エピローグ

「あーんーえーそのー……」

「優、きちんと答えなきゃ駄目よ?」

「兄様、頑張ってください!」


 ボクの目の前では、雪姉と華が楽しそうに笑っている。

 周囲で待機しているメイドさん達も笑顔。何処となく楽しそうだ。

 ああ、何かこの感じ久しぶりだなぁ……。

 あの後、諸々あって『月風』家から、直接『十乃間』本邸へ。委員長が連絡していたらしい。裏切り者ー!

 ……そう、諸々あったのだ。でも、あれはボクのせいじゃない。何かなし崩しにああなっただけであって、最初からやってやる、やってやるぞ! なんて、毛頭思ってなかったわけで。

だから、あれは――事故! そう事故だったんだよっ!

 雪姉が、大袈裟に両手をあげて、首を振る。それを見ていた華まで同じ仕草。周囲のメイドさん達まで、くすくす、と笑っている。うぐぐ……。


「優、分かっているとは思うけれど……揉み消すのもそれなりに大変なのよ? はぁ、お姉ちゃんの苦労を分かってくれないなんて……泣いちゃうから。えーんえーん」

「兄様。姉様を泣かせちゃ駄目です。私もきっと色んな人に言われるんです。『貴女のお兄様は乱暴者なのね』って……泣いちゃいます。えーんえーん」

「は、華。ち、違うからね? ボクは別に乱暴なんてしてないからね? ただ」

「「ただ?」」

「……相手の魔法を全部受け流しただけで」

「「有罪♪」」

「そ、そんなぁ……」


 あの後、月風勲氏に挑まれたボクは、嫌々ながらも逃げる事は出来ず、結果――こちらから攻撃はしなかったものの、全て受け流してお茶を濁そうとしたのだ。

 

 ……委員長曰く、それは『最悪手』だったそうで……。


 疲労困憊して、奥へと下がっていった勲氏から、「……娘を……前衛にすることを……認める……」という言質を得る事には成功したものの、妙さんからは「また何時でも遊びに来てちょうだい」と言われ、委員長からは「まぁ当然だが……しかし、これを秘匿するのは……」と睨まれ、双神さんは無言で笑顔を浮かべた後、耳元で「……先輩、カッコよかったです」。

 そして、当の本人は目の前で起きた事が信じられなかったらしく、呆然としていたので、双神さんに託してきた。まぁ明日には復活しているだろう。


「…………雪姉様」

「なーに?」

「……この度は、大変申し訳なく……」

「ふ~ん。だって、華」

「兄様、反省されていますか?」

「……華子様にも、御迷惑をおかけします……」

「むー他人行儀です! そんな、兄様には罰が必要だと思います! そうですよね、雪姉様?」

「あらあら。優?」

「……煮るのも焼かれるのも嫌ですけど、御随意に」

「そうねぇ……それじゃ、まずは今度の分家会合、私の代理で出席してちょうだい」

「なっ!? 雪姉、そ、それは流石にちょっと……」

「あらあら~?」

「うぐっ……わ、分かりました……せ、精一杯務めさせていただきます……」

「ああ、それと、その時は勿論、着物でね♪」

「…………撮影はご遠慮」

「私だけにしてあげる」

「あー雪姉様、ズルイです! 私も! 私も撮りたいですっ!!」

「うふふ。華は別で何かお願いすればいいじゃない」

「あ、そうですね! 兄様」

「……華、少し加減をしてくれるととっても嬉」

「デートがしたいです」

「あ、優、私もそれ追加で」

「いやいやいや。仮にも『十乃間』の直系二人とデートだなんて……そ、それに、ほら、メイドさん達が大変だから! ね、そうですよね、滝さん!」


 微笑ましそうにこちらを眺めているメイド長に話題を振る。

 すると――ま、満面の笑みだ、と!?

 ど、どれだけ警備やら何やらが大変だと思って……。


「兄様、問題はないみたいですよ? ……ダメですか?」

「華――ああ、もう! 仕方ないなぁ」

「やった! ありがとうございます。兄様、大好きです」

「ボクも華が大好きだよ」

「兄様……」

「華……」

「はーい。終了。……優、私にはないのかしら?」

「雪姉は流石に駄目です。偉いんですから」

「やだーやだー! 私も優とデートしたい~!」

「駄々をこねても――!? ゆ、雪姉。そ、その写真を何処から!!?」

「うふふ……私って、少し偉いからね~。どうしよっかなぁ。飲み込んじゃおうかなぁ。きっと、月がこの件知ったら……盛大に拗ねるだろうなぁ。まさかぁ、優が後輩の女の子と、あんな事になってるなんて~」

「ぐぐぐ……お姉様。ちょっと、やり方が可愛くないのでは?」

「え~だって~。何処かの弟が、姉を冷たく扱うから~。私はこんなに愛しているのに~酷いなぁ~って」

「いや、それとこれとは話が別でしょうに。あ、ボクは当然だけれど雪姉のことも大好きだよ」

「ゆ、優……そ、そうやって突然、真面目になるのは止めなさい。……私も大好きだけど、ね」

「華とはデートね。分家の会合には出ます。雪姉とのデートは……滝さん?」


 もう一度、尋ねる。

 ……どうして、そう簡単にOKを出すんですか。笑顔が眩しすぎます。

 はぁ。


「……分かりました。華、雪姉と一緒でもいいかな?」

「うー分かりました。今回は、それでいいです!」

「ありがとね。雪姉そういう事で一つ。揉み消しの件もよろしく」

「仕方ないわね。そうしましょう」


 後でメイドさん達に謝っておかないとなぁ……警備とか予定とか凄く大変そだろうし……。

 まぁ二人と出かけるのは本当に久しぶりだし、楽しみではある。

 さて、と。そろそろ帰――な、何だ、この殺気は!?

 き、今日、月は戻らない、と確認済み――ま、まさか!?



「ああ、言い忘れてたけど、月はそろそろ戻ってくるわよ? 戻らない、って言うのはうーそ」

「月姉様、兄様に中々会えなくて凄く拗ねてますから! いっぱいいっぱい話してあげてくださいね? それと、デートの件は内緒です!」



 ……デートの日まで、生きていられるかなぁ。生きていられるといいなぁ。

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