第12話 姫はやれば出来る子
「姫野」
「や、やぁ委員長、本日はお日柄も良く」
「……遺言はそれでいいのか?」
「待って。一応、ボクはほら、味方だからね? 味方に向けて、殺意までこめて刀を向けるのは駄目だとボクは思うんだ。取りあえず、その炎魔法は引っ込めよう、ね、ね?」
「ほぉ……」
「うん、ダメだよ。拓海、拓海もそう思うだろ?」
「いやー俺は分からないなー。何しろ、折角、買ったこいつを奪おうとする姫だしなー。ああ、森塚。ほらよ」
「あ、ちょっと、待つ」
拓海が持っていたビデオカメラを委員長へ手渡す。
無言でそれを受け取り、即座に動画を確認。周囲にいたクラスメート達も覗き込んでいる。こら、そこの後輩二人。君達までそっち側に混ざるんじゃないっ。
どうやら、ボクの味方はいないらしい。と言うか、君達、今は一応試験中だからね? しかも、この試験結果って、将来にも影響を与える事分かってるのかな?
ボクの想いをは裏腹に、皆、熱心に動画を鑑賞中。いや、そんなに面白くないだろうに。あれ、でも、これってチャンス?
そうだ……今の内に逃げよう!
ここにいたら、この後、何をされるか分かったもんじゃないっ!
うぅ……過去の悪夢(和服を着たり、メイド服を着たり、その他諸々。人生の汚点)が脳裏を……。あ、あんな思いをするのはもう嫌だっ。
意を決して一歩を踏み出す――その先を恐ろしい速度の斬撃が通り抜けていった。巨木の数本が音を立てて倒れてゆく。
いやいやいや。今の本気の本気だよね!? 当たってたら結構、洒落にならないよ……。
「姫野。誰が動いていいと言った?」
「ボ、ボクにだって動く位の意思はっ」「ないな」
動画から目を動かさずに告げてくる委員長の声は冷徹そのもの。
が、その頬は赤く染まっていき、動画の後半部分を見て硬直。
……これはマズい。
ゆっくりと此方に視線を向けてくる。
「姫野」
「待って。あれは不可抗力過ぎる。怒りをぶつけるなら、ほ、ほら、横にいる後衛にまったくもって向いてない首席様だと思う」
「なっ! あ、あんた、可愛い可愛い後輩を売る気なのっ!? 最低っ。それでも、先輩なのかしら?」
「……そうか。私は姫野が向いてないと断言する後衛に負けた、のか」
委員長の顔は無表情。が、そこには微かな感情。
……真面目過ぎるのも考えものなんだよなぁ……。
どうやら、周囲が考えている以上に案外と気にしていたらしい。
仕方ないなぁ……ボクにも一因があるし。
妹の不機嫌な声が聞こえる。『うちの名前を汚さないで』。
……分かってるよ。ボクは所詮欠陥品だ。でも、同時に男だからね。
小さな溜め息一つ吐き、声をかける。
「委員長」
「……何だ」
「ちょっと今からは本気でやろうと思うんだけど――付き合ってくれる?」
「!」
「あーそこの後輩君達は、もうボクに負けたから失格でいいのかな? 取りあえず月風は失格でもいいだろうけど、双神さんは一緒に来る?」
「え?」
そう言いながら、端末から双神さんへ『同盟』申請を送る。
まぁ、この試験好きじゃないけど、こういうところは柔軟性があって良いと思う。敵の敵は味方だったりする訳だしね。
「拓海、状況説明よろしく」
「あいよ。うちの班編成はこんな感じだ。味方の位置は不明だが……まぁ可もなく不可もなくだろう。相手の中で厄介なのは、特別班位だと思うぜ」
「あーあったね、そんなの。誰だっけ?」
「姫、流石に名前くらいは知っておけよ。『桜宮』と『天原』のお嬢様、それに『神乃瀬』と『御倉』のお坊ちゃん達だ」
「ふ~ん……まぁ、あんまり関係ないね。当主とか、実戦バリバリじゃないんでしょ? 普通にやったら委員長とか拓海の方が強いよ、きっと。」
「いやいや、それはねーから……俺、何度か試験で遭遇して瞬殺されてっから」
「あんた、今、自分が何を言ったか分かって……ごめん、私が馬鹿だった。あんたに常識を求める方がどうかしてるんだものね。ほら、早くしなさいよ」
失敬な。ボク程の常識人がこの学園に何人いると思っているんだ!
それと月風が何かを要求しているけど、さて?
あ、双神さんからは承認がきた。にっこりと微笑む。頑張ろうね。
「……ちょっと」
「よし、それじゃ頑張ってみようか。目標は――う~ん、そうだねぇ。取りあえず同じクラス以外は全滅させてみよう」
「……ねぇ」
「おいおい。姫、そいつは流石に厳しいんじゃないか? 全部と遭遇するのだって大変だぜ?」
「そう? みんな派手に動き回ってるし分かりやすいよ? 取りあえず、今はこんな感じだけど。ほいっと」
「「「!?」」」
空中に、立体地図を提示。そこに、光点を表示させる。
お、うちのクラスメート達はまだ健在だ。流石、しぶとい。
特別班は……また、無駄に魔法を使ってまぁ……。
二宮八家の名が泣いているね。
「一班ずつ潰していこう。まぁ、隠れている班もいるかもだけど、ほとんどは網羅出来てると思うよ」
「いやな、姫……」
「あんたねぇ……」
「先輩……」
「うん?」
「「「絶対おかしいっ!!」」」
「はいはい。君達にも出来るから。さ、委員長」
「……何だ」
う~ん、今回は思ったよりも重症だね。
まぁらしいと言えばらしい。
近付き手を取る。そして、背伸びして、頭を撫でる。
「ひ、姫野?」
声には動揺。だけど、少しの明るさ。
うん、やっぱりこっちの方がいいよね。
「一緒に証明しに行こう。ボクが知ってる森塚香澄は、才能に溺れて、遊んでいる特別班の子達よりも、ずっとずっと強いんだからっ!」
――なおこの後、某後輩が半泣きになりながら此方を恫喝するという面白エピソードもあったのだけれども、それは語らなくてもいいお話だと思う。
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