意の色。

 ……分かった。ここは休戦しようじゃないか。お互い、まだ生きてはいたいだろう?


「で、どうしたのさ? 今日も、彼女さんとデートじゃ?」

「毎日じゃねぇよ。それより、姫、厄介事だ」

「厄介事?」

「ああ。この前の試験で叩きのめしたエリートさん達が、学校へ訴えたらしい」

「何をさ? まさか、再戦を! とか言わない――え、本気で?」


 そこで大きく頷かれてもなぁ。

 さて、どうしようか? 

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