第2話 うちの義妹達、ほんのちょっとだけ怖いんです

 その日、授業を終え、さぁ帰ろうとしていたら、突然学長室へ呼び出された。

 渋々出かけて行くと(何故か、委員長もついてきた)


「姫野君、こういう事をされては困るのだ」

「君の入学はただでさえ特例中の特例」

「『揉め事は引き起こさない』という約束を忘れてもらっては困る」

「『桜宮』『天原』『神乃瀬』『御倉』から抗議がきている。『正当な勝負を望む』とな」

「なっ!? ……どういう事でしょうか? うちのクラスが不正をしたとでも言われるのですか? 私達はルールに乗っ取り、合同試験を戦っただけです。あれで、駄目なら、どうしろと? ああ、つまり――『正当な勝負』とは、あちらにとって一方的な勝利を意味するのですね。上等です。その性根、叩き直して御覧にいれましょう」

「委員長、言い過ぎ。えーっと……それで、どうすればよろしいんですか? 具体的にご教授願います」


 目の前に座る、先生方(偉い人達だ)に尋ねる。

 いやまぁ、確かにちょっとだけやり過ぎたかも、と思わなくもない。姉さんと華はそれはそれはもう嬉しそうだったけれど。

 だけど、あれだけ油断してたら……ねぇ。

 わざわざ凄さを満天下に示せるようにと思って、最後まで残してあげたのに……まともな戦闘にすらならず。

 確かに、こちらはクラス全員+双神さんとオマケがいて、向こうは四人だったけど、『二宮八家』って数的劣勢とか、基本的に無視しないといけないと思うんだけどなぁ……。

 まぁでも、今後はこう是正せよ、と言われるならそうする。

 是非とも『徹底的に手を抜け。出来れば、赤点スレスレで寝ていろ』と言ってほしい。そうすれば、委員長から追いかけられることもなく平穏な日々――委員長、どうして、そんな視線を向けてくるのさ? はははー。ボクがそんな不真面目な事を考える筈ないじゃない?


「そ、それは……」

「うむ……」

「我等の口からは言えぬ……」

「そこは、うまく何とかしてほしい」

「つまり、忖度せよ、と?」

「い、いや、そういう訳ではない。我等とて、学生の成長を喜んでいる」

「だ、だが、それとて程度問題なのだ。まして、『二宮八家』、しかも直系の生徒が、一方的に敗れる、というのは……」

「失礼ですが……ふざけておいでですか……?」


 あ~委員長。

 ボクの為に怒ってくれるのは嬉しい。嬉しいけど……先生方の立場も考えてあげよう。

 ほら、名家って外聞を気にするからさ。あんまし、気にしないのって、姉さんや、『藤宮』『八ッ森』くらいだよ?

 ――ん? 着信が。しかも、これって多分。


「すいません。ちょっと電話に出てもいいですか? ――その、元実家からです」

「「「「!」」」」


 動揺。いや、そこまで驚かなくても。

 家は出たし、苗字も変わったけど、あそこには姉さんや、妹達もいるし、付き合いくらいはありますよ。

 と言うより、連絡しないと怒られたり、泣かれたり、キレられたりするのです。大変なんですから、色々と……。


「もしもし」

『……出るのが遅い。ワンコール前に出ろって何時も言ってるでしょ』

「いやいや、それは無理だから。ボクは関知能力ダメダメだし」

『また、そうやってからかってっ! 喧嘩なら――まぁ、いいわ。今、呼び出し中よね? ちょっと、投影して』

「へっ?」

『いいから早く』


 はいはい。しますよーだ。

 まったく、何時からこんな暴君に……昔は『お姉ちゃん、お姉ちゃん』と言いながら着いて来てくれるそれはそれは可愛い子だったんだけど。

 ……うん? 『お姉ちゃん』? あと、何でボクが呼び出しを受けたことを知ってたんだろ?

 首を傾げるボクを他所に、目の前の端末からは妹(と言っても血の繋がりはこれっぽっちもないのだけれども)にして現世界№3。十乃間月子が投影される。


『要件だけ言うわ――うちの愚兄がちょっと介入して、結果、実技試験で相手を全滅させたら、激烈な抗議がきたっていう奇妙な話を聞いたのだけれど。事実かしら?』

「そ、それは……」

「い、いや、それ程のものでは……」

「あくまでも要請、そう要請を受けまして」

「そ、そうです」


『へぇ……で、その家は何処なの?』


 んー月子が怒ってるのは毎度のことだけれど……今回はマジなやつだなぁ。

 どうしたんだろ? 普段は、ボク達の前以外だと自制出来てるのに。

 雪姉と華は、あ、今、ちらっと見えた。唇だけ動かして、何々――『お任せ』って……はぁ……。


『とっとと答えなさい。道理が分からないそんな家なんて有毒有害よ。私が潰すから』

「あー月」

『……何?』

「その、ボクを心配してくれてるのは」

『はぁ? 別に心配なんかしてないけど? 自意識過剰なんじゃないの? 私は単に卒業生として義憤に駆られただけよ』

「……さいですか。だけどまぁ、大丈夫だから。切るよー」

『なっ!? ち、ちょっ……』


 通話を切った瞬間、かかってくる。反応はやっ。

 多分、出ないと延々とかかりぱなっしだしなぁ……仕方なく出る。

 投影されたのは、月とよく似た美少女。


『兄様。駄目です、月姉様を虐めちゃ』

「華……月は?」

『雪姉様が。後でフォローしておいてくださいね? すっっごく拗ねられますから。さて、初めまして? でしょうか。十乃間華子と申します。兄が何時もお世話になっております。手短にお伝えいたします。今回の一件、我が『十乃間』としましては、承服出来かねます。試験結果拝見させていただきましたが、兄と御学友の皆様達に瑕疵はないかと存じます。これに難癖をつけるのであれば――そこまで、ということでございましょうか?』


 うわぁ……華まで怒ってるや……。そこまでって……。しかも、試験結果を見たって、あの複雑な暗号を突破したってことだよね?

 ほら、先生方の顔引き攣ってるし。



『これは私個人の意見ではなく、『十乃間』、十乃間雪子の意見とお考えください。では――あ、兄様、今度のお休みお帰りになってくださいね? 待ってますから♪』



 ――うちの義妹達は可愛い。それはもう可愛い。何だかんだ可愛い。

 だけど、うちの義妹達、ほんのちょっとだけ怖いんです。

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