第12話 姫は案外と考え無し
「……どういう意味かね?」
「どういう意味もなにもないです。そのままですけど」
「……我が『月風』家は、古より後衛なのを知った上での発言かね?」
「そうなんですか? でも、もう一度言います。この子は後衛にまるで向いていません。まぁそれでもこのまま磨き続ければ、将来的には世界300位前後にはなるでしょうけど。『二宮八家』の跡継ぎとして、それで十分だとお考えならこのままでも」
「300位だと!? 馬鹿な……この子の才は、歴代でも屈指! それこそ、魔王降臨時代以来とすら言われているのだぞ!? 少なくとも、二桁前半は楽に到達出来る筈だ!!」
勲氏が声を荒げる。
あーうー……怒鳴り声って好きになれないんだよなぁ……と言うか、嫌い。
委員長、抜刀準備とかいいからね? 大丈夫だよ。
双神さんは、何をそんなに楽しそうな顔をしているのかな? 面白い事なんか何もないよ。
月風は、不安そうな顔しなくてよし。
目の前に置かれている、カップから紅茶を一口飲む。うん、美味しい。
静かに置いて、意図的に穏やかな感じで話しかける。
「それは幼い時でしょう? 確かにこれだけの魔力量ならそう見えても仕方ありません。でもですねぇ……この子、致命的に大火力魔法を構築するセンスがないんです。勿論、『二宮八家』のそれとして見た場合です。一般的な魔士としてならば、十分過ぎる程です」
「……言ってくれるではないか。では、どうしろと?」
「前衛にしてください。今すぐに」
「不可能だ。この子は『月風』を継ぐ者。その者が前衛になるなど……とてもでなはないが、親族や分家を抑えきれん」
「なら――没落です。はい、難しい話はここまでに」
「……没落だと?」
えー。この話題、まだ続けるんですか……。
振っておいてなんだけど、別に没落といっても、いきなり家そのものが消滅するとか、そういう話じゃないのに。
精々、『十家』から完全に脱落して、その後釜に――何処だろ?
『森塚』『八ツ森』それと、『
バランス的には『鴇雨』がいいな。あんまり、『十乃間』の力が伸びているように見られるのは色々と面倒だと思うし……まぁ、そこらへんは雪姉達が考えているんだろう。きっと、多分、おそらくは。
『優希は何処にすべきだと思う~?』
……何も聞こえない。聞こえないったら、聞こえない。
これで、『双神』の事がバレたら更に面倒になるのは目に見えてる。多分、あの雪姉のことだ。僕と双神さんとの婚約云々は潰しつつ、こちらの傘下に置こうとするだろう。
いやでも、それを狙ってるのかもしれない。何しろ、いと様が関わっていることだ。『八ツ森』の隆盛を実感されていたし、そっちが本命なのかも?
――机を叩く激い音が響いた。
思わず、びくっ、としてしまう。
うぅ、大きな音ってやっぱり、好きになれないよぉ。
「……姫野君。どういう事かね? 場合によっては」
「えーっと、そのままの意味ですけど」
「我が『月風』が没落するなど、あり得ぬっ!!」
「――失礼ですが、口を挟んでよろしいでしょうか」
委員長、ここで出て来るの?
もう、場が荒れる未来しか見えないんだけど……。
あ、このクッキー、美味しい。
「君は、森塚君だったか」
「はい。姫野は、勉学はまるで駄目ですが……人の才を見る目はあります。今までも、何人かがその言に従い自分の専門を変えましたが、全員大成しています」
「……本当かね?」
「本当です。御疑いなら、後で名前をお教えしましょうか? 急激に成績が良くなっているのが分かるかと思います」
「……『炎剣』森塚家の長女たる、君がそう言うならそれは事実なのだろう。だが……やはり信じられん!」
「なら、信じてもらわなくても」
「――お姫様、この子が前衛になった場合はどうなるのかしら?」
「妙!」
「仮定の話ですよ、仮定の。で、どうなると思っているのかしら?」
妙さんが楽しそうに聞いてくる。
月風も、ボクをさっきから、ちらちらと見てまぁ……。
でもなぁ。ここで、思っている事を全部言うのは後々、問題になるような……。
一口、紅茶を飲み、クッキーを齧る。
――ま、いっか。こうして、お茶も御馳走になったし。うん、お茶分のお礼はしないとね。
「幾つか前提条件がありますけど……それらは割愛します。まぁ、今まで以上に努力を重ねる事は必須、とお考えください」
「ええ」
「――端的に言えば、世界20位前後かと。そこから先は、分かりません」
「20位!」
「!?」
妙さんと月風が目を見開いている。
双神さんも、口に手をやり、呆然。
委員長は……何で、そんなに苦々しい顔なのさ?
そんなに驚くような事じゃないと思うんだけどなぁ。この子の魔力量があって、それを前衛用の基礎身体強化のみに回せば、それだけでゴリ押し出来るだろうし。
「お姫様。20位って、国内じゃないのよね?」
「世界です。まぁ、国内だけなら――んー、このまま突然変異でも出てこない限り、十指には」
「どうして、断言出来るのかしら?」
「うちの学園にいる先輩と同年代を見ているからです」
「そう、ありがとう――旦那様?」
「…………信じられん。だから、私を信じさせてほしい」
そう言うと勲氏がゆっくりと立ち上がった。
あ、この流れはマズイ。
「……君がうちの娘に完勝した話は聞いている。私にもその実力を見せてくれ。それを見て、君の提案を検討しよう」
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