第6話 爆弾処理には慣れて……いません……

「ハハハ、いと様、御冗談がお上手ですね」

「優希様、私がこのような話を冗談で口にするとお思いで?」

「えーっと……どうして、ボクなんですか? 双神家程の家格ならば、それこそ他の家から選びたい放題かと思いますが。まぁ、二宮は難しいかもしれませんし、十乃間は姉達しかいませんけど」

「……ここから先の話は他言無用に」

「はい」

「うちの孫娘に対して、『神乃瀬』から非公式ながら婚約の申し出がきております」

「ほぉ」


 つまり……あの家も懲りないなぁ。上にいったところで、厄介事を抱えるだけなのに。単独では抗することすら出来ない、という判断が出来ているのは評価出来るかもだけど。 

 『十乃間』『藤宮』『桜宮』の現状を探るのは、かなり難しい。各国の諜報機関からは『濃い霧に包まれている』と言われている位だし。各家から意図的に漏洩されている情報をかき集めたんだろう、多分。

 『神乃瀬』はそこまで、情報収集に強い家じゃないから、『鹿灯』も噛んでいるのかな? あの家の、そういうブレない所はちょっと尊敬する。だけど、取りあえず後で雪姉には伝えておこっと。

 まぁ……『神乃瀬』からすると、『七機剣』を三家が独占。それに次ぐ『雪』『月』『二十四節季』も、半数以上が三家か、その傘下にある各家が保有している、という状況は悪夢。

 ただでさえ、実力差・経済格差がある中、機剣の性能差まで圧倒されたら……ボクなら白旗を振る。

 それにしても、本気で追随しようとしているのは『天原』だけかと思っていたけれど、『双神』と手を組んでまで……雪姉、月、やっぱり、少し虐め過ぎたんじゃないかな? 華、君はああいう女の子になっちゃダメだから――お、悪寒が。


「当然の事ながら、私は反対です」

「そうでしょうね。失礼ですが、両家の力関係を考えれば……」

「はい。孫娘を梃子にこちらを飲み込む腹でございましょう。逆を言えば、それだけあの家はなりふり構わず、御家への復仇を果たさんとしている」

「……確かに、ここだけの話ですね。うちの姉と妹達にはとても話せません」

「『八ツ森』『森塚』を中心とする分家筋にも。ですから、森塚の娘には外れてもらったのです。優希様が、大変慕われている事は存じ上げておりましたので。御理解いただけましたでしょうか?」

「いと様」

「はい」

「今時、家の問題を大事にするのは賛同出来ません。それに『双神』の娘と『十乃間』に多少なりとも関わっていたボクとが、億が一、婚約になれば」

「世間は、こう思うでしょう。『『双神』は『十乃間』の傘下に入った』と」

「同時に、十家としての御家は終焉します。『八ツ森』がどうなったかは」

「勿論、知っております。が……同時にあの家は、かつてよりも隆盛しつつある。いえ、実質上は最盛期かもしれません。その理由は――『十乃間』という強大な家の庇護に入り、しかもそれを優希様からお墨付きが与えられている、という点が大きいのでしょう」

「……買い被りです」


 確かにあの家は、凄まじい早さで勢力を取り戻しつつある。

 馬鹿な事を仕出かした一門衆が、例の一件でほぼ一掃され、残ったのは『十乃間』へ忠誠を誓った人達と、ボクと同年代の子達だけ。

 今や『十乃間の狗』と揶揄される位に、忠義一筋の家に変貌を遂げている。 

 いざ、実戦ともなれば、指揮命令は雪姉・月・華が執るから、彼等は純粋武力だけを戦場で行使する存在となっている。

 雪姉は、基本的に褒章をケチるような人じゃないから、かつて喪った声望を確実に取り返しつつあるのだ。

 まぁ問題はその忠誠の先に、何故かボクが含まれていること。

 ボクが十乃間を離れる事になった後も、それはもう大変だったのだ。

 一度、彼等の至宝にして『七機剣』の一振り『星風』を『十乃間』に献上する代わりにボクの復帰を、と言い出した時は本気で焦った。雪姉は雪姉でノリノリだったし……。


「我が家は、一見繁栄しているように見えますが……既に『八ツ森』と精々同等。彼の家が今後も伸びていくことが確実な今、我等は『月風』『御倉』と同じく、十家の末席となりましょう。そうなれば……」

「『神乃瀬』からの干渉を跳ね除ける力もなくなる、と?」

「はい。よもや『天原』がそういう事をするとは思えませぬが……分かりませぬ。三家の強大さは、矜持を保っている他の家をもってしても、恐怖を抱かずにはいられぬのです」

「……だからといって、双神さんとボクとの婚約は流石に。そもそも雪姉が納得するとは思えません。それと、ボクはあくまでも姫野ですし」

「優希様。私は『十乃間優希』様と我が孫娘、『双神綾』との婚約を望んでいるわけではありません」

「……いと様」

「私はお可愛い『姫野優希』様を、我が双神家に迎え入れたいのでございます。『十乃間』? はて? 私には何の事やら。偶々、孫娘が連れて来た可愛らしい殿方を気に入り、我が孫の婚約者に、と望んだだけのこと」

「…………殿方と言ってもらえて嬉しいです。しかし、幾ら何でも無理があります。そもそも、今日、ボクを呼んだのはいと様ではないですか」

「ふふふ、優希様」

「何ですか?」

「綾は、あれで『双神』家の長女なのですよ?」

「それが――はっ! え、で、でも何で!?」

「優希様が来られる、という話をされたのは昨晩の事でございます。今日、これを画策したのは――綾です」



 真犯人は別にいたっ!!

 ……このまま、逃げてもいいかなぁ? ダメ? あい、分かりました。

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