第3話 大外からのごぼう抜きはよくあること

「う~ん、やっと解放されたぁ。お疲れ様、委員長。さてと」

「待て姫野。何処へ行こうとしている?」

「え? 帰るんだけど? 今日は、近くのスーパーで特売日があるんだ」

「貴様……いけしゃあしゃと忘れたふりを……いい度胸だな。そうか、そんなに私の着物コレクションが着たいのか……まぁそれはそれで悪くない。早速、スダジオを抑えて」

「待って。覚えてるから。打ち上げでしょう? う~ん……ボクが行く必要性」

「あるな。来ない、などとなったら……」

「OK。取りあえず、そのカメラをそっとしまおうか」

「……ねぇ」

「分かればいい。もう、皆集まっている筈だ。私達が合流するまでは、矢野に対する弾劾裁判を行うと言っていたからな」

「あ、まだやってるんだそれ。いやまぁ、いいけどね。拓海にあんないい子がいるなんて、世の中の法則が乱れるし」

「……ちょっと」

「姫野……鏡を確認したか? その言葉、そっくりそのまま返ってくるぞ? そもそも、世の法則を乱してまくっているのは誰だと」

「失礼なっ! ボクは極々普通の男じゃないかっ!」

「嘘を言うな、嘘を。大体、お前は」

「ねぇっ!!」


 委員長との掛け合いを中断。

 振り返ると、顔を上気させ怒りの表情をした少女と、その後ろに心配半分、困惑半分の後輩。

 あー……来るとは思っていたけれど、ちょっと目立つなぁ。


「何さ?」

「……あんたが呼び出されたって聞いたんだけど」

「あーちょっと違うね」

「違う?」

「姫野先輩、それはどういう意味ですか?」

「あ、双神さん、この前はありがとう。お陰様で総合一位になれたよ」

「い、いえ。私は何もしていませんし……姫野先輩、きちんとお話してください。そうしないと」

「しないと?」

「お、怒っちゃいますから、ぷんぷんって」


 お、おおぅ……。

 な、何とまぁ……どうしたものか。この後輩、ちょっと可愛い……ふらふら、と近づき頭を撫でようと――委員長、左腕が痛いです。痕がついたら、お婿に行けなくなるので止めてほしい。


「……婿? 嫁だろう?」

「……嫁よね?」

「え、えーっと……先輩は凄く可愛らしいですよ?」


 ひ、酷い! 三人がかりで虐めてくるなんて……もう、明日から引き籠りになろうかな。具体的には三日間位。


「そうだな。明日から三連休だしな。しかも――三日全部、引き籠れないのは自分がよく分かっていると思うが? 明日は何だ?」

「……委員長の家に朝から行きます、ハイ」

「なっ!?」

「では、明後日は?」

「何もないけど……」

「そうか、ならば明後日は私の買い物に付き合え」

「なっ、なっ、なぁ!?」

「えー。嫌だよ」

「む、何故だ」

「だって、委員長……ボクを何時も着せ替え人形にするじゃないかっ! しかも……しかも、少女用コーナーに連れて行って!」

「それの何が行けないのだ? 似合うと思うが?」


 ほ、本気で言っている、だと……?

 だ、駄目だ、もう手遅れかもしれないけど……早く逃げないとっ!


「姫野先輩」

「うん? 何?」

「明後日、お暇なんですよね?」

「そうだね。朝から、洗濯して、掃除して、常備菜を作って、それ位かな?」

「……え? 主婦? あんた、主婦なの??」

「失敬な。一般教養です」

「なら――うちに来ませんか?」

「ほぉ」

「綾!?」

「んーと……どうしてかな?」

「うちの両親とお祖母様が是非、お会いしたいと。特に、お祖母様が。腕によりをかけて和菓子を作ってくださるそうです」

「あーそこまでされたら、仕方ないかな。うん、それじゃお邪魔するよ。委員長?」

「………………どうして私に尋ねる。私と姫野は別に何の関わり合いもないし私が判断すべき事ではないし別に私の誘いは嫌がって断ったくせになんて思ってもいないしだいたい優希様は私に冷たいし」

「……ごめん、双神さん、こういう訳だから、委員長も一緒でいいかな?」

「大丈夫ですよ。――あれ? 最後、何か呼び方が違いませんでした?」

「気のせいじゃない?」


 危ない危ない……学内で『優希様』なんて、言い逃れも出来ないよ……。

 委員長は、分家を継ぐ意識が強過ぎるせいか、妙にボクを構いたがるんだよなぁ。

 大丈夫、家事等々、ボクに出来ない事はほとんどないよ。

 精々、映画館とかで大人料金を払おうとすると、微笑ましい顔をされて子供料金にされるくらいさ。

 ……言ってて、泣きそうになった。忘れよう、うん。


「それじゃ、明後日、お迎えに伺いますね。先輩、連絡先を交換しても?」

「!」

「勿論。住所も必要だろうから全部一式で送るね」

「!?」

「はい♪ 森塚先輩もお願い出来ますか?」

「……分かった。当日は、私も姫野の家に行っていよう」

「ありがとうございます。助かります」


 これで、三連休の内、二日間は埋まってしまった。

 もう一日はゆっくり――月風さんや、どうして、ボクの袖を握ってるのかな?


「……私も」

「うん?」

「……私も、日曜日行くから。あと、明々後日はうちに来て。それと連絡先教えて」

「あーあんまりボクが行く意味が」

「……駄目?」


 その顔は反則だと思う。

 もう、仕方ないなぁ……溜め息をつきながら、妹達(結構な頻度で、雪姉にも)するように頭を優しく撫でる。



「分かったよ……三人とも、美味しいお菓子を用意しておいてよねっ! さ、打ち上げに行こー。詳細はそこで話すよ。せっせと拓海も虐めなきゃ……ストレス発散する為にっ」 

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