第7話 双神の子は双神さんなのです

 まさかの双神さん真犯人疑惑に戸惑っていると、外から声がした。


「お祖母様、入ってもよろしいでしょうか?」

「お入りなさい」

「失礼します」


 そう言って、障子を開け和室へ入って来たのは、着物姿の美少女――双神さんだ。わざわざ着替えたらしい。

 ボクを見ると顔をほころばせ、近寄って来たかと思うと、隣に座った。

 ……えっと、いと様の隣に座った方がいいと思うんだけどな。


「お祖母様、お話はもう終わられましたか?」

「ええ、終わりました。優――こほん。姫野さん、久しぶりの会話、有意義でした。これからも私の孫をよろしくお願いしますね。また、遊びにいらっしゃい」

「あ、はい。水羊羹、美味しかったです。ありがとうございました」

「では、お祖母様。姫野先輩、行きましょう。舞花ちゃんと森塚先輩が、さっきからそわそわしてますから」

「えーっと……何処へかな? 今日のイベントはもうこれでお仕舞じゃ」

「勿論まだですよ。これから、私の両親とお茶席です。勿論、堅苦しい場ではないですから、気楽にしてください。ただ……その恰好だと」


 聞こえた瞬間、逃走を図る。

 ここから先の展開は読める。どう考えても、精神衛生上よろしくない事に決まってるっ!

 双神さんの恰好を見れば、そういう事だろう。しかも、きっと……と言うか、絶対に男物じゃないっ! 委員長が、幾ら一緒に来るからって、今日の訪問を最後まで反対しなかった理由はこれかっ……寸法データを裏で渡しているに違いない。どうして、そこまでして、ボクにそういう恰好をさせたがるのかっ!!

 障子を開け、廊下へ脱出――した瞬間、肩を掴まれた。しかも、両肩。

 後ろを恐る恐る振り向くと、満面の笑みを浮かべている着物姿の委員長と、不機嫌そうだけど頬は上気している月風。 

 おお……神様……。ちょっと、流石にそれは酷いと思うのです……。

 さっきまで二人共いなかったじゃないですか……偽装魔法に気合を入れすぎです……これ、どう考えても双神家の技術(下手すると軍事用)まで使われてますよね……。


「姫野、そんなに駆けて何処へ行こうというのだ? 他人様のお屋敷で走るなど、礼儀がなっていないぞ?」

「そうね。ほら、さっさと行くわよ――色々試さないといけないんだから。綾のお母様とお父様をお待たせしてるんだからね」

「……あのね、一応、聞くけど」

「何だ?」

「何よ?」

「……男物だよね?」

「はぁ……姫野、この期に及んで何を言うんだ、お前は」

「どうして、そこで男物っていう発想が出て来るのよ? 用意してもらってる筈がないじゃない」

「何故にっ!? ボクは男だよっ!!?」


 何かがオカシイ。どうして、毎度毎回こうなるのか……そ、そうだ。成長期だし、きっと身長も伸びてる筈。

 なら、寸法が合わずに――


「ああ、身長、体重共にまったく変化はないな。……姫野、もう少し食べないと駄目だぞ。痩せすぎだ」

「見た目からしてそうだけど、そんなになの?」

「ああ、機密資料だが……今日は特別だぞ、見るか?」

「ええ」

「森塚先輩、私にも見せてください。姫野先輩、隙を見て逃げるのは駄目ですよ? でないと――」


 ボクの前方に回り込んで来た、双神さんが耳元で囁いた。


「(二人に、私と先輩が婚約者になるお話をしちゃいますから♪)」


 ……待とう。うん、ちょっと、待とう。落ち着こうか。

 その話って、君の中ではもう本決まりなのっ!? 

 いや、だって、その、あの……言っては何だけど、ボクだよ?

 背は女の子より低いし、声変わりだってしてないし、女子の服を着たら、女の子にしか見えない、と巷で噂で、『姫様』とか言われる(『姫』って言うなっ! ……はっ、咄嗟に反応してしまった)ボクだよ??

 委員長や、実家では散々、着せ替え人形と化している……うぅ、考えてたら泣けてきた。もう、拗ねたい……。

 落ち込みながら、尋ねる。


「(……本気なのかな?)」

「(はい♪ 先輩がいいんです♪ 先輩じゃないと嫌なんです♪)」


 この目は嘘をついてないなぁ。

 ま、まぁ、きっと今だけ。そう、今だけの話だよね。

 双神さんの御両親だって、ボクを見れば……いけない、今の思考は、自分で墓穴を掘って、墓穴の中に落ちる思考だ。

 ボクは男。ボクは男、ボクは――右手を委員長に握られ、左手を月風に。そして、両肩を双神さんが握る。


「ほ、ほら、行くぞ、姫野」

「そ、そうよ。い、言っとくけど、誰にでもこうする訳じゃないんだから!」

「姫野先輩、今日の日の為に、色々とお着物を用意しました。撮影会の準備も万端です! 舞花ちゃんと、森塚先輩も一緒に写りたいですよね?」

「双神さん――君は私の同志のようだ」

「……綾、貴女、もしかして」

「うふふ、舞花ちゃんがもたもたしてたら、ね。だけど、今はそれよりも」


 不穏な会話が……いけない。これが、雪姉とか華とかにバレたらきっと同じ事を要求される。

 月? あの子は……拘束時間が凄そうだなぁ……。

 で、でもこの事は委員長も、分かって――何さ、その視線は。


「(勿論、雪子様には御報告済みです。……何か良からぬ話がありましたね? 隠しても無駄です。後でじっっくりお話はうかがいますっ!)」


 ……四面楚歌とはこの事か。

 い、いや、きっといと様、いと様ならボクの窮地を!


「綾」

「はい、お祖母様」

「私も一緒に選んでよいかしら?」



 前言撤回。この場にボクの味方はいないみたいです。

 ――この後、ボクが何着を着たかは、結局、夕食まで招待された事から接してほしい。着いたのって、午後一くらいだったんだけどなぁ……。 

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